スーパースポーツの世界に4ドアクーペというカテゴリーを確立した立役者がパナメーラ。が、ここに来て目の前に強力なライバルが出現した。メルセデスAMGが送り出したGT 4ドアクーペのトップスピードは315km/h! そこで今回のパナメーラはあえてハイブリッドで対峙。そのアドバンテージとは!?
質実剛健でありかつ理性的なポルシェ
「本日、東京都内の気温は38度℃を超えるでしょう」
猛暑日を予報するウエザーリポートに覚悟を決めて、いざ富士の山麓に向かった。夏の暑さには慣れたとはいえ、さすがに身体には堪える。熱中症の危険に用心し、標高の高さに涼を求めたわけだ。
だが、今回の比較試乗は、ポルシェ・パナメーラ4-EハイブリッドとメルセデスAMG GT63S 4マチックである。4ドアボディで欺こうとしても、物質的な熱量はもちろんのこと、内に秘めた熱いパフォーマンスは隠し切れない。過激さで頭抜けているこの2台の撮影では、朝霧高原の優しい緑すら無意味だった。
とはいうものの、パナメーラ4-Eハイブリッドはドライバーに優しい。スポーツカーメーカーのポルシェが送り出す武闘派モデルのなかでは、紳士的な立ち居振舞いが際立つモデルである。パワーユニットはV型6気筒3Lツインターボと電気モーターのコンビネーションで、トータル出力は462ps。これに緻密な制御の8速PDKが組み合わされている。駆動方式は4WDで、カタログによると0→100km/hは4.6秒とされる。2.5トンに迫る重量級セダンである。動力性能に不足があろうはずがない。
ただし、加速フィールに過激な素振りはまったくない。アクセルペダルを踏み込めば、低回転域では電気モーターがリニアにアシストしてくれる。最初の一歩が力強いことで電気モーターの存在感を意識させるものの、けして強引な味付けではない。エンジンが受け持つ高回転域のパワー感も、ほどよく抑えられている。初速でドカンと喰らわせて高速域でグイグイと載せるといった、これみよがしの感覚ではないのだ。
ドライブモードは様々なチョイスが可能である。もっとも過激であるはずのスポーツプラスにアジャストしても、エンジンは獰猛に吼えることはない。逆に、電気モーターの可動領域を広げるEパワーモードでも、無闇に電気に頼ることなく、エンジンとモーターの自然な連携に留めているのだ。
フットワークも同様で、まるで地を這うがごときドライビングポジションから眺める景色は和やか。ル・マン式スタートに源流を持つスタータースイッチを捻ると、包まれ感に充たされた無音の空間が、内に秘めた高性能を滲ませる。だが、ハンドリングがピキピキするわけではなく、舵角に忠実にヨーが立ち上がり、それ以上でもそれ以下でもない。乗り心地は湿度感を伴ったもので、ミシュラン・パイロットスポーツ4Sのトレッド外周に上質な鞣し革を巻いたかのような感覚。ドライバーをいたずらに刺激する気配はない。
ただし、高性能であることは論を俟たない。加速フィールのどこにも不快な谷や山がないのがその証しだ。内燃機関と過給器、そして電気モーターというある意味では馴染みづらい動力源を、ごく自然に結びつけることに成功している点には感心させられる。
速度の上昇に比例して、車両が路面に吸いつく感覚が際立ってくるのも快感である。車高を下げることで強いエアロダイナミクス効果を得ているのだ。最高速度278km/hを誇るこの4ドアクーペが、日本の100km/h程度の高速巡行をまったく不安なく突き進むのは道理であろうと思えた。
けして過激な演出でドライバーを悦ばそうというあざとさがない。質実剛健、そしてきわめて理性的に経済性と日常性、そしてポルシェであることの証しを突きつける移動体が、パナメーラ4-Eハイブリッドなのである。