コラム

オペル「コンセプトカー60年史」が示す未来。伝説のGTから『グランツーリスモ』で走れる最新EVまで

その歴史は1965年まで遡る

オペルは、2025年9月9~14日にミュンヘンで開催される「IAAモビリティ2025」にて、最新のコンセプトカー「コルサ GSE ビジョン・グランツーリスモ」を世界初公開する。奇しくも今年は、同ブランドが1965年のIAAで、ヨーロッパのメーカーとしては初とされるコンセプトカー「エクスペリメンタルGT」を発表して丁度60年。そこで当記事では、オペルのコンセプトカーの歴史を振り返るとともに、そこに見られるブランド戦略の変遷について考えてみよう。

【画像30枚】エクスペリメンタルGTからコルサ GSE ビジョン・グランツーリスモまでを画像で確認

この60年間に発表された数々のコンセプトカーは、単なるデザインスタディにとどまらず、時代の変化に対応し、ブランドの進むべき方向性を指し示す羅針盤の役割を果たしてきた。その歴史を紐解くことは、オペルのブランド戦略の変遷と、電動化・デジタル化時代における未来への展望を理解する上で重要な示唆を与えてくれると言えるだろう。ここではまず、公開を間近に控えた「コルサ GSE ビジョン・グランツーリスモ」についてあらためて述べておく。

デジタルとリアルを融合する最新コンセプト

IAAで公開予定の「コルサ GSE ビジョン・グランツーリスモ」は、オペルの未来戦略を色濃く反映した一台だ。このモデルは、オペルとして初めてデジタルと現実世界を融合させたコンセプトカーと位置づけられている。注目すべきは、物理的なショーカーとして展示されるだけでなく、人気レーシングシミュレーター『グランツーリスモ7』内で、誰もが運転を体験できるようになる点だ。

コルサ GSE ビジョン・グランツーリスモ(2025年)

システム出力588kW(800hp)、0-100km/h加速2.0秒という驚異的な性能を誇るバッテリーEVであり、オペルの高性能サブブランド「GSE」の象徴となる存在でもある。かつてコモドールやモンツァに設定されていたグレード名にも通ずるGSEとは、グランド・スポーツ・エレクトリックの頭文字とされており、2025年内に完全電動化される予定だ。今回のコンセプトカーは、自動車ファン、特にデジタルネイティブ世代との新たなエンゲージメントを模索し、高性能EVブランドとしてのイメージを確立しようとする明確な戦略と言える。

戦略の変遷を映す歴代コンセプトカーを振り返る

さて、オペルのコンセプトカー戦略の原点は、1965年の「エクスペリメンタルGT」にある。当時、「コークボトル・シェイプ」と呼ばれたラインを採り込んだその斬新なデザインは、オペルに対する世間のイメージを覆し、大きな反響を呼んだ。この成功は、コンセプトカーがブランドイメージを刷新する強力なツールであることを証明した。

元来、市販の予定とは直接の関係を持たない試作車やデザインスタディの類を「コンセプトカー」として発表することはアメリカでよく行われていた一方、ヨーロッパのメーカーにはあまりない慣習だった。アメリカにおける古い例としては、1950年代のGMによる巡回モーターショー「モトラマ」とそこで発表された各種モデルがよく知られているが、さらに遡れば、こうしたコンセプトカーの元祖は1938年に発表されたビュイックYジョブと言われている。

オペル・エクスペリメンタルGT(1965年)

現在はステランティス・グループに属するオペルであるが、戦前から21世紀に至るまでの長い年月をGMの100%子会社として展開してきたオペルにとって、こうしたコンセプトカーを発表するのは自然なことであったものと思われる。結果として、このエクスペリメンタルGTが欧州メーカーとしては初のコンセプトカーになったとされている。

このエクスペリメンタルGTは前述の通りそのスタイリッシュなエクステリアが反響を呼び、公開の3年後にオペル1900GT/1100GTとして市販に移された。それまでどちらかと言えば地味であったオペルのイメージを大いに刷新することとなったのである。

