メルセデス・ベンツ

“ベストCクラス”はどれだ!? メルセデスの最新Cクラスセダン・ステーションワゴン・オールテレインを一同に集めて徹底比較してみた

燃費向上にも寄与する賢い制御のISG仕様

“ISG”とはインテグレーテッド・スターター・ジェネレーターの略。エンジンの補機類は通常ベルトによって駆動しているが、補機類を電動化してベルトをなくすことで、エンジン全長を抑えている。また、スタータージェネレーターをモーターとしても利用し、状況に応じてエンジンの駆動力に上乗せされる。

エンジン型式ではなくエンジンパワーで見れば、Cクラスには事実上3種類のパワーユニットが存在することになる。ガソリンのC180とC200の出力/トルクの差はそれぞれ34ps/50Nm。この差を大きいと思うか小さいと思うかは人によると思うけれど、実用域でC180が非力に感じる場面はまったくない。幸いなことにISG仕様だから、低回転でのトルク不足領域はモーターがそれを補ってくれるので、大差は感じられないのである。CクラスのカタログにはJC08やWLTCなど5種類の燃費が記されていて、両者の数値を比べて見るとほとんど差はない。それでも価格差は50万円以上ある。装備の違いはLEDライトかデジタルライトか、プライバシーガラスのあるなしくらいなので、フツーに使うのであればC180で十分だと思われる。

もし燃費を重視するのであれば、C220dがその要望に応えてくれるだろう。ディーゼルエンジン+ISG仕様の組み合わせは、燃費の観点からすればいまのメルセデスの中では(BEVを除けば)最強である。

今回の試乗車は偶然にもすべてC220dで、セダンで都内の自宅から箱根ターンパイクまで走ったら燃費計は21km/Lを表示していた(エコモードを選択)。現在の自分の愛車もディーゼルで、最近の燃料代高騰の折り、高くなったとはいえ軽油でよかったとしみじみ実感している。C180よりも約80万円高の車両本体価格の元が果たしてとれるのかどうかは微妙なところではあるものの、ディーゼルのほうがガソリンスタンドでの精神的ショックはしばらく和らぐのは間違いない。

ステーションワゴンに対し約40mm高められた最低地上高、ふたつのオフロード走行モードを装備。SUVの力強さを表現するシングルルーバーのラジエターグリルをはじめ、専用の18インチ5スポークアルミホイール、前後バンパー下部のシルバークロームアンダーライドガードやブラックのホイールアーチカバーを取り入れることでSUVらしさを強調。そんなオフローダー的なエクステリアだが、ボディサイズは一般的な駐車場に入るサイズに収められている。

このISG仕様、なかなか賢い制御をしてくれる。エコモードを選んで例えば高速道路を走行中に、アクセルペダルから足を離すとエンジンが止まってコースティングモードに自動的に切り替わる。山道の下り坂でもアクセルを戻せばコースティングモードになるが、そのままだと速度が徐々に上昇してしまう。で、ブレーキペダルをそろそろ踏もうかなと思ったタイミングでエンジンが始動、ATの3速か4速を選んでエンジンブレーキかけつつ48Vバッテリーにも充電をする。こういう制御をしてくれるとドライバーのストレスは軽減されるし、アクセルやブレーキのペダルをちょこちょこ踏み換える煩わしさからも解放され、エンジンブレーキを使ったとしても結果的には燃料消費量の削減につながるのである。3車に決定的な差はなく3車ともに快適性に優れる。

試乗車がすべて同じパワートレインだと、比較する側としては何かと都合がいい。比較する上でもっとも大事なのは、できるだけ条件を揃えることだからである。エンジンのスペックは同じなので、動力性能で差を感じたらそれは主に重量や空力が原因だという見当も付けやすい。軽快感がもっともあるのはセダン、重くはないけれど重厚感のようなものを感じるのはオールテレイン、ワゴンはその中間で、これは車両重量と比例している。セダンは1780kg、ワゴンは1850kg、オールテレインは1900kg。唯一の4WDであるオールテレインがやっぱり1番重かった。ちなみに前後軸重は、ワゴンとオールテレインはいずれもリアが910kgだが、フロントはオールテインが990kg、ワゴンが940kg。オールテレインのトランスファーと前輪のドライブシャフト+ディファレンシャルがおそらく50kg相当なのだろう。

50kgと言えば人ひとり分くらいだが、だからといってオールテレインをドライブしていてフロントヘビーだと痛感する場面はほとんどない。4マチックはフルタイムの4駆で、常に4輪にしっかりとトラクションがかかっているからフロントの重さを感じにくくなっていると推測できる。ちなみに、ワゴンで4WDを選ぼうとすると、現状ではオールテレインしかない。

こちらはセダンのインテリア。縦型11.9インチのセンターディスプレイによる直感的な操作が可能なほか、生体認証(指紋、声)によるシートポジション等の設定、AR(拡張現実)ナビゲーションなど、ステーションワゴン/オールテレインともに基本的なインテリアの意匠と機能はCクラスセダンに準じる。

タイヤサイズはセダンが標準の17インチ、ワゴンはAMGラインのパッケージオプション装着車だったので18インチ、オールテレインは標準の18インチ。乗り心地がもっともいいのはセダンだった。AMGラインにはスポーツサスペンションも含まれていて、標準よりもダンパーの減衰が速く、ばね上の動きがやや気になる。オールテレインはセダンに限りなく近い乗り心地を示す。オフロード走行にも対応可能なサスペンションはストローク量がセダンやワゴンよりもわずかに多く、でも車重は重いから脚はよく動くのにばね上はその影響を受けにくいからだ。

ステアリングの切り始めの反応はワゴンがもっともいい。スポーティと呼ぶほどではないと個人的には思うけれど、総じて無駄な動きの少ないスッキリとした操縦性である。セダンとワゴンはドライバーの入力に対してあくまでも従順に従うハンドリング特性だ。これはこれで安心してステアリング操作ができる。予想外の動きは絶対にしないからだ。

ラゲッジルーム容量はセダンが455L、ステーションワゴンとオールテレインは同値となり490~1510Lを確保する。すべてのモデルでリアシートは分割可倒式を採用。夜間停車中にラゲッジを開けた際に、後方確認できるよう表示灯が付いているのはさすがメルセデス。

総じて現行Cクラスはどれを選んでも決定的となるほど大きな差はなく、快適性に優れたセダンとワゴンとなっている。セダンもワゴンも日常的に使うならC180でこと足りるだろうし、長距離移動が多いならディーゼルという選択もある。オールテレインには「オフロード」と「オフロード+」という専用のドライブモードがある。これはGクラスの開発チームが制御プログラムの開発を監修しており、ワゴンよりも40mm高くなった最低地上高と相まって、例えば”ゲレンデエクスプレス”としては最良だろう。Cクラスのパワートレインとボディタイプのさまざまな組み合わせは、多くの人にとっての最適な1台をこぼすことなくすくってくれるに違いない。

フォト=望月浩彦/H.Mochizuki ルボラン2022年7月号より転載

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