
































ミドルクラスのベンチマーク、3シリーズの歴史を振り返る
BMW「3シリーズ」は1975年の登場以来、半世紀にわたりミドルサイズクラスの絶対的な指標として君臨してきた。その歴史は、単なる1台の自動車の変遷に留まらず、スポーツセダンの概念を確立しプレミアムセグメントを牽引してきた。その3シリーズの輝かしい成功の物語を振り返る。第7回目は、6代目(F30型)3シリーズにスポット当てて紹介する。
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デジタル面での進化も顕著になった6代目
2012年初頭に第6世代のBMW3シリーズ(F30型)は登場した。同車はその市場投入とともに、ミドルサイズセグメントに数々の技術革新をもたらした。駆動系、シャシー、安全性、そしてドライバー支援システムの全てにおいて進化を遂げたのである。このセグメントで初めて8速ステップトロニックトランスミッションを搭載した車両となり、滑らかで効率的な走行を実現した。
また、運転関連情報をフロントガラスのドライバーの視線内に直接投影するBMWヘッドアップディスプレイも、競合にはないユニークな装備として注目を集めた。さらに、ドライビングエクスペリエンスコントロールスイッチとエアコンが標準装備となり、利便性と快適性が大幅に向上。リアルタイム交通情報やハンズフリーテールゲート操作、そしてインテリジェントエマージェンシーコールといった機能も用意され、安全性と利便性の両面で新たな高みへと到達した。
エクステリアデザインにおいても大きな進化を遂げた。BMWの象徴であるキドニーグリルまで伸びるスリムなヘッドライトが印象的なフロントマスクを形成し、モデル特有のスポーティなエレガンスを際立たせている。全長は93mm、ホイールベースは50mm延長され、特に後部座席の乗員に広い足元スペースを提供。トレッド幅もフロントで37mm、リアで47mm拡大され、俊敏でダイナミックなハンドリング性能に貢献した。
2012年8月に登場した「ツーリング」モデルも室内空間が大幅に拡大され、ラゲッジ容量は495リットルを確保。リアシートを倒せば最大1500リットルもの広大なスペースが出現し、電動テールゲートも標準装備とされた。
さらに、全く新しいコンセプトとして3シリーズ「グランツーリスモ」が加わった。クーペのような流麗なルーフライン、フレームレスドア、そしてアクティブリアスポイラーを持ち、セダンやツーリングより長いホイールベースと高いシートポジションが特徴である。ラゲッジ容量は3シリーズ史上最大の520リットルから1600リットルを誇り、スポーティなエレガンスと多様性を見事に融合させた。
クーペ、コンバーチブルが「4シリーズ」として派生
第6世代において、ミドルサイズセグメントにおける「駆けぬける歓び」の代名詞は、3シリーズだけのものではなくなった。新たに誕生したBMW「4シリーズ」が、その地位を共有することになったのである。これは、ミドルサイズクラスにおけるBMWのポートフォリオをふたつのモデルレンジに分割し、多様化する顧客の要求に応えるための革新的な戦略であった。
2013年初頭、デトロイトで開催された北米国際オートショーで4シリーズ「クーペ」が発表され、翌年にはリトラクタブルハードトップを備えた「コンバーチブル」が続いた。そして、BMWの最新のコンセプト革新を体現するのが、4シリーズ「グランクーペ」である。ダイナミックに伸びた輪郭、4つのドア、そして大型のテールゲートを備え、美観と実用性の両面でクラス内で際立つ存在感を示した。
第6世代の3シリーズおよび4シリーズに搭載されたガソリンおよびディーゼルエンジンは、すべてBMWツインパワーターボ技術を採用していた。セダンは4気筒および6気筒のガソリンエンジンと4気筒ディーゼルユニットで市場に参入し、カタログ燃費は4.1L/100km(24.4km/L)という驚異的な数値を誇る「320d EfficientDynamics Edition」もラインナップされた。その後、3シリーズ初のハイブリッドモデルである「アクティブハイブリッド3」が追加された。これは6気筒直列ガソリンエンジンと電気モーターを組み合わせ、システム合計出力340psを発生させた。
最終的に3シリーズセダンだけでも5つのガソリンエンジンと7つのディーゼルエンジンが選択可能となり、その出力範囲は116psから326psにまで及んだ。これらのエンジンの多くは、インテリジェント四輪駆動システム「xDrive」と組み合わせることが可能であり、このxDriveは4シリーズコンバーチブルにも初めて提供されるなど、全バリエーションで利用可能であった。
この世代がもたらした俊敏性、ダイナミクス、乗り心地の向上は、最適化されたシャシー技術とインテリジェントな軽量設計の賜物である。新型3シリーズセダンは、サイズと装備が拡大したにもかかわらず、先代モデルより約40kgも軽量化された。ダブルジョイント・スプリングストラット・フロントアクスルとマルチリンク・リアアクスルは体系的に磨き上げられ、電子制御パワーステアリング、後輪駆動、そして理想的な50:50の前後重量配分が、正確で安全なハンドリングを実現した。
モータースポーツでの輝かしい活躍
この新たなモデル配置は、高性能スポーツカーの名称にも影響を与えた。歴史ある「M3」の名称は2014年以降セダン専用となり、クーペとコンバーチブルは「M4」を名乗ることになったのである。これら3つのモデルすべてに搭載された新開発の直列6気筒Mツインパワーターボエンジンは最高出力431psを発生。名称変更こそあったものの、BMW「M」シリーズの持つモータースポーツへの近接性に何ら影響を与えるものではなかった。
その象徴的な出来事として、2012年から約20年ぶりにドイツツーリングカー選手権(DTM)に参戦していたBMWは、2014年シーズンからそれまでのM3に代わってクーペモデルの「M4 DTM」を投入。ドイツ人ドライバーのマルコ・ヴィットマンがいきなりデビューウインを飾り、そのままシーズン4勝を挙げてチャンピオンシップを獲得するなど、BMWのモータースポーツに新たな1ページを刻んだのであった。
駆動系、シャシー、安全性、そしてドライバー支援システムの全てにおいて進化を遂げた6代目3シリーズは、新たなファミリーとして加わった4シリーズと共に、プレミアムミドルクラスの新たなベンチマークとして、その存在感を世界に示したのである。
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