
















総計137片の貝殻を手作業で配置
ロールス・ロイス・モーター・カーズは2026年9月15日、ある顧客が夫人へと捧げる意味で製作されたビスポーク車両、「Phantom Hummingbird(ファントム・ハミングバード)」を発表した。
【画像17枚】これはもはや走る芸術品。孔雀貝でハチドリを描く特注モデルの全貌を見る
ハチドリの強さとしなやかさを体現する1台
本モデルは、ファントム・エクステンデッドをベースとするプライベート・コミッションであり、ロールス・ロイス・プライベート・オフィス・ドバイを通じて具現化されたビスポーク作品である。喜びやしなやかな強さ、そしてあらゆる瞬間の中に美を見出す力を象徴するハチドリにちなみ名付けられたこの1台は、自然界が織りなす精緻で繊細な美を讃えるために構想されたという。
この車両には、ロールス・ロイス史上初めての試みとなるアバロンシェル(孔雀貝)を用いたマルケトリー(象嵌細工)が採用されている。アバロンシェルは、その自然な虹彩色の輝きで知られる素材であり、貝殻の内側にある真珠層が光を受けて特徴的な青緑色の光沢を放つ。これをマザー・オブ・パールと組み合わせることで、特に鮮やかな色彩で知られるハチドリのきらめく羽を表現したとのこと。
ハチドリの鮮やかな色彩は、羽毛内部に存在する微細な構造が小さなプリズムのように光を分散・反射することで生まれ、見る角度によってさまざまな色の輝きを見せる。エクステリアのコーチラインには手描きのハチドリがあしらわれている。
マルケトリー:自然が生み出す虹彩の輝きを表現
この繊細なマルケトリーは、2つの異なるデザインで表現されている。左右のピクニック・テーブルには飛翔するハチドリが描かれ、それぞれ53片のアバロンシェルとマザー・オブ・パールのパーツで構成。そのうち翼部分だけでも18片のパーツが使用されているという。また、後席中央のリア・ウォーターフォール・パネルには、84片から成る植物モチーフが広がっている。
このデザインの開発には、構想から完成まで9か月以上を要したという。アバロンシェルは非常に薄く繊細で、割れやすい特性を持つため、この素材を扱うことは職人たちにとって大きな挑戦となった。ビスポーク・コレクティブのデザイナー、エンジニア、そして職人たちは開発期間の大半を費やして、各パーツの切り出し、仕上げ、そしてベニヤへのはめ込み方法を追求したのだ。
適切な技法を確立するまでには、6回に及ぶ試作を必要とした。最終的に採用された工程では、まずマザー・オブ・パールとアバロンシェルの厚みを慎重に薄く加工し、それぞれの断片をベニヤの中に確実かつ繊細に埋め込めるようにしていく。そしてラッカー仕上げを施すことで、素材本来の美しさを引き出すとともに、世代を超えて受け継がれるロールス・ロイスに求められる耐久性との両立を実現。
アバロンシェルおよびマザー・オブ・パールの各パーツは、レーザー加工時に生じる微細な焼損分を考慮し、完成寸法より0.06mm大きくレーザーカット。その後、職人の手作業によって正確な形状へと仕上げられていった。各パーツの縁は、隣接するパーツとの継ぎ目が見えなくなるまで、丹念に仕上げられていく。とりわけハチドリの翼のように極めて精緻な組み付けが求められる部分において、欠かすことのできない工程とされる。
こうしてすべてのパーツを切り出して組み付けた後、ピクニック・テーブルとリア・ウォーターフォール・パネルの仕上げにはさらに8時間を要した。3つのパネル全体の制作時間は合計45時間に及んだという。
自然が育んだカラーパレットによるインテリア
インテリア・スイートのカラーパレットは、アバロンシェル・マルケトリーを美しく引き立てるよう、細部まで丹念に選び抜かれた。3つのマルケトリー・パネルすべてのベースには「アッシュ・バール(Ash Burr)」を採用。また、ピクニック・テーブルのモチーフには、デザインを構成する重要な要素として「シルバー・バーチ(Silver Birch)」が用いられている。
シルバー・バーチは、木目の表情がデザイン全体と美しく調和するよう、厳選された一本の原木を入念に確認したうえで、すべてのパーツを同じ原木から切り出したそうだ。
シートには「クリーム・ライト(Creme Light)」のレザーを採用し、「モカシン(Moccasin)」および「タン(Tan)」のディテールを組み合わせた。足元には「シーシェル(Seashell)」カラーのカーペットを配し、スターライト・ヘッドライナーを組み合わせ、優雅かつ洗練された室内空間の創出を目指した。
仕上げのディテール:テーマを継承するエクステリア
インテリアのテーマと呼応するように、ボディ下部には「ワイルドベリー(Wildberry)」、上部には「ホワイト・サンズ(White Sands)」を配したツートーン仕上げを採用。2色の境界を彩るホワイト・サンズのコーチライン上には、車体に沿って飛翔するハチドリが描かれ、この一台を貫く自然のテーマを印象的に表現している。
「自然界は常に、ロールス・ロイスのビスポークに尽きることのないインスピレーションを与えてきました。そこに息づく美しい造形や豊かな色彩は、デザイナーや職人たちの想像力をかき立て、新たな表現へと導いています。お客様は絶えず、そうした自然からのインスピレーションを、これまでにない意外性に満ちた方法で探求する機会を私たちに与えてくださいます。この特別なプライベート・コミッションは、まさにその好例です」
「アバロンシェルをロールス・ロイスのマルケトリーに初めて取り入れる試みは、デザイナーや職人たちに新たな芸術面・技術面での挑戦をもたらしました。その成果が、見る者を魅了するハチドリの姿を優雅に表現した1台です」
ロールス・ロイスのヘッド・オブ・ビスポーク、フィル・ファーブル・ドゥ・ラ・グランジュ氏は、このファントム・ハミングバードについて、上記のようにコメントしている。
【ル・ボラン編集部より】
ファントムは100年もの間、乗員を外界の振動から完全に隔離し、極めて堅牢で平穏な空間を提供し続けてきた。その揺るぎない「永遠性」を担保するシャシーの内に、割れやすく繊細な孔雀貝を用いて、自然界の儚きハチドリを描き出すアプローチは実に興味深い。絶対的な静寂と強靭さを備えた要塞のような空間だからこそ、もろく刹那的な美しさがこれほどまでに際立つのである。単なるスペックや快適性の追求をとうに終えた頂点のブランドだけが形にできる、もはや哲学的な境地だ。
【画像17枚】これはもはや走る芸術品。孔雀貝でハチドリを描く特注モデルの全貌を見る


