




























「もっといいクルマづくり」を体現するトヨタの新たな前線基地
愛知県豊田市と岡崎市にまたがる広大な山間部にトヨタ自動車の未来を担う「Toyota Technical Center Shimoyama(TTC-S/トヨタテクニカルセンター下山)」がある。ここは、2024年3月に全面運用を開始したトヨタの開発拠点。2026年5月にこの施設をあらためてメディアに公開し、「もっといいクルマづくり」というコンセプトを掲げた、その現場となる最前線を披露した。
【画像29枚】3000人のエンジニアが集う巨大ガレージへ潜入! トヨタ「下山(TTC-S)」の全貌を写真で隅々まで見る
豊かな里山に広がる、テストコースを超えた「クルマを鍛える場」
現地を訪れてまず感じるのは、その規模の大きさ。敷地面積は約650ヘクタール(東京ドーム138個分)。その大部分に豊かな自然が残されており、研究開発施設でありながら里山と共生する独特の空気感をもつ。ここは単なるテストコースではない。トヨタが長年追い求めてきたクルマづくりの思想そのものを具現化した場所だ。
TTC-Sの原点は、トヨタ自動車のマスタードライバーを務めた、故・成瀬弘氏が語った「道がクルマをつくる」という考え方にある。厳しい道を走り、課題を見つけ、その場で直し、再び走る——。このサイクルを繰り返すことでクルマは磨かれていく。豊田章男氏が「なぜニュルブルクリンクでしかできないことが日本でできないのか」と抱き続けた思いが、この施設誕生の出発点となった。
構想開始から約30年。2018年の着工を経て、ついに完成したTTC-Sは、「走る・壊す・直す」を一気通貫で行える世界でも類を見ない開発拠点となった。
高低差75mの「日本のニュル」と、開発陣が集う巨大ガレージ
施設の象徴ともいえるのが、世界一過酷と言われるニュルブルクリンクを参考に設計された全長約5.3kmのカントリー路だ。高低差75m、多彩なコーナーが連続するコースは下山の自然地形を活かして作られている。さらにダートコースや高速評価路、特殊路面を再現した評価施設も備えられ、さまざまな環境で車両を鍛え上げることができる。
しかもTTC-Sの本当の特徴はコースだけではない。開発棟に足を踏み入れると、その思想がより鮮明に見えてくる。広大なワンフロア空間には、企画、デザイン、設計、試作、評価、整備といった各部門が集結。約3000人にも及ぶ開発メンバーが同じ空間で連携しながらクルマづくりを進めている。
1階にはテスト車両を最大40台収容できる整備フロアがあり、コースで見つかった課題をその場で修正できるうえ、2階ではエンジニアがデータを分析し改善策を検討する。3階にはデザイン部門が配置され、クレイモデルからデジタルレビューまでを一体的に実施する。コースを走り、ガレージで直し、フロアで議論し、再びコースへ向かう。この循環こそがTTC-Sの価値であり、「もっといいクルマづくり」を支える中核となっている。
異なるブランドが交差する開発フロアと、ヴェールを脱いだ新型TZ
興味深いのは、レクサスとGRという異なるブランドが同じ拠点を共有している点だ。上質さを追求するラグジュアリーのレクサスと、走る歓びを追求するGRが肩を並べ、異なるコンセプトをもつ開発チームが互いに刺激を与え合うことで、新たな発想や技術革新が生まれる環境が整えられている。
今回の公開では、この施設で鍛え上げられた新型レクサスTZも披露された。レクサス初のBEV 3列シートSUVとして登場するTZは、「Driving Lounge」をコンセプトに開発されたモデルである。快適な移動空間とレクサスらしい走りを高次元で両立させるため、エンジニアやデザイナー、メカニック、テストドライバーが一体となり、TTC-Sで何度も「走る・壊す・直す」を繰り返して完成度を高めてきたという。
自然と共生し、クルマと人を鍛える「未来へのテストコース」
さらにトヨタは、この拠点を未来のモビリティ社会に向けた実証の場としても活用している。単なる開発施設ではなく、未来の交通インフラや地域共生を見据えた実験場としての役割も担う。また、環境への配慮も徹底している。敷地の約6割で既存の森林を保全し、新たな緑地整備も実施。環境学習センターでは地域住民との交流も行われており、開発と自然保護の両立を目指している。
TTC-Sは、生産工場ではない。しかし、ここで生まれたクルマは世界中の道を走り、多くの人々の暮らしを支えることになる。「道がクルマをつくり」「クルマをつくる人を鍛える」という、豊田章男会長の狙い通り「下山の道がクルマをつくる」のである。
30年という長い歳月をかけて完成したこの施設は、単なる研究開発拠点に収まらない。トヨタが未来に向けて掲げる「もっといいクルマづくり」の象徴であり、その哲学を次世代へ受け継ぐための原点でもある。現地で見たのは、技術の最前線だけではなく、クルマを鍛え、人を鍛え、そして未来を鍛える場所そのものだった。




