内燃機関はこの先も必要とされるのか? モビリティは完全自動運転となるのか?自動車社会の潮目が変わろうとしているいま、ポルシェが見据える未来ははっきりしている。それは革新的なアイディアで、今までと変わらず人々を魅了するスポーツカーブランドであること。今回はアジア太平洋地域の自動車メディアがクアラルンプールに招待し、ポルシェ電動化の“いま”と“これから”のプレゼンテーションが行なわれた。
最新ハイブリッドモデルをサーキットで試す!
2025年までに世界新車販売台数の50%以上を電動車両にする方針を打ち出し、オール電化へ向けて急速にスピードアップを始めたポルシェ。すでに7年後に向けた布石はいくつか明らかにされているが、その最たるものがミッションEの呼称で開発が進められてきた、ポルシェ初のピュアEVスポーツカー「タイカン」だ。

PORSCHE AG Manager Electrical Thomas Neumann
現在ハイブリッドモデルが投入されているパナメーラとカイエンについて、今後の電動化の流れについて体系的な解説が行なわれた。
ポルシェAG CEOのオリバー・ブルーメ氏は、“顧客の期待”を予想してアイディアを実現し、最終的には市場から賞賛されることが革新であると述べている。同社コーポレートサイトでは、電動化について「“顧客のニーズ”を届けるだけでよければ、ライト兄弟は飛行機など発明せず、ずっと自転車を販売していただろう」と、思わず膝を打ちたくなるコメントを記しているが、つまりポルシェにとっての電動化は、外的な力によるものではなく、あくまでも主体的な挑戦であり、我々に興奮や感動を与えてくれる革新であることに違いはない。

PORSCHE AG Public Relations Manager Mark Wienkoetter
タイカンとその派生モデルとして開発中の「ミッションEクロスツーリスモ」の解説とテクノロジーやインフラについてプレゼン。
今回、2日間に渡りクアラルンプールで行なわれた「Eパフォーマンス・ナイト」は、ル・マン24時間レースへのオマージュを込めて夜間に開催。クアラルンプールの市街地でもセパン・サーキットでも一本筋の通ったポルシェDNAが具現化されたEパフォーマンスをアジアのメディア陣に体感させるのが目論見だ。
用意されたクルマで国内未導入のモデルは、カイエンEハイブリッドのみであったが、幸運にも918スパイダーのサーキット走行も許された。欲を言うとキリがないが、同乗試乗でトラック2周と少々“お預け状態”ではあったが、フロント軸に2個、後輪用トランスミッションに1個配されたモーターと、4.6LリッターV8自然吸気が織りなすパワープラントの躍動を体感できただけでも貴重。そして、コーナー手前での回生ブレーキは、まさにポルシェのブレーキタッチの感覚と同じで、そのときの充電効率の高さもしっかりと確認することができた。改めてこのモデルがEパフォーマンスのテストヘッドとしての役割が大きかったことを思い知らされた。
プログラムの都合により市街地での試乗はキャンセルとなってしまったが、セパン・サーキットで最初にステアリングを握れたのはパナメーラ・ターボSEハイブリッドとそのスポーツツーリスモ。すでに日本国内でもリリース済みだが、今回は思う存分アクセルを解放できる(とはいえ、夜間走行かつウェットコンディションのためか、コーナーにはスピード抑制のパイロンが設置されていた)。
プログラムは2025年の大革新に向けた壮大なプレゼンテーション
シートに座りドアを閉めるときにまず感じるのが、2トンを超える巨体であること。ドア自体の重さもそれなりだが、機密性も高く“軽く”では思いのほかドアは閉まらない。オプションのオートクロージャーはマル必チェック項目だ。そっとアクセルペダルを踏みモーターだけで走り出すと、先ほどまで感じていた重さがウソのように消えている。この巨体がびっくりするくらい滑らかに進み出す。
しかし本コースに入り、猛然と加速を始めた先導車の911に食らいつこうとアクセルペダルをフラットアウトすれば、トータルパワーで680ps/850Nmを発生させるハイブリッドシステムは、焦ることなく圧倒的な加速を見せつける。ペダルを踏んだ分だけクルマは前に飛び出し、戻した分だけ減速していく。感覚と足の動きが同調すると、やはり運転は楽しい。コンボイ走行で前記のコンディションのため、ストレートでも最高160km/hほどしか出せなかったが、カタログスペックの0-100km/h加速3.4秒、最高速度310km/hのポテンシャルは十二分に感じ取ることができた。

