コラム

なぜメルセデスの「星」は固定されていないのか。マスコットすら頭を下げる、徹底した歩行者保護の論理【メルセデス安全原論 06】《LE VOLANT LAB》

シンボル・マスコットであるスリーポインテッドスターすら、可倒式(ばねつき)なので歩行者が間違って当たっても安全。メルセデス・ベンツの場合、安全のためにはマスコットすら頭を下げる。
クルマの外面の安全性とは道路を使用する他の人々を、すなわち歩行者や自転車、物を傷つけないような車体のデザイン。写真はSクラス/W126のフロントとリア。
クルマの外面の安全性とは道路を使用する他の人々を、すなわち歩行者や自転車、物を傷つけないような車体のデザイン。写真はSクラス/W126のスタイル。
写真は風洞テストによって、W126は空気抵抗の少ない丸みのある滑らかなスタイルを追求し、しかも道路使用車の安全保護をする(当時の量産車ではトップのCd値=0.36)。
サイドミラーなど尖っている部分は可倒式に、長年にわたり安全なボディデザインで歩行者保護対策。写真はSクラス/W116可倒式のサイドミラー。
メルセデス・ベンツは、歩行者や自転車走行者に対して、より安全な保護策技術を開発。具体的には視界が広く丸みのあるデザインで凹凸のないボディ設計。サイドミラーなど尖っている部分は可倒式に、長年にわたり安全なボディデザインで歩行者保護対策。写真はEクラス/W124シリーズでクーペ(手前)、セダン(中央)、ステーションワゴン(後ろ)。
メルセデス・ベンツは、歩行者や自転車走行者に対して、より安全な保護策技術を開発。具体的には視界が広く丸みのあるデザインで凹凸のないボディ設計。サイドミラーなど尖っている部分は可倒式に、長年にわたり安全なボディデザインで歩行者保護対策。写真はEクラス/W124シリーズでクーペ(手前)、セダン(中央)、ステーションワゴン(後ろ)。
風洞テストによって、W124は空気抵抗の少ない丸みのある滑らかなスタイルを追求し、しかも道路使用車の安全保護をする。
写真は風洞テストのコントロール室。
筆者は現役時代、毎朝メルセデス・ベンツの店用車や日本仕様のカタログ撮影車を手で洗車。尖った部分で手を傷つけた経験はなかった。写真は日本仕様のW123セダン。
筆者は現役時代、毎朝メルセデス・ベンツの店用車や日本仕様のカタログ撮影車を手で洗車。尖った部分で手を傷つけた経験はなかった。写真は日本仕様のカタログW123セダンの室内。
筆者は現役時代、毎朝メルセデス・ベンツの店用車や日本仕様のカタログ撮影車を手で洗車。尖った部分で手を傷つけた経験はなかった。写真は日本仕様のW123カタログ表紙。
メルセデス・ベンツの外的安全性はきめ細かく設計され、ボディの隅々にはホイールに至るまでシャープに尖った部分がなく丸みを帯び、ていねいに仕上げられている。写真はW123セダンの前後ドアオープン。
メルセデス・ベンツの外的安全性はきめ細かく設計され、ボディの隅々にはホイールに至るまでシャープに尖った部分がなく丸みを帯び、ていねいに仕上げられている。写真はアルミホイールのアップ。
フロントバンパーは歩行者と最初に接触することが多いため、発泡材を詰めた埋め込み型の衝撃吸収構造を採用。写真はW126のフロントバンパーの衝撃吸収構造図面。
メルセデス・ベンツは歩行者保護のため、ボンネットに補強材を使用していない。写真左側はボンネットに歩行者が乗り上げた場合の図面。写真右側は自転車が「ヘッドライトユニット」に当たった場合の図面。
写真はボンネットに歩行者が乗り上げた場合の図面のアップ。
1969年には、実際の事故現場に急行して被害状況を調査し、事故原因を分析・研究する事故調査活動が開始された。
1969年には、実際の事故現場に急行して被害状況を調査し、事故原因を分析・研究する事故調査活動が開始された。
2009年5月発売のEクラス/W212には、「アクティブボンネット」を採用。歩行者と衝撃が発生すると、フロントバンパー内のセンサーが感知し、スプリング式のエンジンフードの後端が瞬時にして約5cm持ち上がる。従って、エンジンフードとエンジン間の空間が広がり、歩行者が受ける衝撃をさらに緩和。写真はボンネットに衝撃を加えたテスト。
2009年5月発売のEクラス/W212には、「アクティブボンネット」を採用。歩行者と衝撃が発生すると、フロントバンパー内のセンサーが感知し、スプリング式のエンジンフードの後端が瞬時にして約5cm持ち上がる。従って、エンジンフードとエンジン間の空間が広がり、歩行者が受ける衝撃をさらに緩和。写真はボンネットに衝撃を加えたテスト。
