国内試乗

【国内試乗】「トヨタ・ヤリス」これがトヨタの底力!

実質的にはヴィッツの新型モデルとして、モデル名を欧州と共通のヤリスにあらためて登場したトヨタのグローバルコンパクト。2015年のプリウスから採用され始めたTNGAプラットフォームの最新小型車版をベースに、入念に作り込まれた基本性能の高さは、スッとステアリングを切った瞬間に実感できる。トヨタ渾身の一台だ。

日常のパートナーに最適なごく自然な身のこなし

新型ヤリスはプラットフォームからサスペンションやパワートレインに至るまでほとんどすべてが新設計で、従来型からの流用部品はほぼゼロと目される。GA-Bと呼ぶプラットフォームは、今後ほぼすべてのトヨタのコンパクトカーに採用されるわけで、その生産台数が膨大になることは想像に難くない。絶対に失敗が許されないだけでなく、汎用性やある程度の設計の自由度も盛り込まなくてはならないプラットフォームの設計を担ったエンジニアの心労は察するに余りある。

写真はハイブリッドのG。トヨタのコンパクトカーとしては初めてE-Four(電気式4WDシステム)が用意されるのもトピックだ。

ヤリスの資料にある「開発の狙い」には、何度も「ボディ剛性の向上」と書かれていた。直進安定性も操縦性も乗り心地も接地性も、ひとつひとつのネガを潰してチューニングするよりは、しっかりしたボディを作った方が圧倒的に話は早い。いっぽうで、ボディ剛性の向上は漫然とやると見る見るうちに重量増となってしまう。軽量化もまた避けては通れないハードルだが、従来型比で50kgものダイエットに成功したという。これは、ねじり剛性を30%以上強化した上での数値である。

ダッシュボードを上下2段としたシンプルで機能的なコクピット回り。スマホ連携の大型ディスプレイは上位グレードに標準装備。

ボディがいいと、運転中のさまざまな“無駄”が消失する。無駄な振動、無駄な挙動、無駄なノイズに無駄な荷重移動などが低減されると、ドライバーの入力に対してレスポンス良く期待通りの反応が得られるようになり、ヤリスはまさにそうなっていた。

新開発となる1.5L3気筒で、トランスミッションはダイレクトシフトCVTと6速MTを用意。

ステアリングを切るとスッと動く。この当たり前の所作がとても心地よい。ピッチ/ロール方向の動きが思いのほか小さく、加減速や操舵に対して速やかに姿勢が整う。決してスポーティではないけれど、ドライバーの意志に従順に応えてくれるだけでも気持ちがいいものである。

こちらも新開発となる1.5L3気筒のハイブリッドで、WLTCモード燃費は世界トップレベルの36.0km/Lを実現。

乗り心地も悪くない。強固なボディとよく動く足周りのおかげでもあるが、諸元表を見たらヤリスは結構なロングホイールベースであることが判明した。全長に対するホイールベースの占める割合は64.7%にも及び、これは同クラスのホンダ・フィット(63.3%)を上回る。もちろん、その恩恵は後席のスペースにも現れており、身長173cmの自分が座っても前後上下方向に十分な余裕が残されていた。

小型車向けTNGAプラットフォーム(GAB)を初採用。軽量かつ高剛性、さらに重量配分の最適化による低重心を実現している。

パワーユニットは新開発の1.5L直列3気筒、それにモーターを組み合わせたハイブリッド、1L直列3気筒の3タイプで、今回は1.5Lのふたつを試した。3気筒エンジンには前後に動こうとする慣性偶力がつきものだが、これが見事に抑え込まれていて驚いた。ガソリンと組み合わされるCVTは発進時用のギアが付いているので、停止からのもたつきや過度なエンジン回転上昇が見られない。ハイブリッドはラバーバンドフィールが薄く回生ブレーキの立ち上がりもまずまずだった。ただ、いずれのパワートレインでも、A/Bペダルの踏力が軽すぎて無用に踏み込んでしまう場面があった。もう少しだけ踏力が重いと、加速も制動もよりコントロールしやすくなるだろう。

前席にはシートをドア方向に回転しながら傾けて乗降をサポートするターンチルトシートをオプションで用意。

都内をウロウロしても、ハイブリッドの燃費計は24.6km/Lを表示していた。試乗車のオプションリストを見たら、AC100V(最大消費電力1500W)用コンセントが装着されていた。キビキビ走るガソリンもいいけれど、ハイブリッドに気持ちが傾いた。今日は3月11日だった。

ロングホイールベース化により、後席の乗降性、居住性ともに従来型から飛躍的に向上。

フォト=柏田芳敬/Y.Kashiwada ルボラン2020年5月号より転載

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