昨年のジュネーブモーターショー2019にて発表されたPLUS6は、モーガンにとってはAERO8以来19年ぶりのブランニューモデル。新設計CXジェネレーション接着アルミプラットフォームに、BMW製直列6気筒エンジンとZF製8速ATを搭載し、これまで以上にエキサイティングなクルマに仕上がっているという。
生まれ変わった新生モーガン
そこには木材の香りと木粉がふんわりと漂っていて、それまで見てきた自動車工場の風景とはあまりにも違いすぎてしばし呆然とした。モーガンがフレームの一部に木材を使用しているのは知っていたけれど、かんなをかけたり型に合わせて加工する様を実際に目の当たりにすると、家具工房にでも迷い込んでしまったような気分になった。モーガン本社を訪ねたのは20年以上も前のこと。自分が本誌編集部員だった時である。
“PLUS SIX”は、ロータスのようなアルミ接着(部分的にリベットを併用)を用いた“CXジェネレーション”と呼ばれる新しいプラットフォームを使った最初のモデルで、今後はモーガンの新型車にも随時採用されていくという。衝突安全要件やら何やらで、1台当たりの木材の量はずいぶん減ってしまったが、いまでもキャビンを囲むように配置されている。この木材はモクセイ科トネリコ属の広葉樹である“アッシュ”で、強靱で耐衝撃性に長けているという。“タモ”とも呼ばれ、野球のバットなどにも使用されている。
エンジンルームを覗いたらバルクヘッド部分にアッシュがチラッと見えて思わずほくそ笑んでしまった。市場がモーガンに期待するのはやっぱりこういうところである。実はアッシュの採用は、いまでも機能面で大きく寄与している。加工性がよく強度があるのに軽量な材料として最適なのだ。車検証によると車両重量は1140kg。前後重量配分はBMW顔負けのピタリ50:50だった。
BMWといえば、このクルマのパワートレインはBMW製で、基本的にはZ4やトヨタ・スープラと同じである。直6ターボ+8速ATで340ps/6500Nmを発生する。駆動形式はもちろんFRである。サスペンションはフロントがダブルウイッシュボーン、リヤは上下2本ずつ計4本のアームで支えるダブルウイッシュボーンに似た4リンク式で、LSDやトルクベクタリングなどのデバイスの類は装備されていない。
モーガンには“4/4”や“プラス4”などの4気筒モデルも存在したが、個人的にはモーガンと言えばローバー製のV8を搭載した“プラス8”のイメージが強い。プラス8は車重が1トンを切っていたのにどことなく重々しい感じもある不思議な乗り味が特徴だった。この「重厚感のある軽さ」が最新モデルにもきちんと踏襲されていたことが何より嬉しかった。
英国製スポーツカーといえば、昔なら“ライトウエイトスポーツ”が代名詞だったが、モーガンはどちらかといえばGTだと思っている。前後のオーバーハングが短く、全長に対してホイールベースが占める割合が極端に大きいパッケージのモーガンは乗り心地や直進性がすこぶるいいからだ。運転中はエンジンがドライバーに近いところにある感触が伝わってきて、これが重厚感を醸し出す。BMWの直6は、おそらくサウンドチューニングのおかげでV8に似た低音を奏でるから、プラス8の面影も感じることができた。
いっぽうで最適な重量配分もさることながら、ホイールベース内にエンジンルームとキャビンがすっぽり収まっているため、ヨー慣性モーメントは自動的に小さくなる。ロール剛性の前後バランスもよく、常にニュートラルステアに近いコーナリングフォームを形成する。これなら確かにLSDもベクタリングも必要ない。
昔のクルマは「不便」と共存する必要があったし、共存した先にはえもいわれぬ嬉しさがあった。でもやっぱり不便はないほうがいい。最新のパワートレインとアーキテクチャーとエアコンとパワステを手に入れたこのクルマは、モーガンの不便さだけを取り除いて嬉しさが際立ったモデルである。