国内試乗

【比較試乗】知る人ぞ知るマクラーレンの存在「570Sクーペ」 と「 720Sスパイダー」

2010年の設立以来、毎年販売台数の新記録を更新し続けるマクラーレン。スポーツ、スーパー、およびアルティメットといったシリーズ展開で、全世界30のマーケットで販売されている。そんな中、2018 年における日本での販売台数は世界4位(2019 年6月現在は3位!)というヒットぶりだ。ここでは、マクラーレンの核となる、スーパーシリーズとスポーツシリーズを連れ出し、その魅力を探ってみる。

酸いも甘いも嚙み分けた大人のクルマ好きが
たどり着く究極のアンダーステートメント

マクラーレンは酸いも甘いもかみ分けたスポーツカー好事家が、最後の最後に辿り着く桃源郷のような存在だと思っている。
ポルシェ911の完成度に唸り、フェラーリのV8ミッドシップモデルに舌鼓を打ち、ランボルギーニのV12ミッドシップに歓喜した後に、さて次にいったいどこへ向かえば、自分の身体に染み込んだスポーツカーのパッションを満たしてくれるのか。そう考えた時に選択肢に挙がるのは、おそらくマクラーレンしかないだろう。

スポーツシリーズの第一弾となった570Sに採用されるカーボンファイバー製モノセルIIシャシーは、乗降を容易にするためにシルがより低くされたほか、マクラーレンを象徴するディヘドラルドアのデザインも見直されている。専用のサスペンションシステムにより、オープンロードでもサーキットでも高い操作性と洗練性を実現。3.8L V8ツインターボエンジンは、570psの最高出力と600Nmの最大トルクを発揮する。0-100km/h加速は3.2秒。

知名度の高さやブランド力や見目麗しいスタイリングや官能的サウンドなど、誰にでも分かりやすいスポーツカーがある程度の所有満足度を高めてくれるのは事実である。「やっぱ911ですよね!」「フェラーリ格好いいなあ!」「ランボルギーニ最高!」と声を掛けられるたびに、「自分は誰もが注目するスポーツカーを持っている」という自尊心の再確認が潜在的に行われるからだ。
マクラーレンはまだ、ポルシェやフェラーリやランボルギーニほど世間一般に知られていない。振り返る人がいたとしても、即座に車名を口にできる人数は限られるだろうし、ボディカラーが赤や黄色だったら「フェラーリの新型ですか?」と言われるかもしれない。つまり“外的好反応”は他のスポーツカーと比べたら期待薄である。この外的好反応も、最初の頃はちょっと気分がいいが、そのうち段々と面倒くさくなってくる。すると「周りの反応なんてどうでもいい。むしろそっとして置いて欲しい。そのほうがもっと純粋に運転を楽しめる」と思うようになる。ポルシェやフェラーリやランボルギーニと互角以上の性能を持ち、知る人ぞ知るというアンダーステートメント的ブランド力を有するクルマといったら、もうマクラーレンしかないというわけだ。ポルシェ/フェラーリ/ランボルギーニの販売台数でも世界上位に入る日本だから、マクラーレンが好調なのも当然なのである。

コクピットは操作性、視認性、機能性を重視したドライバーオリエンテッドなデザインが特徴。

マクラーレン・オートモティブは1993 年に名車マクラーレンF1を限定生産で発表したが、量産型の製造・販売を本格的には開始したのは2010 年。翌年に誕生したのがマクラーレン12Cである。創業9年目の若い会社にもかかわらず、商品企画力や開発力はずば抜けており、12Cの後にも12Cスパイダー、P1、650S、650Sスパイダー、675LT、P1GTRと矢継ぎ早に市場へ投入。2015 年には待望のエントリーモデル、スポーツシリーズの570Sと540Sが加わった。そして2017 年、650Sの事実上の後継車となる720Sが誕生、翌年には720Sスパイダーもスーパーシリーズの仲間入りを果たした。

人間工学に基づいた設計により、これまでのマクラーレンモデルの中で最も実用性とスペースに重点が置かれ、長距離ドライブでも優れた快適性を実現。フロントには150Lの容量を誇るラゲッジスペースを備える。

ちなみにマクラーレンのスポーツシリーズは600LT/570S/540C、スーパーシリーズは720S、アルティメットシリーズはセナGTR/スピードテール/P1GTRという分類がされていたが、今年発表となったマクラーレンGTは、これら3つのシリーズとはまた異なる位置付けのグランドツアラーだそうである。

リポート:渡辺慎太郎/S.Watanabe フォト:郡 大二郎/D.Kori ル・ボラン2019年8月号より転載
LE VOLANT web編集部

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