
クオリティの高さがパサートの魅力のひとつ
ドイツ本国をはじめ、フランス、イタリア、イギリス、アメリカ、そして日本など、強豪がひしめき合うミドルサルーン市場。ここではドイツ・プレミアム勢2ブランドの代表格であるメルセデス・ベンツCクラスと、BMW3シリーズの比較を通じて、パサートの秀でている部分を浮き彫りにしていく――。
セダン離れといわれて久しい日本においても、輸入車では根強い人気を維持し続けている。特にDセグメントのBMW3シリーズとメルセデス・ベンツCクラスの強さは際立っていて、リーズナブルなコンパクトカーや成長著しいSUVに押されもせず、販売台数上位の常連だ。
そんななか、日本導入から1年が経って商品力強化を図ったフォルクスワーゲン・パサートにも注目が集まっている。以前からパサートは、目利きの自動車通の間では良質で質実剛健なモデルとして認識されてきた。ただし、フォルクスワーゲンといえばゴルフというイメージが強すぎるからか、あるいはDセグメント以上の日本のユーザーはプレミアム志向が強いからか、その実力に見合うほどには人気者になっていなかったのは事実であり“隠れた名車”的な存在に甘んじてきた。フォルクスワーゲンはBMWやメルセデス・ベンツのように生粋のプレミアムブランドというわけではないが、もともと技術力は高く、近年では質感向上も著しいため、大衆的なスタンダードブランドとは一線を画し、本質的なモノのよさではプレミアムブランドに引けをとらない。特に現行の8代目パサートは、MQBの導入によってモノのよさに磨きをかけ、デザインでも存在感を強めるなど、3シリーズやCクラスに比肩しうるぐらいに上級移行を果たしている。ここでは改めて3車を比較試乗して、それぞれの魅力を確かめてみたい。
PERFORMANCE
▲エンジン排気量は、パサートが1.4L、C200と320iが2Lということで、絶対的な動力性能でみるとパサートは劣るものの、他2車より軽い1.5トンを切る車重のおかげで、加速のフィーリング的にはそれほど大きな差は感じられず、思いのほかパワフルな印象だ。
Dセグメントにおいては常に中心的な存在となっているのが3シリーズだ。320i Mスポーツの2L直噴ターボはスペックとしては標準的だが、吹け上がりの鋭さや精緻な回転上昇感は格別。積極的にアクセルを踏みこんでいきたくなる衝動に駆られる。それでいて発進加速など低速域でのドライバビリティも良好。これは低回転域のトルクが充実していることに加え、トルクコンバーター式の8速ATが優秀だからだ。
320i Mスポーツの最大の魅力はハンドリングだ。ステアリングのセンター付近は座りがよく、微舵を与えたときの反応の正確さ、切り込んでいったときのリニアなノーズの動きなどは絶品。ドライバーの意思が忠実に伝わり、濃密な一体感が得られるのは、まさに真骨頂だ。Mスポーツは専用のスポーツサスペンションと大径タイヤによってそのよさが引き出されているが、快適性は少しだけ犠牲になる面もある。18インチのランフラットタイヤは路面が荒れているとゴツゴツ感があり、ロードノイズも出やすいのだ。
ここ数世代のCクラスは、3シリーズのスポーティさを採り入れてきたように思える。SクラスやEクラスでは快適で落ち着いた乗り味が重視されているが、Dセグメントでは小気味いい走りが似合うとの判断からだろう。
だからC200アバンギャルドも想像するよりずっとハンドリングは鋭い。それでいてメルセデスらしさが感じられるのは、懐が深く安心感が高いことだ。速度が上がれば上がるほどにボディが路面に吸い付いていくような感覚があって頼もしい。基本的にはフラットライドで快適性も高いのだが、ランフラットタイヤが標準となり、路面によってはゴツゴツと感じられることもある。BMWのほうがランフラットタイヤを長年使ってきているので熟れている感じもするのだった。
2L直噴ターボのエンジンはトルクがひと際力強く扱いやすい。トルコン式7速ATもマナーなどは良好だが、C220dなどに採用されている9速ATに比べると、世代が古いからかややオットリした印象も受ける。また、BMWのような面白みは薄く、ビジネスライクな雰囲気ではある。
最後にパサートに乗り換えるために近づいていくと、他とセグメントが違うのではないかと思うほどに立派に見えた。Dセグメントではあるが、全長も全幅も少しずつ大きく、さらに水平基調のフロントグリルやビシッと通ったサイドのキャラクターラインがワイド&ロー感を強調しているからだ。コクピットに収まってみても、エアコンルーバーとともに横一直線に伸びるインパネの巧みなデザインなどは、Dセグメントを超えた広さに思える。さらに、今回の試乗車はオプションのアクティブ・インフォ・ディスプレイを装着していたので、高級感や先進性で頭ひとつ抜けていた。
パサート独特の魅力に磨きがかかった
上質な室内空間に気をよくして走り始めてみると、動的な質感においても他に一歩も譲っていないことに気付かされる。アクセルをさほど踏みこんでいなくとも軽やかに加速していき、巡航速度に達したところで右足を緩めていっても、サーッと抵抗感なくスムーズに転がっていく感覚がある。駆動系などあらゆる部分の機械が精密で、どこにも引っかかりがないのだ。サスペンションも同様で、路面の細かな凹凸をドライバーに感じさせないほどしなやか。3シリーズやCクラスで走った時よりも、路面が綺麗に思えたほどだ。低速域でそう感じるのはランフラットではなく、スタンダードタイヤを装着しているからだろう。
速度を上げていっても乗り味は快適。3シリーズとCクラスはスポーティさを重視しているが、パサートはいたずらにその競争に参加しておらず、スムーズで洗練度の高い乗り味なのだ。
