コラム

【スバル最前線】BEV・ICE・トヨタ車が混在!? 矢島工場の「超・混流生産」とバッテリー内製化の全貌

タクトタイムを落とさずBEVとICEを混流

世界的なBEVシフトのペースダウンなど、自動車産業は今、先の見通しが極めて難しい不確実性の只中にある。そんな中、スバルは次代を見据えた極めて精緻かつ柔軟な生産体制を報道陣に公開した。舞台は、同社の主力拠点である群馬県・矢島工場。そこでは、スバル車とトヨタ車、さらにはBEVと内燃機関(ICE)モデルが同一ラインを流れるという、驚異的な「混流生産」が行われていた。【画像26枚】スバルとトヨタ、BEVとエンジン車が同じラインに!? 矢島工場の「混流生産」の凄さを見る

BEVと内燃機関、ブランドの垣根さえも越境する生産ライン

2026年4月に発表され、すでに月販目標の約4倍となる好調な立ち上がりを見せているスバルの新型BEV「トレイルシーカー」。ソルテラに続く第2のBEVとして注目を集めるこのミドルサイズSUVの生産を担うのが、東京ドーム12個分の敷地面積を持つ矢島工場だ。このマザー工場の真骨頂は、その卓越したフレキシビリティにある。メインの組み立てラインを覗くと、トレイルシーカーの直後をアライアンスの兄弟車であるトヨタ「bZ4Xツーリング」が流れ、さらには右ハンドル車と北米向けの左ハンドル車がパズルのように混在している。

BEVの開発・生産に関わる莫大な投資リスクをトヨタとの協業によって巧みに抑制しつつ、足元で確実な需要を誇るICEモデルへと開発リソースを最適配分する。市場のトレンドがどう転んでも利益を創出するコスト構造改革「原価維新20-30」を掲げるスバルにとって、このしたたかな戦略を現場レベルで支えているのが、矢島工場における「混流生産」なのだ。

ハードウェアの違いをアイデアで凌駕するスバルの現場力

プラットフォームもアーキテクチャも異なるBEVとICEを同一ラインで流すのは、決して容易なことではない。例えば、サスペンションの組み付け手順やマウント位置は両者で決定的に異なる。

スバルはこの難題を、固定位置を自動で変更できる「可動式基準」となるベース設備を開発することでクリアした。さらに、マフラーの取り付けや燃料タンク周辺といったICE特有の架装工程をライン端に集約させることで、全体のタクトタイムを落とさずに異なるパワートレインの混流を成立させている。来る2026年8月には、主力SUV「フォレスター」もこのラインに合流し、本格的な混流生産がスタートするという。

また、変革はラインの外にも及んでいる。トヨタとの協業で増加した中京圏サプライヤーからの部品調達に対し、スバルは現地に「集約倉庫」を新設。荷物をまとめてから長距離輸送を行う「混載輸送」を実施することで、群馬までのトラック運行台数を半減させるというスマートなロジスティクス改革をも成し遂げた。

BEVの心臓部も自社で。矢島工場内に組み込まれた「バッテリー工場」

そして、クルマの電動化において最大のボトルネックとなるバッテリー供給に関しても、矢島工場は極めて重要な役割を担っている。パナソニック エナジーなどとの協業による高容量の円筒形リチウムイオン電池の調達に加え、スバルは矢島工場の敷地内に専用の「バッテリー工場(パッケージングライン)」を新設し、セルからバッテリーパックへの組み付けを自社で行う体制を構築したのだ。

重量物であり輸送コストのかさむバッテリーパックを、最終組み立てを行う矢島工場内で直接製造・供給することは、究極の「ジャスト・イン・タイム」であり、極めて効率的なサプライチェーンを実現する。さらにこれは、単なる物流の最適化にとどまらない。車体骨格とバッテリーパックを高度に統合させてボディ剛性を引き上げる、次世代BEVのプラットフォーム設計にも直結する重要なプロセスである。

かつて「水平対向エンジン」というコア技術を自らの手で組み上げてきたように、BEV時代におけるクルマの“心臓部”もまた、この矢島工場でアッセンブルし、緻密に品質をコントロールしていく。スバルのエンジニアリングに対する執念が、ここにも息づいている。

「トリプルハーフ」で次世代へ。大泉新工場が描くSDV時代のファクトリー

矢島工場で磨き上げられた「超・混流生産」のノウハウと、バッテリーパックの内製化技術は、現在建設が進む大泉新工場へと結実していく。新工場が掲げるコンセプトは「進化し続ける工場」。クルマがソフトウェアの更新で機能拡張されるSDV(Software Defined Vehicle)の時代に呼応するように、工場自体も設備のソフトウェアを書き換えるだけで新型車へ柔軟に対応する体制を目指している。

ここでスバルは、「つくる時間」「開発期間」「部品点数」をそれぞれ半減させる「トリプルハーフ」という野心的な目標に挑む。変動要素の大きい作業はサブ工程へ切り出してモジュール化し、メインラインへと合流。さらにすべての工程を機械任せにするのではなく、自ら状況を判断して動作する次世代の「フィジカルAI」ロボットを導入し、人と自働化の最適解を追求する。

スバルの本工場、矢島工場、そして大泉工場はわずか4km圏内に密集しており、一本の道で繋がっている。この地の利を最大限に活かし、バッテリーの組み付けから完成車までを一気通貫で仕立て上げるのが彼らの青写真だ。

1950年代のスバル360から脈々と受け継がれる「スバル流モノづくり」は今、トヨタとのアライアンスで培った技術と最先端のデジタル技術を掛け合わせることで、次なる次元へと確実にシフトしようとしている。
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LE VOLANT web編集部

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