2009年5月発売のEクラス/W212には、「アクティブボンネット」を採用。歩行者と衝撃が発生すると、フロントバンパー内のセンサーが感知し、スプリング式のエンジンフードの後端が瞬時にして約5cm持ち上がる。従って、エンジンフードとエンジン間の空間が広がり、歩行者が受ける衝撃をさらに緩和。写真はボンネットが約5cm持ち上がった後部のアップ。
シンボル・マスコットであるスリーポインテッドスターすら、可倒式(ばねつき)なので歩行者が間違って当たっても安全。メルセデス・ベンツの場合、安全のためにはマスコットすら頭を下げる。
スリーポインテッドスターは実際、手で押すと可倒式(ばねつき)なので曲がる。
1956年の180/W120ポントン以来、このスリーポインテッドスターは可倒式を採用し、人が当たっても安全であることを最重要視。写真は180/W120ポントン。
1956年の180/W120ポントン以来、このスリーポインテッドスターは可倒式を採用し、人が当たっても安全であることを最重要視。写真は180/W120ポントン。
洗車時に「スリーポインテッドスター」をよく眺めてみると、ラジエターグリルの縁から立っているのではなく、その外側、つまりボンネットの塗装面にあることに気づく。実は1991年のSクラス/W140から採用。写真はブルーカラー。
洗車時に「スリーポインテッドスター」をよく眺めてみると、ラジエターグリルの縁から立っているのではなく、その外側、つまりボンネットの塗装面にあることに気づく。実は1991年のSクラス/W140から採用。写真はシルバーカラー。
全てのメルセデス・ベンツのドア・アウターハンドルは握りやすく、力が入りやすいグリップ形状を採用している。
全てのメルセデス・ベンツのドア・アウターハンドルは握りやすく、力が入りやすいグリップ形状を採用している。写真は最新のシームレスドアハンドルを握っているショット。
1958年に特許を取得したウェッジ(くさび型)・ピンロックはドアロックをしていない状態で衝撃を受けてもドアは開かない構造であった。
1958年に特許を取得したウェッジ(くさび型)・ピンロックはドアロックをしていない状態で衝撃を受けてもドアは開かない構造であった。写真はその特許証明書。
1991年のSクラス/W140からのメルセデス・ベンツは、ドアをリモコン・キー操作で簡単に開閉が出来るので便利。材質と技術革新でドアロックの形状は以前より「大型カギ状ロック」と「大型キャッチ」になり、しっかりとドアが閉まる。写真はモダンなエレクトリックキー(Sクラス/W223)。
Sクラス/W223のドアロック形状はドア側の「大型カギ状ロック」。
Sクラス/W223のドアロック形状はピラー側の「大型キャッチ」でしっかりとドアが閉まる。
最新のドアハンドルの形状は、2020年9月2日のSクラス/W223で一段とスタイリッシュに。特筆すべきは、モダンなエレクトリックキーを持って車両に近づくと、ドアハンドルが自動的にせり出すポップアップタイプの「シームレスドアハンドル」を採用したことで、これは道路使用者の保護対策でもある。写真はSクラス/W223。
最新のドアハンドルの形状は、2020年9月2日のSクラス/W223で一段とスタイリッシュに。特筆すべきは、モダンなエレクトリックキーを持って車両に近づくと、ドアハンドルが自動的にせり出すポップアップタイプの「シームレスドアハンドル」を採用したことで、これは道路使用者の保護対策でもある。写真はSクラス/W223。
格納式ドアハンドルを引っ張るだけでドアが開けられ、走り出すと自動で格納。しかも、万が一の事故の際は自動でせり出し、外部から引っ張って開けることができる。この格納式ドアハンドルは優れた空力特性と静粛性を確保しドアミラーやボディ各部の徹底したシーリング等と相まって、省燃費にも大いに貢献。写真はポップアップタイプの「シームレスドアハンドル。
格納式ドアハンドルを引っ張るだけでドアが開けられ、走り出すと自動で格納。しかも、万が一の事故の際は自動でせり出し、外部から引っ張って開けることができる。この格納式ドアハンドルは優れた空力特性と静粛性を確保しドアミラーやボディ各部の徹底したシーリング等と相まって、省燃費にも大いに貢献。写真はポップアップタイプの「シームレスドアハンドル。
格納式ドアハンドルを引っ張るだけでドアが開けられ、走り出すと自動で格納。しかも、万が一の事故の際は自動でせり出し、外部から引っ張って開けることができる。この格納式ドアハンドルは優れた空力特性と静粛性を確保しドアミラーやボディ各部の徹底したシーリング等と相まって、省燃費にも大いに貢献。写真はポップアップタイプの「シームレスドアハンドル前後。

