清水和夫のダイナミック・セイフティ・テスト(Dynamic SafEty Test)
Number80(SEASON.8):最新コンパクトSUVのダイナミクス性能を徹底的に試す!
ミニ・クーパーD クロスオーバー vs フォルクスワーゲン・ティグアン・ハイライン
400万円前後で買えるSUVを選ぶとしたら、ミニ・クロスオーバーがかなり気になる。デザインから想像すると、きっと走りも楽しいだろうとワクワクする。しかもSUVという実用性が加わるのだから、文句はない。そのミニに対抗するのがVWティグアンだ。ゴルフ・ベースのSUVで派手さはないが、良きファミリーカーとしても期待できそうだ。
ティグアンは新しい時代のファミリーカーたる資質
最近コンパクトSUVが人気だ。SUVというと背が高くて、街中からオフロードまで走破できるマルチなクルマというイメージがあるが、最近になって人気急上昇のSUVは、昔から流行っている骨太なSUVよりも、もっと乗用車ライクなクルマたちだ。旧SUVと区別するためにクロスオーバーSUVとも呼ばれている。しかも駆動方式は4駆にとらわれずに、2輪駆動(FFかFR)でもいい。こうなると、クロスオーバーSUVこそ新しい時代のファミリーカーではないだろうか。
それでは、VWはどんなクロスオーバーSUVを開発したのだろうか。VWが日本に投入したのは新型ティグアン。ゴルフと同じパワートレインを持つが、ホイールベースを伸ばしている。エンジンはガソリンの1.4L直4ターボのTSIだ。ツインクラッチのDSGと組み合わせることで、走りと燃費を両立している。細かくスペックを見ていて驚いたのは、フロントの重量配分がかなり軽くなっていることだ。FFとしては珍しい57%。常識では発進時のトラクションが足りなくなるはずだが、DSGの制御でうまく調整している。急発進は苦手だが、加速と変速はスムーズだ。
ティグアンで高速を走ると、ミニと違ってステアリングの応答性とスタビリティのバランスが良い。ボディのロールやバネ上の動きがものすごく落ち着いている。シートのホールド性もよく、シート表面の生地の摩擦もあるので、体がしっかりホールドされる。
派手さはなく、クセもない。誰が乗っても、長く乗っても嫌みのないクルマに仕立てている。そんな風にこのクルマをファミリーカーとして考えてみたら、ベストチョイスかもしれないと思えてしまった。ティグアンこそポストゴルフなのでは? とさえ思える。
ゴーカートのようにダイレクトでスポーティに走れるのがミニのDNA
一方、ゴーカートのようにダイレクトでスポーティに走れるのが、ミニのDNAだ。兄貴分のBMW X3のように走りとSUVを両立するモデルではないだろうか。
今回テストしたミニ・クロスオーバーは、2Lディーゼルエンジンを積み、ギアボックスにトルコンATを組み合わせる。低速トルクの大きさとトルク切れが少ないATはFRや4WDなら文句はないが、59%というフロント荷重では十分なトラクションが得られない。パワートレインはトルク伝達のレスポンスにこそ優れてはいるが、FFでは330Nmのトルクを受け持つのは無理だった。
ハンドリングはミニらしくスポーティだ。だが、レーンチェンジするとバネ上のボディのロールがやや気になる。ふわっとしたサスペンションに、ダイレクト感のあるステアリングフィールはちょっと似合わないと思った。
最終的にはDSCが作動するので大きな問題とはならないが、もし私がミニ・クロスオーバーのディーゼルを買うなら、迷わず4WDをチョイスするだろう。FFなら絶対にガソリンだ。駆動方式とエンジンの相性は重要なのだ。
安心感あるティグアンと個性的でクセが強いミニ
ティグアンはゴルフ・ベースで開発され、MQBのプラットフォームのホイールベースを伸ばして使っている。前後重量配分はミニディーゼルよりも軽く前輪荷重は約57%。FFとしては異例だが、DSGのチューニングによって発進時のトラクション不足(前輪荷重が少ないので)を補っている。
だが、ディーゼルとトルコンATを搭載するミニ・クロスオーバーは、スロットルを踏んだ瞬間にタイヤに大きなトルクが伝わり、フロントタイヤはホイールスピンする。個性的なミニ・クロスオーバーとディーゼルの組み合わせはネガな部分も目立っていた。ディーゼルには4駆が必要だろう。
RESULT
得点ではティグアンだが、ミニがディーゼル4駆なら勝敗はわからない
●VOLKSWAGEN TIGUAN HIGH LINE:15.0/20点
●MINI COOPER D CROSSOVER:13.5/20点