続いて1969年には、オペル・ディプロマートをベースにした2シーターの高級クーペ、オペルCD(クーペ・ディプロマート)が発表されている。グラスファイバー製のボディ、ドアの代わりに回転式のキャノピー、マルチスポークのアルミホイール、調整可能なステアリングコラム、吊り下げ式インパネ、そして電話の受話器を備えたセンターコンソールなど、オペルCDは未来のビジョンを具体化したモデルであった。

コンセプトカーが指し示すものの変化

時代が下って、社会の関心が性能やデザイン一辺倒から、実用性や環境性能へと移ると、オペルのコンセプトカーもその方向性を変えていくこととなる。その良い例が1983年に発表された「ジュニア」であろう。これは低燃費と持続可能性に焦点を当てたモデルであり、車重650kg、空気抵抗係数0.31を達成、100kmあたり4.0Lという燃費を目指した。コルサAをベースにしたジュニアは、4人乗りのスペースと、寝袋としても使えるシートカバーなどを備えていた。

オペル・ジュニア(1983年)

さらに1993年には「スカンプ」を発表。これも小型車コルサをベースにしたものだったが、車高を上げたこのスカンプは、今日のBセグメントSUVの先駆けとも見なすことができる。市場の新たなトレンドをいち早く捉える洞察力がうかがえる。後部座席と荷室は折りたたみ式のトップで覆われておりフルオープンも可能、トランクには自転車2台やその他のスポーツ用品を安全に運ぶための装置が備えられ、そうしたアプローチが強調されていた。

2011年には「RAK e」が公開されている。これは手頃な価格の電動モビリティを提案したタンデム2シーターで、最高速度120km/h、航続距離100kmという実用性を備え、今日のシティコミューター「オペル・ロックス」の原型ともなった。これらのコンセプトカーは、オペルがデザインの革新性だけでなく、時代の要請に応じた実用性、環境性能、そして新たな市場セグメントの開拓といった、現実的な課題に常に取り組んできたことを示している。

オペルRAKe(2011年)

電動化とブランド・アイデンティティの再定義

近年のコンセプトカーは、オペルの電動化への本格的なシフトと、ブランド・アイデンティティの再定義を明確に示している。2013年の「モンツァ・コンセプト」は、コネクティビティ技術や、様々な動力源・駆動方式に対応するモジュラー設計を提示し、電動化の未来への布石を打った。

そして決定打となったのが、2023年の「オペル・エクスペリメンタル」である。このモデルは「Greenovation(グリーンイノベーション)」「Detox(デトックス)」「Modern German(モダン・ジャーマン)」というブランドの3本柱を体現。完全なEVであること、デザインを本質的な要素に絞り込むこと、そして光る「ブリッツ(稲妻)」エンブレムを初めて採用したことが特徴だ。

この光るエンブレムやOPELのワードマークは、わずか1年後には市販モデルのSUV「グランドランド」に採用されており、また同モデルは全バリエーションが電動化された初のモデルともなっていた。コンセプトカーが単なる夢物語ではなく、市販化を前提とした明確なビジョンであることを、この例が示している。

オペル・エクスペリメンタル(2023年)

オペルの次なる一手とは

エクスペリメンタルGTによるデザイン革命から60年。オペルのコンセプトカーの歴史は、社会の変化を敏感に察知し、ブランド戦略を柔軟に進化させてきた記録である。ステランティス・グループの一員となってからは特に、電動化へのシフトを加速させ、ブランド・アイデンティティをより先鋭化させている。

最新の「コルサ GSE ビジョン・グランツーリスモ」はその集大成と言えるだろう。高性能EVとしての技術力を誇示しつつ、ゲームというデジタルプラットフォームを活用することで、新たな顧客層へのアピールをも狙う。60年の伝統の上に築かれた革新性をもって、オペルが電動化時代をどう勝ち抜こうとしているのか。IAAで披露される最新コンセプトカーは、その答えを示す重要なモデルとなるだろう。

【画像30枚】エクスペリメンタルGTからコルサ GSE ビジョン・グランツーリスモまでを画像で確認

LE VOLANT web編集部

AUTHOR

注目の記事
注目の記事

RANKING