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【最新モデル10番勝負!/JUDGE 05】コンパクトハッチのベンチマークに世代交代はありうるか?「フォルクスワーゲン・ゴルフ×メルセデス・ベンツAクラス」

まさにガチンコのAクラスとゴルフ

いわゆるCセグメントは長きに渡ってVWゴルフの独壇場だった。性能的にも価格に対する商品力においても他を寄せ付けないレベルにあった。某国産メーカーの偉い人が呟いた「どんなにウチが頑張っても、どうせゴルフには勝てませんから」というぼやきは、いまでもよく覚えている。

そんな盤石な牙城に分け入ってきたのがメルセデス・ベンツAクラスだった。それでも2代目までは、ゴルフとは一線を画すパッケージと商品力で適度な距離感を保っていたものの、3代目以降はゴルフとまさしくガチンコ勝負に出てきたのである。

エンジンを横置きにした前輪駆動のハッチバックはメルセデスの歴史上初の試みで、フツーのハッチバックになった3代目の完成度は正直イマイチだった。そんなことはメルセデス自身が1番よく分かっていたようで、現行モデルの4代目では性能面でも商品力でも飛躍的ジャンプアップが図られた。いまでは当たり前となった「ハイ、メルセデス」の音声認識機能を最初に導入したのも4代目だった。通常、最新機能はSクラスなど上位モデルでお披露目するという慣習を自ら壊したことからも、メルセデスのAクラスに対する力の入れようがうかがえたのである。

「ハイ、メルセデス」でお馴染みのMBUXをはじめ、先進の安全運転支援システムなど多くの機能を搭載。最新モデルではセンターコンソールに設置していたタッチパッドを廃止し、すっきりとしたインテリアデザインに。外装色は新色のローズゴールド。

現行Aクラスの登場は’18年。その後も改良を重ね今年もマイナーチェンジを受けている。今回あらためてゴルフと比べてみて、牙城を切り崩すことができたのかどうかを考察してみた。

メルセデス・ベンツAクラスのグレードはA180とA200dの2種類しかない。要するにガソリンとディーゼル、それぞれモノグレードである。で、今回はディーゼルのA220dを選んだ。車両本体価格は558万円。

新型では内外装のデザインを刷新するとともに、ナビゲーションシステムをSクラス等に採用されている最新世代にアップデート。搭載するエンジンは1.4Lガソリン、2Lディーゼル、2L AMGガソリンの3タイプを用意。荷室容量は345~1185L。

日本仕様のゴルフは現在、諸々の仕様も含めるとなんと15種類ものグレード(ワゴンを除く)が存在していて驚いた。でもエンジンは(GTIとRを除けば)、1Lの直列3気筒ターボ、1.5Lの直列4気筒ターボ、そして2Lの直列4気筒ディーゼルターボの3種類である。こちらもディーゼルの“TDIスタイル”を選択、価格は446万3000円である。

ボディサイズは、Aクラスのほうが145mm長く10mm広く55mm背が低い。ホイールベースは2730mmで、ゴルフは2620mm。全長に占めるホイールベースの割合はAクラスが61.6%、ゴルフが61%だから、Aクラスのほうがわずかにロングホイールベースとなる。相対的にAクラスのほうが大きく、車両重量も80 kg重いけれど、最小回転半径はゴルフ(5.1m)よりもAクラス(5m)のほうが小さい。でも実際の取り回しに大きな差違はなく、浅草の裏路地でもどちらも難なく運転できた。これくらいのサイズのほうが、特に東京あたりではちょうどいい。最近のクルマはやっぱりデカすぎる。

果たして総合評価はいかに?

