夜空の星々とキツネを隠し持つ超高級車
ブガッティは2026年5月28日、同社のパーソナライズプログラム「シュール・ムジュール(Sur Mesure)」により制作されたワンオフのロードスター「W16ミストラル ‘Le Retour du Jeune Prince’(ル・ルトゥール・デュ・ジュヌ・プラーンス)」を公開した。
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顧客自身によるストーリーを反映した1台
このW16ミストラルは、あるブガッティ・コレクターが個人的に思い描いたストーリーと、ブガッティのデザインチームによる視覚的解釈を融合させたモデルであり、地球、月光、星をモチーフとしたものである。また、このコレクターによるストーリーは、著名な文学作品から発想されたものだ。
このプロジェクトは2023年10月、フランス・モルスハイムにおいて、シュール・ムジュールおよびパーソナライズ担当マネージャーのヤシャ・ストラウブ氏と、顧客であるブガッティ・コレクター氏との面会から始まった――複数のコンセプトやカラーサンプルの検討、色調や雰囲気に関する綿密なディスカッションを経て、一つの方向性が決定されたのである。
コレクター氏が選んだテーマは、月の持つ詩的な美しさや輝きであった。彼自身によるストーリー『Le Retour du Jeune Prince(若き王子の帰還)』は、アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリの小説『星の王子さま』にインスパイアされたもので、その続編として構想されている。それは、若き王子が月から地球へと帰還する壮大な物語であった。
そこで、この車両のコンセプトは、この『若き王子の帰還』というストーリーへのオマージュとして決定された。車両のデザインもこのストーリーラインに沿って構築されることとなったのだ。
月と地球を表現した専用カラー、精巧なギミック
ブガッティのデザインチームは、この架空の世界を車体上に表現するため、専用のカラーウェイを開発した。ボディカラーは、月の光を連想させるアースカラーを基調に、銅や青銅の色合いと温かみのある輝きを持たせた、高金属感のメタリック仕上げが特徴である。光の変化によってドラマチックに表情を変え、W16 ミストラルの造形を一層際立たせている。
ブランドを象徴する3D馬蹄形グリルの内部ラインは、ボンネットのダイナミックな上向きの流れに追従するよう再デザインされ、車両全体の統一感に貢献。また、グリルの「ブガッティ・マカロン(エンブレム)」の輪郭はゴールド仕上げとなり、足元には銅製のブレーキキャリパーと、ホイールセンターにお揃いの「EB」エンブレムが配されている。
そしてリアフェンダーからリアウイング上面にかけては、レイヤリングと微調整を重ねる複雑なプロセスを経て、銀色の星々による星座がハンドペイントで描かれている。さらに、可動式エアブレーキが展開した際には、発想の大元である『星の王子さま』の最も有名なシーン、「王子とキツネ」を再解釈したグラフィックが現れるという、心憎い演出も施されているのだ。
2色のレザーと精緻なディテールによる物語空間
室内もその物語性を継承し2色のレザートーンで構成。すなわち、明るく輝きのある「テール・ドール(Terre d’Or)」と、濃色で落ち着きのある「ドリフトウッド(Driftwood)」の、2色のレザーである。前者を使用したドアパネルには、月を描いた刺繍レザーのインレイと、ステッチによる星のモチーフをあしらった。エクステリアと同じ星をモチーフにしたディテールは、手縫いのヘッドレストや、ブラウンカーボン織りのセンターコンソールにも象嵌されている。
そして最も特徴的な要素の一つが、シフトノブの内部に収められた、精巧な銀のバラである。これは本物の花を3Dスキャンしてミニチュアサイズに彫刻したもので、『星の王子さま』への直接的なオマージュであると同時に、優しさや追憶の象徴として、この車両のテーマ性を強める役割を果たしている。
シュール・ムジュールの結晶
W16ミストラル ル・ルトゥール・デュ・ジュヌ・プラーンスは、アースカラーのボディから手作業による星のペイント、ドアの月の刺繍やカーボンの象嵌、そしてシフトレバーのバラにいたるまで、内外装がひとつの物語の「2つの章」として機能するよう統制されている。単なる高性能スポーツカーの枠を超え、顧客の想像力とブランドの職人技を融合させた、ブガッティ・シュール・ムジュール・プログラムの結晶と言えるだろう。
【ル・ボラン編集部より】
16気筒・4基のターボが咆哮する1600psのパワーユニット。その圧倒的な暴力性と、夜空の星々や『星の王子さま』という極めて詩的な浪漫が破綻なく同居している点に、ブガッティの深淵を見る。かつて航空機エンジンも手掛けた同社の系譜を思えば、飛行士でもあったサン=テグジュペリの物語をまとうのは必然の帰結だろう。単なる成金趣味に陥らず、途方もない内燃機関の熱エネルギーを静謐な芸術作品へと導く手腕は、W16エンジンの終焉を飾るにふさわしい。
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