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【Tipo】あの頃人気だったフツーのハッチバック車大全!! 路面から数cmのところを滑空しているような浮遊感『シトロエンBX』編

今にして思えば、1980年代終盤から1990年代初頭は、輸入ハッチバック車が一番輝いていた時代かも知れない。かつて何台かを所有した経験のある森口将之氏に、こうしたクルマがまだまだ楽しめるのかを検証していただいた! まずはシトロエンBXをピックアップ!!

あの頃のフツーのハッチバック車が、今とても新鮮!

僕が姉妹誌カー・マガジンの編集部に入ったのは、ティーポの創刊と同じ今からちょうど30年前(執筆時)。もっともそれ以前から自動車雑誌の編集に携わっていたので、ここにある3車種はすべて新車で乗ったことがある。

当時から見て30年前というと1959年だから、クラシック・ミニがデビューし、国産車では初代ブルーバードが登場した年になる。当時の自分にとってはどちらも十分以上に旧いクルマであり、実用に使うのは難しいと考えていたものだ。

では2019年から見て30年ほど前のモデルになる、この3車種はどうだろうか。

昔と違うのは、高級車じゃなくてもパワーステアリングやパワーウインドー、ATが当然のように用意されるようになり、エンジンはインジェクション仕様になって、扱いやすさという点ではかなりレベルアップしていたということだ。

でも30年前ということを考えると、はたして今使えるのか? という疑問が湧く人もいるだろう。そこで今回はスポーツモデルのMTではなく、実用グレードのATで揃え、2019年の東京で走らせてみることにした。

僕はBXと205を所有したことがあるけれど、BXは16TRS、205はGTI 1.6でどちらもMTだったので、それらの経験はいったん切り離して取材に臨むことにした。

3台のデビューの時期は近く、シトロエンBXが1982年で、プジョー205とフォルクスワーゲン(VW)ゴルフ(II)は次の年だ。取材車はBXが1990年式19TRI、205は1994年式SI1.9、ゴルフは1992年式GLIだった。

その後の系譜を辿っていくとBXはC5に行き着くからDセグメント、205は208だからBセグメントということになり、ゴルフはCセグメントだから車格はすべて違うことになる。

路面から数cmのところを滑空しているような浮遊感

とはいえもっとも大きなBXでも全長は現行ゴルフと同等で、幅は5ナンバー枠内に収まる。このサイズ感がまず好ましい。当時のベルトーネのチーフデザイナー、マルチェロ・ガンディーニが描いたスタイリングはガンディーニらしい直線基調で、デビュー当時は賛否両論が巻き起こったが、今見ると長いホイールベースにゆったり弧を描いたルーフラインなど、シトロエンそのものの形だ。

長くて低いキャビンは、身長170cmの僕なら前後に楽に座れる広さを持つ。トランクも直方体で使いやすい。それ以上に印象的なのは明るさ。これは今回の3車種すべてに共通することだけれど、安全基準がさほど厳しくなかった時代ならではの低いインパネや大きな窓は、乗る者を開放的な気分にさせてくれる。

【写真16枚】路面から数cmのところを滑空しているような浮遊感! シトロエンBXの詳細を写真で見る

当然ながらこの3台はリモコンキーやスターターボタンなど備わる前の世代。キーを捻って始動する。ただしどれもインジェクション仕様なので気難しさはない。BXの1.9L直列4気筒SOHCは、まずキャブレター仕様の19TRSとして登場し、途中でインジェクション仕様に切り替わった。

1.6Lの16TRS/TRI同様、当時のシトロエンやプジョーではおなじみだったXU系で、カラカラした響きのアイドリングが懐かしい気分にさせてくれる。

BXは車重が軽いことも特徴で、この19TRIでも1トンちょっとしかない。おかげで100PSと4速ATのコンビでも出足がいい。でもこのクルマの場合は、パワートレインは乗り心地を味わうための脇役という印象を抱いてしまうのも事実。

やっぱりハイドロニューマチックの乗り心地は印象的だ。路面から数㎝のところを滑空しているような浮遊感と、長い周期のふわーんという揺れは、金属バネではなかなか得られないだろう。シートも負けずにソフトで、サポートするというより、腰のあたりをまろやかに包み込む雰囲気。街中を流しているだけでも病み付きになれる。

先の信号が赤になったのでブレーキを踏む。スイッチのような反応で、ここもハイドロ系であることを教えられる。ステアリングにも同じ系統のオイルを使っているので、路面の感触はあまり伝えずスパッと切れる。

ボディが軽いからノーズの動きは軽快。フラッグシップのDSやCXのようにぐらっとロールしないのも、上屋の軽さのおかげだろう。ただホイールベースは長いので、その後の身のこなしはゆったりしている。他車ではあまり体験できない独特のリズム感。これもまたBXならではの楽しみだ。

オドメーターの数字が8万km台だったのにボディがしっかりしていたのは、足周りがマイルドだったおかげかもしれないが、軽量ボディということを考えるとすごいことだ。あの2CVから現在のC4カクタスまで、シトロエンは驚異的な軽量化と豊かな乗り味を両立させることが伝統芸になっている。その伝統はBXにもしっかり受け継がれていることを再確認した。

贅を尽くしたビッグシトロエンとはひと味違う、絶妙なバランス感覚。それを水冷エンジンとATという、多くの人にとって親しみやすいメカニズムとともに味わえるところもBXの良さなんだと感じた。

(中編・プジョー205へ続く)

【SPECIFICATION】1990年式シトロエンBX 19 TRI
■全長×全幅×全高:4235×1680×1365mm
■ホイールベース:2655mm
■車両重量:1070kg
■エンジン:水冷直列4気筒SOHC 8バルブ
■総排気量:1904cc
■最高出力:100PS/6000rpm
■最大トルク:14.8kg-m/3000rpm
■サスペンション(F/ R):ストラット/トレーリングアーム
■ブレーキ(F/R):ディスク/ディスク
■タイヤ(F&R):175/65R14

撮影:奥村純一 取材協力:モダンサプライ・ガレージ ティーポ359号より転載

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