
いまや、ミドル級以上なら400km以上の航続距離は当然のEV。だが、その数値はあくまでカタログ上のスペックに過ぎない。ならば、ということで今回は最新の輸入車EVで走れる距離を比較してみた。
EVには過酷な条件下で航続距離を徹底比較
すでにEVライフを経験済みの方ならご存じの通り、EVは走らせる環境、走らせ方によって航続距離が大きく変わる。そこで今回は比較の条件を揃えるため、電力消費に響くエアコンの設定温度は統一。最初からエコランをする気はなかったので、走行モード切り替えは通常時の「コンフォート」が基本。EQCとIペイスに用意される「エコモード」は封印している。また、バッテリーの大容量化で航続距離が大幅に伸びている近年のEVだが、公共の急速充電器だと1回の充電では十分に電力量が回復しない。そこで、比較の行程は“使い切り”の日帰りドライブを前提とした。

今回のコースは、東京のお台場をスタート。アクアラインで千葉に渡り、鋸南町からは一般道を走り房総半島を海沿いに北上。当初は鹿島まで、というプランもあったが、日帰りできることを優先して御宿町から半島を横断するルートに。路面の起伏は少なめだ。
さて、取材当日。事前の予報では雪の可能性すら示唆されていただけに雨で済んだのは幸いだったが、外気温度は当然低い。これでナイトドライブだったら、EVを走らせる環境としては最悪だったはずだ。とはいえ、撮影の都合で頻繁にクルマを止め、かつ走らせる際の“やせ我慢”はナシという前提なのでエアコンの設定温度は情け容赦なく24℃とした。

START/スーパーオートバックス東雲、走行距離:0km、気温:3 ℃
東雲では、全車満充電状態に。モデル3やIペイスは比較的公称値に近い航続可能距離を表示したが、EQCはご覧の通り。外気温が低い、つまりエアコン(ヒーター)がフル稼働する状況だっただけに不安な幕開けに。
EQC 航続可能距離:296km、I-PACE 航続可能距離:416km、MODEL3 航続可能距離:493km
スタート地点は公共の急速充電器、CHAdeMO(チャデモ)と、それよりも高出力なテスラ用充電施設のスーパーチャージャーがある東雲。まずは、ここで全車満充電にする。その際、改めて気付かされたのはモデル3、というよりテスラの充電作業がスマートなこと。専用設計なのだから当然ともいえるが、ケーブルが太くて取り回しが面倒、なおかつ充電用ソケットも大きくて重いチャデモと比較すると、これだけでもちょっとした優越感に浸れるのは本当の話だ。たとえば自宅で普通充電、という状況ならEQCやIペイスでもなんら不満はないが、今回のような寒空の中でチャデモの急速充電器を操作するのは、決して嬉しいことではないのだ。
EVとしての新鮮味はモデル3が断トツ
仮想日帰りドライブのスタートは、そんな最初から好感度の高いモデル3から始めた。テスラでは初の本格量産車となるモデル3は、EQCやIペイスに対して身近な価格も魅力のひとつ。今回の個体は最上級のパフォーマンスということで高価だが、ベーシック版のスタンダードレンジ・プラスなら511万円からテスラとの生活を始めることができる。

CHECK POINT 1/ハイウェイオアシス富楽里、走行距離:80km、気温:5 ℃ 写真/東京湾アクアライン、館山自動車道 アクアラインまでの区間は、一般的な高速道路の流れと同じペース。一方、館山自動車道に入ってからは対面通行区間を筆頭に遅め、つまりEVには効率の良い速度域が主体になった。EQCの減り方が少ないのはこのため? EQC 航続可能距離:240km、I-PACE 航続可能距離:291km、MODEL3 航続可能距離:368km
一方、EVとしての性能は間違いなく一線級だ。パフォーマンスの航続距離は、今回の3車では頭抜けた530km。0→100km/h加速はリアルスポーツに匹敵する3.4秒をマークする。また、ロングレンジと名付けられた仕様なら航続距離は兄貴分のモデルSに近い560kmまで伸びる。
だが、そうしたスペック以上に印象的なのはテスラ流ともいうべき新鮮味に溢れた随所の仕立てだ。“走るタブレット”とでも表現したくなるインパネ回りは、到底既存の自動車メーカーでは採用に踏み切れない思い切った作り。乗り込めば起動すら自動という大胆さは、エンジンキーが当然の昭和生まれには衝撃的ですらある。
とはいえ、モデル3は奇抜なだけではない。取材前日に確認済みだったが、クルマとしての性能もスペック通り。前後にモーターを配したモデル3パフォーマンスの動力性能は、まさに高性能EVそのもの。スポーツモード時の加速は、一瞬血の気が引くほどの強烈さ。EVならではの低重心設計と良好な前後重量配分、強固な骨格と相まって絶対的な操縦性もハイレベルだ。また、非公開だが容量が少なくないはずのバッテリーを床下に収めながら実用的なセダンを成立させている点も、モデル3の非凡な部分といえる。