6 事故の被害を最小限に抑える受動的安全性:対人・対物に安全な設計をする外的安全性

メルセデス・ベンツの象徴としてボンネットに輝く「スリーポインテッドスター」。実はあの立体マスコットが固定されておらず、手で押すと簡単に倒れるようになっているのをご存知だろうか。

メルセデスの安全性に関する揺るぎない設計思想と技術の系譜を紹介する本連載。今回からは、事故の被害を最小に抑える「受動的安全性(パッシブセーフティ)」について取り上げる。

【画像39枚】伝説のW124やW126の風洞実験、180ポントンの可倒式マスコット。貴重なアーカイブ写真で辿る、メルセデス・ベンツ「安全デザイン」の変遷

受動的安全性は、乗員を守るクルマの内部の「内的安全性」と、歩行者などクルマの外を守る「外的安全性」に分けて考えられており、自動車がまだ青写真の段階にあるときから考慮すべき重要な要素だ。今回はクルマの外、すなわち対人・対物に安全な設計である「外的安全性」について解説する。「マスコットすら頭を下げる」徹底した歩行者保護から、日常の洗車時に手を傷つけない緻密なボディ設計まで、その奥深い論理に迫る。

手洗い洗車でも手を傷つけない。徹底して「角」を排除したボディ設計

筆者は現役時代、毎朝メルセデス・ベンツの店用車や日本仕様のカタログ撮影車を手で洗車していたが、尖った部分で手を傷つけた経験はなかった。メルセデス・ベンツの外的安全性はきめ細かく設計され、ボディの隅々、ホイールに至るまでシャープに尖った部分がなく丸みを帯び、ていねいに仕上げられている。よく考えてみると、四角い尖ったコップを洗うよりも丸いコップを洗うほうが安全である。

サイドミラーなど尖っている部分は可倒式に、長年にわたり安全なボディデザインで歩行者保護対策。写真はSクラス/W116可倒式のサイドミラー。

Sクラス/W116の可倒式のサイドミラー。

自動車以外の道路使用者の保護はきわめて重要な課題である。つまり、メルセデス・ベンツは、歩行者や自転車走行者に対して、より安全な保護策技術を長年にわたって開発してきた。具体的には視界が広く丸みのあるデザインで凹凸のないボディ設計である。サイドミラーなど尖っている部分は可倒式にし、長年にわたり安全なボディデザインで歩行者保護対策をしている。

