フォルクスワーゲン

キットがあるだけでも有難い…!難物レジンの「フォルクスワーゲン・タイプ3」を泣きながら作る【モデルカーズ】

完成度は高くとも世代交代は実現せず

空冷フォルクスワーゲンと言えば、モデルカーの題材としても人気の存在である。21世紀に入ってからも新規にプラモデル化されていたりするのだが、しかし、それはタイプ1(ビートル)とタイプ2に限った話で、タイプ3についてはキット化の話をとんと聞かない。新車当時のチープキットまで含めれば「皆無」と言えるかどうかは定かでないが、しっかりしたスケールモデルになったということは全くないようだ。

【画像35枚】ほとんどセミスクラッチの制作過程も含めてタイプ3を見る!

ここでお見せしているのは、そんなタイプ3を1/24スケールで再現した作品である。といって、どこかのメーカーからプラモデルが発売されたわけではなく、ほとんど個人制作レベルのフィンランド製レジンキット、しかもかなりハードな品を完成させたものだ。これは自動車模型専門誌「モデルカーズ」283号(2019年)の、空冷ワーゲン特集にて掲載された作品なのだが、以下、そこで掲載された、作例の作者・森山氏による解説をお読みいただこう。

「今回の特集、空冷VWということで、現在ではタイプ3と呼ばれております1500ノッチバックを制作いたしました。なにゆえタイプ3かというと……タイミング悪く『モデルカーズ』No.2を買い損ねた小学生の頃、代わりに手元に来た『スクランブル・カーマガジン』No.73、そこに掲載の原将人氏のインプレ記事を読んで興味を持ったものです。

VW社の苦悩の末にビートルの後継として送り出されたものの、結果としてはビートルの影に埋もれてしまったタイプ3。乗用車として進化したボクシーなセダン形状になぜか惹かれるものがあり、仕事で一度だけ運転したこともあって、ビートルより乗りやすい反面、それが没個性とも言えるな、と思ったものです。

キットは、フィンランドのエアトラックスというガレージキット・メーカーから、トランスキットとしてリリースされているものです。実質個人制作レベルとのこと、内容もまさに昔ながらの“ガレージキット”で、取り扱いショップの紹介欄には『要工作技術、根性』とまで書かれています。おいそれとはお勧めできませんが、その分かなり楽しめましたので、制作スキルに長けた方でしたら挑戦する価値はあります。

同メーカーのキットにはタイプ3カルマンやタイプ4(!)もあるらしく、またネットで検索すると海外ショップのリストには更にマニアックな車種も……。海外通販できる方でしたら、そちらで購入してみるのもいかがでしょう。

最大の魅力が最大の欠点…クルマ造りは難しいもの
そんなタイプ3の登場は1961年9月。爆発的に販売台数を伸ばしていたビートルの人気に楽観できず、むしろ危機感すら抱いたVWが、競合車種に十分に対抗できる後継車として、ユーザーから指摘された欠点を徹底的に洗い出して開発されたものでした。ボディは居住性と荷室の拡大を図り、特にエンジンを搭載するリアにも荷室を確保すべく、フラット4の特性を生かし、ビートルでは縦だったファンシュラウドを寝かせ、補器類のレイアウトも工夫。

1500ccに拡大したエンジンを搭載、フロントサスにはトーションバーをビートルに先行して採用するなど先進的な設計が施されていました。ビートルの派生モデル(やや上級)としてリリース、他社への顧客流出を防ぐとともに上級移行を兼ねた代替需要を喚起し、最終的には主力車種とするという販売戦略のもと、今で言うティザーキャンペーンに近い戦略を行いつつのデビュー。

しかし騒音とヒーターの熱量不足、そして4ドア不在という理由から販売では苦戦をしいられ、またビートルからの代替も思うほどではなかったよう。VWも手をこまねいていたわけではなく、1962年1月にはワゴンボディ(ヴァリアント)を追加、これは使い勝手のよさから市場で好評を博しました。更にツインキャブの1500Sを追加、これは1965年2月追加のファストバック、TLの登場と共に1600へ排気量アップ。

以後、3速ATや電子制御燃料噴射装置(世界初)を搭載した1600LE、TLEなども加え、1969年にはボディサイズ拡大を含むマイナーチェンジを敢行、1973年7月まで生産されました。日本にもヤナセを通じ正規輸入され、また近年では北米からの並行輸入で結構な台数が入ってきています。

ビートルの後継車問題は1974年のゴルフによってようやく解決の兆しが見えてくるのですが、タイプ3自体の販売数そのものは12年間で250万台余りと充分に成功と言えるものでした。ビートルの後継車とするには完成度が低かったわけではなく、むしろ完成度は高かったものの、使い勝手を良くしすぎたがゆえに車の個性が希薄になってしまった。それだけのことではないでしょうか?

私にすればむしろ、それこそこの車の最大の魅力であると思います。そんな思いで、スクランの記事(1964年式)とほぼ同じ、1600登場前の日本仕様・右ハンドルとして制作。実車を参考にはしたものの、個体によって細部パーツに違いがあり、元からなのか維持するためにパーツを交換したせいなのか、何が正解なのか、さっぱり判らなかったために、いくぶん正確さには欠ける仕様となっておりますことをご了承ください。

最後に、デカールを作成していただきましたSMP24様にはこの場を借りてお礼申し上げます。今回のこの作例、皆様にとって何かしらのヒントが見つかれば幸いです」

作例制作=森山琢矢/フォト=服部佳洋 modelcars vol.283より再構成のうえ転載

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