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FFでもSUVでも、しっかりアルファ! 待望の上陸を果たしたアルファ ロメオ・トナーレ試乗レポート

アルファ ロメオのコンパクトSUV、トナーレが待望の上陸を果たした。トピックは、アルファ初となるハイブリッドシステムを搭載した電動化モデルであることだが、果たして伝統のスポーツ性能とのマッチングはいかがなものなのだろうか?

サイズは小さくてもしっかりアルファ ロメオ

編集部のスタッフから「到着しました」とラインが来て、急いで靴を履き玄関の鍵を閉め、深紅のトナーレの運転席にヒョイッと乗り込み、ユルユルと走り出してひとつ目の交差点をゆっくり曲がったらちゃんとアルファ・ロメオになっていて、マスクの中で思わずほくそ笑んでしまった。

日本ではマセラティがレヴァンテより小さいグレカーレを、アルファ・ロメオがステルヴィオより小さいトナーレをほぼ同時期に発表した。これら4モデルのうち、レヴァンテとグレカーレとステルヴィオはアルファ主導で開発された“ジョルジョ”プラットフォームを共有するエンジンが縦置きのパワートレインレイアウトだが、トナーレはステランティスグループのジープ・コンパスやフィアット500Xなどが共有する”スモール・ワイド”プラットフォームを使い、エンジンを横置きする。駆動形式も、前述の3モデルが4WDもあるのに対してトナーレの日本仕様は前輪駆動のみとなる。

エンジンが横置きだとか前輪駆動だとか、そういうもはや前時代的な先入観にうっかりとらわれて試乗を始めてしまった自分を恥ずかしく思った。低速域でも容易に分かるステアリング操作に対するクルマの生き生きとした挙動に「アルファにはエンジンの向きとか駆動形式とか関係ないんだった」と思い出し、だからほくそ笑んだのである。

もっと言えば、「プラットフォームの共有」という言葉から想起する「似たような乗り味」みたいな方程式もいまやほとんど成立しなくなった。実際、トナーレにジープ・コンパスやフィアット500Xを彷彿とさせる部分など微塵も感じられない。まごうかたなきアルファのそれである。

【写真14枚】FFでもSUVでも、しっかりアルファ! トナーレの詳細を写真で見る

まごうかたなきアルファのそれとは主に操縦性に関してで、ステアリングを切ってから車体が向きを変えるまでのほんのわずかな時間の過渡領域を指している。減速すると荷重が前輪寄りになり、ステアリングを切るとばね上はピッチ方向の動きからロール方向へ変化して、ほどなくしてヨーが発生しフロントノーズがステアリングを切った方向を目指す。こうした一連の動きはどんなクルマにも起こる物理的事象ではあるけれど、アルファはその一瞬の所作の作り込みに全身全霊を傾けている。ピッチ/ロール/ヨーの発生するタイミングや量やつながりを精査して、アルファ独自の処方箋に合うよう調整しているのである。

マイルドハイブリッドの実力やいかに?

ジョルジョ・プラットフォームなら、そもそもアルファが開発に携わっていたのでそれほど難しい作業ではなかったかもしれない。トナーレはそれに比べれば重心は低くなく、前後重量配分も60:40(車検証値)だからいわゆるフロントヘビーでもある。それでもジュリアやステルヴィオとほぼ同じ操縦性を実現した。両手の動きに対して瞬時に応え期待通りに動いてくれるから、ドライバーの意志がダイレクトにクルマに通じている感覚が強く、まるで会話しているようでもある。想定外の動きはしないし、局面によっては期待以上の華麗な挙動を見せてくれる。

ちなみにトナーレのサスペンションは前後ともストラットである。ダブルウイッシュボーンやマルチリンクよりも構成部品が少なくスペース効率がよくてコストは抑えられるいっぽうで、手が加えられる範囲が限定的となる。つまり車種毎の乗り味の違いを出すのが難しいとされるが、トナーレを運転しているとアルファにとってそんなことはまったく意に介さない話なのだろうなと思った。

日本仕様のトナーレが積むパワートレインは新たに開発されたマイルドハイブリッドである。1.5Lの直列4気筒ターボはBSG仕様で、7速のデュアルクラッチ式トランスミッションを組み合わせている。これだけなら最近よく見かける形式だが、エンジンとトランスミッションの間にクラッチ付きの駆動用モーター(20ps/55Nm)を仕込んでいる点がこのパワートレインの最大の特徴である。つまり、BSG仕様のマイルドハイブリッドなのにEV走行が可能なのだ。ただし、運転席と助手席の間の下に置かれた駆動用リチウムイオンバッテリーの容量は大きくないので、主に20km/h以下の低速時のみモーター駆動となる仕組みである。

パワースペックは160ps/240Nmなので、決してパワフルな数値ではないけれど、BSGや駆動用モーター、そしてターボが1.5L直4エンジンをうまくサポートするので想像以上の動力性能を示す。少なくともモッサリした印象はまったくない。いっぽうで、操縦性のようにアルファらしい官能的なパワートレインかと聞かれれば残念ながらそうではない。車両本体価格が500万円台の電動化ユニットにそこまで求めるのはちょっと酷かもしれない。でも4000rpm付近からレブリミットあたりまでは、かすかにアルファの片鱗を感じさせる気持ちのいい吹け上がりを見せてくれた。

試乗車は導入記念の”エディツィオーネ・スペチアーレ”で、20インチのタイヤを履いていた。おそらくこのせいで乗り心地は若干硬めだが不快になるほどではない。メーターは液晶、センターモニターも液晶のタッチ式というのはトレンド通りだが、エアコンやドライブモードは機械式スイッチで、特に運転中はすべてをタッチパネル内にしまい込んだクルマよりずっと使い勝手がいい。シフトブーツと大きなグリップのシフトセレクターだけは、今風の室内の雰囲気に似合わないように思ったけれど、これも伝統を重んじる彼らのこだわりなのかもしれない。

【Specification】アルファ ロメオ・トナーレ・エディツィオーネ・スペチアーレ
■全長/全幅/全高=4530/1835/1600mm
■ホイールベース=2635mm
■トレッド(前/後)=1580/1580mm
■車両重量=1630kg
■乗車定員=5名
■エンジン形式=直4DOHC16V+ターボ
■総排気量=1468cc
■圧縮比=12.5
■最高出力=160ps(117kW)/5750rpm
■最大トルク=240Nm(24.5kg-m)/1700rpm
■モーター最高出力= 20ps(15kW)
■モーター最大トルク= 55Nm(5.6kg-m)
■燃費(WLTC)=16.7km/L
■トランスミッショッン形式=7速AT
■サスペンション形式(前:後)=ストラット/コイル:ストラット/コイル
■ブレーキ(前/後)=Vディスク/Vディスク
■タイヤ(前:後)=235/40R20:235/40R20
■車両本体価格(税込)=¥5,780,000

フォト=郡 大二郎 ル・ボラン2023年4月号より転載

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