コラム

V8ツインターボ+3モーターが織りなす“新感覚”の走りには歓びが隠せない!「フェラーリSF90ストラダーレ」【野口 優のスーパースポーツ一刀両断!】

スーパースポーツカー史上極めて重要な1台となるかもしれない

本格的な取り組みが始まったカーボンニュートラルの達成。すでに自動車業界では一般的な乗用車の電動化への移行が進められているが、当然ながらハイエンドカークラスも例外ではない。だが、高性能を主張するスポーツカーブランドにとっては、これまでの謳い文句“パワー値=価値”が通用しなくなるのは、ある意味で死活問題。環境保全に務めるも、商売しにくくなるというのが本音なのかもしれない。

しかし、過去を遡って歴史を紐解くと、スーパースポーツカーは常に最新技術への挑戦が繰り返されてきたのは事実。時代の先端をいくために最新技術を常に採用し、内燃エンジンの究極を狙い続けてきた。その結果、ついには1000psオーバー、最高速度も400km/hを超える領域に到達してしまったが、その一方で疑問視する声も一部では見られるようになり、“大して使いもしないパワーは本当に必要なのか?”、“もはや最高速の競い合いに意味があるのか?”などと、経営陣とマーケティング、そして開発陣の間で溝が生まれることも少なくなかったと漏れ聞こえてきたほどだ。そうした中で迎えた脱炭素社会への取り組みによるハイブリッド化への移行は、スーパースポーツカー界にとっても、ちょうどいいきっかけ、必然だったのかもしれない。

サイドビューはミッドシップのスーパースポーツらしいフォルム。フロントのヘッドライトユニットは極めてシャープな形状で、フェラーリ伝統の丸形テールランプは楕円に変更されるなど、新しいデザインが採用されているSF90。新時代を感じさせるモデルだ。

そんな議論や葛藤が続くなか、フェラーリが着々と開発を進めていたのが、ここで取り上げる「SF90ストラダーレ」である。ミッドシップレイアウトされるV8ツインターボエンジンと8速DCTの間にモーターを1基、フロントアクスル側に2基搭載することで3モーター式ハイブリッドスーパースポーツを完成させた、フェラーリ渾身の1台と言っていいだろう。正式発表された2019年5月、筆者は思わず「これこそ、スーパーカー! 待っていました!」と思わず叫びそうになったのを覚えている。

排気量3990㏄のV8ツインターボは、最高出力780ps、最大トルク800Nmを発生。トランスミッションは8速DCTで、モーターは前アクスル左右に2基、エンジンとギアボックスの間に1基の3モーターで普通充電に対応する。

この時、内燃エンジンを進化させたスーパースポーツの時代が長く続きすぎたようにも感じた瞬間でもあった。とはいえ、3モーターという発想はアメリカ主導で誕生したアキュラ(ホンダ)NSXに先を越されていたのは紛れもない事実だから二番煎じと言われても仕方がないが、フェラーリには裕福で贅沢を望むカスタマーが世界中に多く、しかも自ら経営する立場にある人が多いことから、こうしたハイエンドブランドのイノベーティブな高性能モデルを待ち望んでいたのは間違いない。

実際、SF90ストラダーレに乗ってみると、その“新感覚”に歓びが隠せなかった自分がいた。スタートボタンを押してもエンジンがかかることはなく、かすかにインバーターの音が聞こえる程度。走り始めても無音状態が続き、このままで最大25kmまで走行できるというから近所迷惑にならずに済む。しかもこの時は実質FWD。フロント2基のモーターのみで走行していると思うと久々に新鮮な感覚を覚えた。都内に住んでいる方なら、高速の入口までモーター駆動のみで行けるかもしれない。

コクピットはフェラーリ最新のデジタル技術を採用。ドライブモードは「eドライブ」「ハイブリッド」「パフォーマンス」「クオリフィー」の4つから選択が可能だ。セミバケットタイプのシートはホールド性に優れたもので、コンソール部に「F1コントロール」が配列される。

SF90ストラダーレには、走行モードのマネッティーノの他に、専用のEマネッティーノが備えられ、ハイブリッド専用セレクターとして、eドライブ、ハイブリッド、パフォーマンス、クオリフィーまで全4モード任意で選択することができるのも新鮮さに拍車を掛ける。解説も含めた詳しい試乗記に関しては本サイトの別記事に委ねたいが、電気モーターに充電しながら走行できるのは当たり前としても、PHEVとしてプラグイン充電できる点も高く評価したい。