CHECK POINT 2/館山ファミリーパーク、走行距離:123km、気温:7 ℃、写真/国道127号
自動車専用道を降りてからは、比較的流れの良い一般道をひた走る。海沿いということで道路のアップダウンは少なく速度も速くない走行環境だけに、特にモデル3とIペイスは余裕十分。EQCのみ200kmを切った。
EQC 航続可能距離:194km、I-PACE 航続可能距離:246km、MODEL3 航続可能距離:298km
走行距離が200km近くになったあたりから変化が訪れる
他方、プレミアムなクルマという視点だと気になる部分もある。スタート後、東雲から3車は首都高速に乗りアクアラインを経て、館山自動車道を走ったのだが、ご自慢のオートパイロットは率直にいって制御が荒い。機能上の不備はもちろんないのだが、交通量が多い環境だと自動のアクセル操作が大雑把で癇に障る場面が多々あった。また、テスラの中では量販仕様とはいえ、走りの質感に言及するならプレミアム度もあと一歩、というのが実際のところになる。

CHECK POINT 3/内浦海水浴場、走行距離:187km、気温:10 ℃、写真/房総フラワーライン 表示される航続距離に変化が出始めたのこのあたり。道路状況は前半とさほど変わらなかったが、時折雨脚が激しくなる環境もあってかモデル3の落ち込みが激しい。50km以上あったIペイスに対するマージンは10kmに。 I-PACE 航続可能距離:179km、EQC 航続可能距離:125km、MODEL3 航続可能距離:189km
ちなみに、スタートから120kmほどを走破した段階の航続距離表示を順位付けするとカタログ値通り。天気を除けばEVには有利な低中速巡航が幸いしてか、モデル3は300km近くを走れると主張。一方、EQCは早くも200kmを割る表示。日帰りという前提なら少し心許ない状況になった。
しかし、結論からいえば今回の比較でEQCに不満を抱いたのはこの1点だけ。いや、EVにおける航続距離が大問題なのは筆者も承知している。だが、モデル3から乗り替えて千葉の外房を淡々と走らせるだけでもEQCの質感、クルマとしての完成度の高さはそれを忘れさせるほどだった。EV本来の魅力である静粛性や滑らかな加速には一層の洗練が加わり、ライド感はメルセデスそのもの。
「○○である前にメルセデス」という常套句は、EQCにもピッタリと当てはまる。ステアリングの操舵感に至っては、ツインモーターのEVにありがちな不自然さを払拭。適度なウェット感すら伝えるそれは、ボールナット式を採用していた往年のモデルすら彷彿とさせる出来映えだった。

CHECK POINT 4/市原舞鶴IC、走行距離:240km、気温:8 ℃、写真/御宿海岸、国道297号
御宿町到達時点で、それ以上の北上は断念。以降は国道297号線で半島を横断する。この区間では、Iペイスとモデル3が精彩を放っていた。左の航続可能距離は、最終チェック地点到達時。EQCはスリリングな数値だ。
EQC 航続可能距離60km、I-PACE 航続可能距離117km、MODEL3 航続可能距離106km
さて、千葉の海岸沿いを周囲の流れに合わせつつ北上。信号が少ない郊外路、ということで3車の航続距離表示は漸進的に減っていく状況が続いた今回の比較だが、走行距離が200km近くになったあたりから変化が訪れる。それまで盤石と思われていたモデル3の減り方が、EQCやIペイスより明らかに早くなったのだ。
走行可能距離はいずれも十分に実用的
撮影の都合もあって、モデル3が2車より多少長い距離を走っていたのは事実だが、ここまで2位だったIペイスとの差はみるみるうちに縮小。海岸線に別れを告げ、内陸のアップダウンがある国道に入ると、その傾向には一層の拍車がかかる。前述のようにモデル3のバッテリー容量は非公開だが、聞くところによれば70kWh台とか。それが事実ならEQCが80kWh、Iペイスは90kWhなのでIペイスとの差が縮まっても不思議はない。また、電力制御の点でコース前半がモデル3に有利だった可能性もある。実際、ワインディングを含む内陸を経て高速道入り口に到着した段階で順位が逆転。モデル3に代わり、ついにIペイスが走行可能距離でトップに立った。
そして、EQCが“電欠”間近となった海ほたるで今回の比較は終了。モデル3とIペイスの差はさらに拡がったが、両車300km以上は走れるという結果を残した。公称スペック、前半の状況を思えばIペイスの伏兵ぶりは際立ったものといえるが、走行環境に左右されにくい電力マネージメントが最新のEVとして強い説得力を持つことは間違いない。Iペイスというと、そのクロスオーバー的なスタイリングやスポーティな走りに目がいきがちだが、実務派EVとしても十分にイケているわけだ。上質感ではEQC、EVとしての新鮮味ならモデル3の方がわかりやすいが、プレミアムなEVの選択肢としてIペイスが有力な1台であることは確かだろう。