このボディサイスでも、大人4人がちゃんと座れるスペースが両車ともに確保されている。Aクラスの後席はサイドウインドーが天地方向に狭く閉塞感があるいっぽうで、背が高いゴルフの後席のほうが開放感がある。インテリアの質感はどちらもほぼ同レベルで、機能性も大差はない。個人的に興味深かったのはエアコンの吹き出し口の扱い。リング部を加飾してことさら主張するAクラスに対して、ゴルフはダッシュボードに溶け込ませてなるべく存在感を消そうとしている。品の良さみたいなものを感じるのはもちろん後者である。

前述の通り、エンジンはいずれも2Lの直4ディーゼルターボである。最高出力もまるで図ったかのように150psで同値。最大トルクはAクラスが320Nm/1400-3200rpm。ゴルフが360Nm/1600-2750rpm。ゴルフのほうが最大値は高いものの、Aクラスのほうが発生回転域は幅広い。特に上限は3000rpmを超えている。しかし法定速度で走行している限り、3000rpmを超えるほど回す機会はほとんどないから、ゴルフでもエンジン回転の“頭打ち”みたいな感触はなかった。

インテリアはデジタルメータークラスターのすぐ横にインフォテイメントシステムを配置し、より見やすくすっきりしたコクピットを実現。マイクロフリースを用いたスポーツコンフォートシートはホールド性も抜群。

どちらもアイドリング直後の発進時からしっかりトルクが出ていて、もたつきやレスポンスの悪さもまったく感じられない。微妙な差を感じたのは50km/h辺りの中速域からさらに加速する時だった。エンジンの反応はAクラスのほうがやや早いものの、そこから実際に速度上昇が始まるまでにわずかな間が存在する。ゴルフのほうがエンジン回転数と速度の上昇がリニアだった。原因のひとつとして考えられるのはおそらく車重だろう。ゴルフのほうがどのような場面でも軽快感が伴った。

ゴルフの軽快感は操縦性でも実感できる。どちらのステアリング特性も決してスポーティではない。ドライバーの入力にあくまでも従順に反応するタイプである。ターンインでクルマが向きを変え始めてから旋回姿勢が整うまでの過渡領域では、ゴルフのほうが軽々とスムーズに動いている印象が強い。もちろんAクラスだってもっさりなんかはしていないし、操舵応答遅れもない。両車とも正確で安定感のある操縦性を備えている。サイズのぴったり合ったスニーカーとローファーなら、スニーカーがゴルフ、ローファーがAクラスみたいな違いかもしれない。

今では当たり前になった安全装備の標準化やダウンサイジングエンジンの採用など、つねにその時代の先進テクノロジーを搭載。1.0L/1.5Lの2種類のマイルドハイブリッドとディーゼルのTDI、さらにGTI、Rといった豊富なラインナップを用意。荷室容量は380~1237L。

ウイングチップではなくローファーでも革靴には変わりないので、そこそこの高級感は漂う。Aクラスの乗り味は、ゴルフの軽快感に対して重厚感とも表現できるかもしれない。ただこの重厚感はSクラスなどのそれとはレベルが異なり、あくまでもゴルフと比べた場合である。良路での乗り心地は大差なくいずれも快適だが、路面入力によってはゴルフのほうがばね上の振動が残る。同じ路面ではAクラスのほうがしっかり減衰して振動の収束が早い。こういうところに高級感というか重厚感のような感じがほのかに香るのである。

だからといって、ゴルフよりも111万7000円分増しの高級感がAクラスにあるかどうかは微妙なところである。ドイツ車は全般的に高額になったとはいえ、Cクラスが399万円で買えた時代を知っている人間にとっては、Aクラスの乗り出し価格が600万円近いというのはちょっとどうなんだろうと思ってしまう(試乗車はオプションを含めると700万円を超えていた)。

価格も含めて総合的に評価するならば、依然としてゴルフはとても優秀だったという結論になる。1974年の初代から約50年に渡り連綿と受け継がれてきた伝統と実績は伊達ではなかった。メルセデスは近々、A/Bクラスの開発と販売を終了すると言われている。もしその噂が本当だとするならば、「やっぱりゴルフは強かった」ことも、要因のひとつになったのかもしれない。

フォト=郡 大二郎 ル・ボラン2023年9月号より転載

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