パナメーラ・ターボS Eハイブリッド(2種)、パナメーラ・ターボS Eハイブリッド・スポーツツーリスモの各モデルに乗り、トラックを走行。現在アジア・パシフィックで販売される最新のハイブリッドモデルを再確認した。
また偶然にも、「リアアクスルステアリング」のオプション装備車/未装備車を交互に乗り比べることができたが、その違いは顕著。未装備車は先導車の911と同じスピードで同じ走行ラインをトレースするとオーバーステアに見舞われることもあったが、装着車ならゼロ。コーナリングマナーは優秀で安定した姿勢を保ったまま綺麗に駆けぬけることができた。
いずれにしても、「パナメーラは4ドアサルーン」と先入観でカテゴライズしていた節はあったが、このハイブリッドシステムや最新テクノロジーが、スポーツカーの未来を切り開くであろうことを、まざまざと感じ取ることができた。
ポルシェの電動化は着実に我々を魅了していく
アジア太平洋地域で実車初披露となったカイエンEハイブリッドは、ピット前に用意されたスラロームコースのみの試乗で、しかもゲーム性も追加されたモーター走行によるタイムトライアル大会。出せてもせいぜい50km/h程度であったが、車重を感じさせることなくフラットな姿勢を維持したままコーナーを走りぬける安定感はキャッチできた。今後、カイエンの本命になりうる存在だ。

新型カイエンEハイブリッドは特設のスラロームコースで試乗。2トン超えの車重を感じさせないフラットな乗り心地だった。タイムトライアル大会ではエンジン始動で2秒、パイロンタッチで1秒のペナルティというルール。
今回のプログラムを終え、センセーショナルな発表や体験を期待していた旨をアジア・パシフィックの統括PRマネージャーへ「タイカンの展示はあると思った」と冗談めかしに伝えると、「今日経験したことがencapsulate(=カプセル化)されているのがタイカンです」との答え。つまり、2019年のタイカン生産開始、その先2025年の50%電動化は、このプログラムの延長線上にあり、「今日の経験がそのままひとつになって、来年には我々の元に届けられるから楽しみに待っていて」ということだ。
そう、ポルシェの電動化への革新は、少しずつそして着実に我々を魅了してくるのだ。
- 午後7時から深夜1時過ぎまでセパン・サーキットで行なわれた「Eパフォーマンス・ナイト」。 ポルシェ電動化の歩みからこれから進む未来まで、本国のポルシェAGスタッフから語られた。
Specification
ポルシェ カイエンE ハイブリッド
車両本体価格(税込):-
全長/全幅/全高[mm]:4918/1983/1696
ホイールベース[mm]:2895
トレッド(前/後)[mm]:1680/1673
車両重量[kg]:2295
最小回転半径[m]:6.05
乗車定員[名]:5
エンジン型式/種類:-/V6DOHC24V+ツインターボ
内径×行程[mm]:-
総排気量[cc]:2995
圧縮比:-
最高出力ps(kW)/rpm:462(340)/-
最大トルクNm(kg-m)/rpm:700(71.4)/-
燃料タンク容量[L]:75(プレミアム)
燃費(JC08/WLTC)[km/L]:-/-
ミッション形式:8速AT
サスペンション形式:前 マルチリンク/コイル、後 マルチリンク/コイル
ブレーキ 前/後:Vディスク/Vディスク
タイヤ(ホイール):前255/55ZR19、後275/50ZR19
ポルシェ パナメーラ・ターボS Eハイブリッド
車両本体価格(税込):28,310,000円
全長/全幅/全高[mm]:5049/1937/1427
ホイールベース[mm]:2950
トレッド(前/後)[mm]:1657/1637
車両重量[kg]:2310
最小回転半径[m]:5.95
乗車定員[名]:4
エンジン型式/種類:-/V8DOHC32V+ツインターボ
内径×行程[mm]:86.0×86.0
総排気量[cc]:3996
圧縮比:10.1
最高出力ps(kW)/rpm:680(500)/5750-6000
最大トルクNm(kg-m)/rpm:850(86.7)/1400-5500
燃料タンク容量[L]:80(プレミアム)
燃費(JC08/WLTC)[km/L]:-/-
ミッション形式:8速DCT
サスペンション形式:前 Wウィッシュボーン/エア、後 マルチリンク/エア
ブレーキ 前/後:Vディスク/Vディスク
タイヤ(ホイール):前275/35ZR21、後325/30ZR21