コラム

“海のSクラス”と呼ぶべき圧倒的余裕。日本ボート・オブ・ザ・イヤー2025大賞「AZIMUT FLY62」の真価【木下隆之コラム】《LE VOLANT LAB》

自動車の世界にも通じる、ボートの多様な価値観

「日本ボート・オブ・ザ・イヤー2025」が決定した。海に関わる者にとって、この知らせはどこか季節の風物詩のようでもある。すでに、PWC、小型艇、中型艇、大型艇の各部門賞に加え、ベストバリュー、ベストファン、ベストフィッシングといった特別賞も出揃っていた。
【画像9枚】日本ボート・オブ・ザ・イヤー2025を受賞した「AZIMUT FLY62」の悠然とした姿

ラインアップを俯瞰すると、ボートという世界がいかに多面的な楽しみ方を内包しているかがよくわかる。その構図は、どこか自動車の世界にも似ている。例えばBMWがドライビングプレジャーを軸に据え、メルセデス・ベンツが快適性と威厳を追求している。ポルシェはもちろん、純粋なスポーツ性を磨き上げている。それぞれが異なる価値観を創造しているのだ。ボートもまた同様で、用途ごとに異なる哲学があるのだ。

“海のSクラス”と呼びたくなる大賞「AZIMUT FLY62」の余裕

そして、その多様な価値の頂点として今年の大賞に選ばれたのが、大型艇部門を制した「AZIMUT FLY62」というわけだ。いわば、その年の海を象徴する存在なのである。

AZIMUT FLY62は、イタリアで生まれたビッグクルーザーである。その数字が語るように、62フィート級である。日本には株式会社安田造船所によって輸入されたこの艇は、全長19.22m、最大幅5.09mという堂々たるサイズを持つ。マリーナでも一際存在感をアピールしている。いや、あの広大な海原でさえ、堂々としているのだ。

しかし印象は単なる“大型”ではない。62フィートという数字以上に、そこには余裕がある。波の上ですら、どこか悠然としているのだ。この感覚は、優れたドイツ車に通じるものがある。たとえば高速道路を巡航するメルセデス・ベンツSクラスや、長距離を淡々とこなすBMWに感じる、あの揺るぎない安定感。速さを誇示するのではなく、余裕で包み込むような完成度。それに近い。

僕もボート・オブ・ザ・イヤーの選考委員の一人として、この艇に最高点を投じた。理由を理詰めで説明することもできる。だが、正直に言えばそれは少し野暮なような気がする。この艇には、スペックや装備を超えた“完成された一体感”がある。すべてが調和し、ひとつの塊として成立している。優れた工業製品に出会ったときの、あの「なるほど、これはいい」という直感的な納得。それがある。

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木下隆之

AUTHOR

1982年に全日本学生自動車王者に輝いた。出版社で編集部所属、独立してレーシングドライバーとして活動を開始してから40年となる。日産、ホンダ、三菱、トヨタとレーシングドライバー契約。レーシングカーはもちろんのこと、スカイラインGT-R、ホンダ・レジェンド、三菱ランサーエボリューション、レクサスLFAなどの開発に従事。国内外のトップカテゴリーで数多くのチャンピオンを獲得。スーパー耐久シリーズでは最多勝記録を更新中。ニュルブルクリンク日本人最多出場、日本人最高位記録保持。GTアジア選手権2連覇等、海外に活動の場を広げて活躍中。2023年からはトーヨータイヤと「プロクセスアンバサター」契約し、Team TOYOTIRESのドライバーとしてニュルブルクリンクに参戦を開始している。一方で、執筆活動も旺盛で、11本のコラムを連載中。「豊田章男の人間力」「ジェイズや奴ら」等を上梓。トヨタガズーレーシングアドバイザー、レクサスブランドアドバイザー、BMWスタディ・スポーティングディレクターを経験。数々の企業案件に参画してきた。サントメ・プリンシペ民主共和国・補佐官/トウキョウファーム経営戦略アドバイザー/日本カーオブザイヤー選考委員/日本ボートオブザイヤー選考委員/日本自動車ジャーナリスト協会会員/株式会社木下隆之事務所・代表

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