無論、スポーツ走行する場合でも功を奏す。SF90ストラダーレはハイブリッド式4WD、リア側は780psを発するV8ツインターボエンジンに、3基合計で220psを出力する電気モーターが上乗せされ、クオリフィーモードでは実に1000psをフルに発揮するが、もっとも注目すべきは、電気モーターによってトラクションをコントロールするeTCやトルクベクタリング、エネルギー回生しながらも制動力まで向上させるというブレーキ・バイ・ワイヤなどを行う、eSS(エレクトリック・サイド・スリップ・コントロール)である。

フロントはモーターのアシストが入るものの、クイックにノーズが入るフェラーリらしいハンドリング特性はしっかりと踏襲されている。

これこそSF90ストラダーレの真骨頂。今回は公道のみ、走行モードも制限付きという条件がつけられたため、その効果は分かりかねるが、サーキットで試せた場合、このeSSにフェラーリの真価を見いだせるのは確かだろう。ワインディングで攻めてみても、ハンドリング自体はこれまでのミッドシップ・フェラーリとほぼ同等の動きを示すから尚さらである。おそらく、コーナリング時においては相当な効果を期待できるだけに、これまで長年に渡ってフェラーリを乗り継いできたカスタマーを唸らせるはずだし、他ブランドからの乗り換えてきた人も虜にする可能性を秘めていると思う。

タイヤはミシュラン・パイロットスポーツ・カップ2で、ブレーキはブレンボとの共同開発となるカーボンセラミックディスクが備わる。

それに、SF90ストラダーレが加えられたことで驚くのは、これがレギュラーラインアップされているということ。即ち、5000〜6000万円台のマーケットがこれから主流になることも示している。さらに今後フェラーリは、先ごろ発表されたV6ツインターボに1モーターを加えたハイブリッドモデルの296GTBを皮切りに、驚くべきスピードでハイブリッドに置き換えていく予定だ(2022年までに全体の60%はハイブリッド化させると公表済み)。

最近のスーパースポーツのトレンドともいえる上方排気システムを採用。リアディフューザーにホールが備わっているのも特徴だ。フロントバンパー下部のエアダクトや、エンド部分が跳ね上がった形状のリアウイングなど、空力性能もかなり研究されていることがうかがえる。

もっとも、マクラーレンやランボルギーニなど他ブランドも同じようにハイブリッド化が進められていくのも確定されているが、先進性もウリにするフェラーリだから、次の一手にも期待大。いずれは、フェラーリも含め100%電動スーパースポーツモデルが用意される可能性が高いことから、もしかしたらこのSF90ストラダーレ及びSF90スパイダーはこの先、過渡期を語る上で欠かせないスーパースポーツカー史上、極めて重要な1台となるかもしれない。

フロントボンネット下のトランクは74Lの容量で、このほか容量20Lのリアシェルフも用意されるなど、十分な積載性を確保。バルクヘッド部分には電動モデルであることを誇示するかのようなクリアカバーで覆われたインバーターが備わる。

【Specification】フェラーリSF90ストラダーレ
■全長×全幅×全高=4710×1972×1186mm
■ホイールベース=2650mm
■トレッド(前/後)=1679/1652mm
■車両重量=1570kg
■エンジン種類=V8DOHC32V+ツインターボ
■総排気量=3990cc
■最高出力=780ps(574kW)/7500rpm
■最大トルク=800Nm(81.6kg-m)/6000rpm
■モーター最高出力=220ps(162kW)
■バッテリー容量=7.9kWh
■トランスミッション=8速DCT
■サスペンション=前:Wウイッシュボーン/コイル、後:マルチリンク/コイル
■ブレーキ=前:Vディスク、後:Vディスク
■タイヤ(ホイール)=前 255/35ZR20(9.5J)、後315/30ZR20(11. 5J)
■車両本体価格(税込)=53,400,000円
公式ページ https://www.ferrari.com/ja-JP/auto/sf90-stradale

フォト=宮門秀行/H.Miyakado

この記事を書いた人

野口優

1967年生まれ。東京都出身。小学生の頃に経験した70年代のスーパーカーブームをきっかけにクルマが好きになり、いつかは自動車雑誌に携わりたいと想い、1993年に輸入車専門誌の編集者としてキャリアをスタート。経験を重ねて1999年には三栄書房に転職、GENROQ編集部に勤務。2008年から同誌の編集長に就任し、2018年にはGENROQ Webを立ち上げた。その後、2020年に独立。フリーランスとしてモータージャーナリスト及びプロデューサーとして活動している。

野口優

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