GOAL/海ほたるパーキングエリア、走行距離:275Km、気温:8.5 ℃
海ほたるパーキングエリア到着時の最終結果はこちら。EQCはバッテリーの残量警告が出ている状態。いずれも計算上なら都内に戻れるが、CHAdeMOの急速充電器を使用する場合、ここまで減らしてしまうのは避けたいところ。
EQC 航続可能距離17km、I-PACE 航続可能距離79km、MODEL3 航続可能距離51km
とはいえ、今回の3車でも内燃機関のクルマに対して航続距離が十分というわけでは決してない。かつてを思えば、EQCでも悪条件下で275kmを走破したのだからEVユーザーとなる“敷居”が低くなっていることは間違いない。しかし、バッテリーの大容量化が進行するクルマ側に対応した充電網の整備は、もはや喫緊の課題だ。出先で30分以上足止めされ、それでも数十%程度しか電力を回復できない現状のままでは、せっかく高性能化したEVも宝の持ち腐れになってしまうからだ。
【Specification】MERCEDES-BENZ EQC
■全長×全幅×全高=4770×1925×1625mm
■ホイールベース=2875mm
■車両重量=2500kg
■原動機=電気モーター×2
■最高出力=408ps(300kW)/4160rpm
■最大トルク=765Nm(78.0kg-m)/0-3560rpm
■バッテリー総電力量=80kWh
■サスペンション(F:R)=4リンク:マルチリンク
■ブレーキ(F:R)=Vディスク:Vディスク
■タイヤサイズ(F:R)=235/50R20:255/45R20
■車両本体価格(税込)=10,800,000円
お問い合わせ
メルセデス・ベンツ日本 0120-190-610
【Specification】JAGUAR I-PACE HSE

I-PACE/Iペイスの充電口は、フロントフェンダー左右に振り分けられる。右側が普通充電で左側がCHAdeMO。充電器の立地条件にもよるが、CHAdeMOのコネクターは大きく、重いので出先での充電は少し面倒。
■全長×全幅×全高=4682×2011×1565mm
■ホイールベース=2990mm
■車両重量=2230kg
■原動機=電気モーター×2
■最高出力=400ps(294kW)/4250-5000rpm
■最大トルク=696Nm(70.9kg-m)/1000-4000rpm
■バッテリー総電力量=90kWh
■サスペンション(F:R)=Wウイッシュボーン:インテグラルリンク
■ブレーキ(F:R)=Vディスク:Vディスク
■タイヤサイズ=245/50R20
■車両本体価格(税込)=11,830,000円
お問い合わせ
ジャガー・ランドローバー・ジャパン 0120-050-689
【Specification】TESLA MODEL3 PERFORMANCE

MODEL3/独自展開の「テスラ・スーパーチャージャー」を使う前提ならコネクター、充電口がコンパクトなテスラが現行EVでベスト。CHAdeMOの急速充電器を使用する際は、写真のようなアダプターを使用。
■全長×全幅×全高=4694×1849×1443mm
■ホイールベース=2875mm
■車両重量=1860kg
■原動機=電気モーター×2
■サスペンション(F:R)=Wウイッシュボーン:マルチリンク
■ブレーキ(F:R)=Vディスク:Vディスク
■タイヤサイズ=235/35ZR20
■車両本体価格(税込)=7,173,000円
お問い合わせ
テスラ・モーターズジャパン 0120-982-428