あえてボンネットを補強しない? 歩行者を守る「沈み込む」衝撃吸収メカニズム

メルセデス・ベンツのボディには、道路使用者を傷つけないために具体的な保護対策をした外的安全設計が施されている。フロントバンパーは歩行者と最初に接触することが多いため、発泡材を詰めた埋め込み型の衝撃吸収構造を採用。ダメージを少しでも軽減し、負傷を最小限に抑えるようになっている。加えて、合わせガラス製のフロントガラス、可倒式サイドミラー、丸みを帯びたドアハンドル、埋め込み式フロントガラスワイパー等があり、長年にわたって優れた歩行者保護を施している。

「ヘッドライトユニット」は、ボディへの取り付けをステー構造にしている。このステーは十分な強度を確保しながらも、衝突の際には容易に破損するように設計されており、歩行者の安全性を高めている。つまり、衝突の際に押されると、ヘッドライトユニットがボディ内側に押し込まれるように設計されている。そのため、自転車と接触した時でも、ヘッドライトユニットが緩衝材となり、効果的に衝撃を和らげることができる。

2009年5月発売のEクラス/W212には、「アクティブボンネット」を採用。歩行者と衝撃が発生すると、フロントバンパー内のセンサーが感知し、スプリング式のエンジンフードの後端が瞬時にして約5cm持ち上がる。従って、エンジンフードとエンジン間の空間が広がり、歩行者が受ける衝撃をさらに緩和。写真はボンネットに衝撃を加えたテスト。

2009年5月発売のEクラス/W212には、「アクティブボンネット」を採用。写真はボンネットに衝撃を加えたテスト。

また、メルセデス・ベンツの事故調査によると、歩行者はボンネットで頭部を強打して負傷するケースが多いことが判明。これは、ほとんどのクルマがボンネットの裏側に補強をしているので起こる。メルセデス・ベンツは歩行者保護のため、ボンネットに補強材を使用していない。例えば、Cクラスセダン/W204では、歩行者の頭部がボンネットに当たった場合は、ある程度変形するように設計している。ボンネット内の変形部分は、エンジン、ストラットタワー(フロント・サスペンション上部)、各リザーバータンク、制御ユニットの位置を下げ、ボディまでの空間を確保することで拡大している。

また、2009年5月発売のEクラス/W212には、歩行者の安全性をさらに高めるため、「アクティブボンネット」を採用。歩行者と衝撃が発生すると、フロントバンパー内のセンサーが感知し、スプリング式のエンジンフードの後端が瞬時にして約5cm持ち上がる。従って、エンジンフードとエンジン間の空間が広がり、歩行者が受ける衝撃をさらに緩和している。

安全のためにはマスコットすら頭を下げる。「星」に隠されたもう一つの役割とは

また意外なものまで、安全に設計してある。あのシンボル・マスコットであるスリーポインテッドスターすら、可倒式(ばねつき)なので歩行者が間違って当たっても安全だ。メルセデス・ベンツの場合、安全のためにはマスコットすら頭を下げるのである。1956年の180/W120ポントン以来、このスリーポインテッドスターは可倒式を採用し、人が当たっても安全であることを最重要視している。

スリーポインテッドスターは実際、手で押すと可倒式(ばねつき)なので曲がる。

スリーポインテッドスターは実際、手で押すと可倒式(ばねつき)なので曲がる。

洗車時に「スリーポインテッドスター」をよく眺めてみると、ラジエターグリルの縁から立っているのではなく、その外側、つまりボンネットの塗装面にあることに気づく。実は1991年のSクラス/W140から採用されている。昔はラジエターキャップが露出しており、その上にマスコットを立てキャップを回しやすくするという機能に加え、メーカーのシンボルを誇っていた。ラジエターがボンネットに完全に収納されるようになっても、このマスコットはシンボルとして生き残ってきた。

では、このマスコットは全くの飾りにすぎず、機能を持たないのであろうか?

この記事はLE VOLANT LAB会員限定公開です。
無料で会員登録すると続きを読むことができます。

フォト=メルセデス・ベンツAG、妻谷コレクション

注目の記事
注目の記事

RANKING