ハンドリングの楽しさではFR勢に分があるが、パサートも正確性は高い。もっとも感心させられるのはスタビリティが高く、常に安心感があることだ。ABSやESCなどが作動する領域になっても、ドライバーの意思を忠実に守ろうとする。限界域でもステアリングの効きが抜群によく、ライントレース性が高いのだ。
ENGINE
▲エンジンはいずれも直4で、パサートの1.4Lターボは最高出力150ps、最大トルク250Nm、C200の2Lターボは同184ps/300Nm、320iの2Lターボは同184ps/270Nmと、スペック的にはパサートがやや劣る。0→100㎞/h加速も順に8.4秒、7.8秒、7.3秒と320iが最も速いが、JC08モード燃費は順に20.4㎞/L、16.5㎞/L、16.0㎞/Lと、パサートの燃費のよさが光る。
直噴ターボ・エンジンは1.4Lと小排気量だが、2L勢に対して思いのほか健闘している。日常的によく使う回転域でトルクを充実させるダウンサイジングターボを、どこよりも早くから開発していただけあって、スペック以上に頼もしく感じられるのだ。ボディサイズは大きめなのに、車両重量が軽いという技術的な優位性も走りのよさを支えているのだろう。今回唯一のDSGは、やはり小気味よさやダイレクト感が際立っていて、これもまた排気量の小ささを補っている。
これまでパサートは室内空間が広く、リーズナブルであるなど、実利的な面でライバルに対しての優位性をアピールしてきたように思うが、現行モデルはパサート特有の魅力に磨きがかかった。その上質さや安心感の高さが、この上なくリラックスできる乗り味を醸し出している。スポーティなキャラクターよりも、プレミアムなセダンとして王道をいっているような気さえするのだ。
■PACKAGE
Cクラスと3シリーズはFRと、FFのパサートとはそもそも駆動方式が異なる2車。ホイールベースはパサートが最も短い2790mmで、他2車は2800mm超となるものの、後席の足元スペースのゆとりは逆にパサートが最大となっている。さらに後席の頭上スペースも最大で、このあたりパサートのパッケージの巧みさが光っている部分といえるだろう。
■COCKPIT
コクピットは、水平基調のデザインにウッドパネルやシルバーのアクセントを散りばめた、奇をてらったところがなく極めてスタンダードな印象のパサート。Cクラスは曲線を多用し、アンビエントライトも用意されるなど、エレガントさが強調されている。一方で3シリーズは、ドライバー側にオフセットしたコンソールなど、ドライビングに集中できる、スポーティな環境が与えられている。
■SEAT
シートは、大きめのサイズにより快適性を追求したレザー素材のパサートに対し、Cクラスは同じく素材はレザーでサイド部の張り出しが最も大きいサポート性重視のタイプ(オプションのスポーツシート)、Mスポーツグレードの3シリーズは、素材にアルカンターラを使用するなどスポーティな印象と、まさに3車3様だ。
■LUGGAGE SPACE
容量は586L(VDA値)と、Cクラスの445L、3シリーズの480Lに対して圧倒的な広さを誇るパサートのトランク。開口部も広くスクエアな形状ゆえ、大きな荷物の出し入れもしやすいのが特徴だ。後席を倒して荷室を拡大できるトランクスルー機構は全車装備。またリアシートも荷室側から倒すことができるなど使い勝手も良好だ。
Volkswagen Passat TSI Highline
■全長×全幅×全高=4785×1830×1470mm
■ホイールベース=2790mm
■車両重量=1460kg
■エンジン種類/排気量=直4DOHC16V+ターボ/1394cc
■最高出力=150ps(110kW)/5000-6000rpm
■最大トルク=250Nm(25.5kg-m)/1500-3000rpm
■トランスミッション=7速DCT
■サスペンション(F:R)=ストラット:4リンク
■ブレーキ(F:R)=Vディスク:ディスク
■タイヤサイズ=235/45R18
■車両本体価格(税込)=4,439,000円
■問い合わせ先=フォルクスワーゲン グループ ジャパン TEL:0120-924-411
Mercedes-Benz C200 AVANGARDE
■全長×全幅×全高=4690×1810×1435mm
■ホイールベース=2840mm
■車両重量=1540kg
■エンジン種類/排気量=直4DOHC16V+ターボ/ 1991cc
■最高出力=184ps(135kW)/5500rpm
■最大トルク=300Nm(30.6kg-m)/1200-4000rpm
■トランスミッション=7速AT
■サスペンション(F:R)=4リンク:マルチリンク
■ブレーキ(F:R)=Vディスク:ディスク
■タイヤサイズ=225/50R17
■車両本体価格(税込)=5,450,000円
■問い合わせ先=メルセデス・ベンツ日本 TEL:0120-190-610
BMW 320i M Sport
■全長×全幅×全高=4645×1800×1430mm
■ホイールベース=2810mm
■車両重量=1580kg
■エンジン種類/排気量=直4DOHC16V+ターボ/1998cc
■最高出力=184ps(135kW)/5000rpm
■最大トルク=270Nm(27.5kg-m)/1350-4600rpm
■トランスミッション=8速AT
■サスペンション(F:R)=ストラット:5リンク
■ブレーキ(F:R)=Vディスク:Vディスク
■タイヤサイズ(F:R)=225/45R18:255/40R18
■車両本体価格(税込)=5,540,000円
■問い合わせ先=BMWジャパン TEL:0120-269-437