国内試乗

【国内試乗】スーパーラグジュアリーの新たなる最適解「ロールス・ロイス・スペクター」

ロールス・ロイス初となるフル電動化モデル「スペクター」を日本の公道で試乗。完成度やクオリティは予想通りではあるものの電動化でも一切動じることなく、最上の世界観やドライバビリティを提供できることこそ、ロールス・ロイスの矜持と言える。

首都高のジョイント部もフンワリと過ごす

初のBEVであるスペクターの発売に先立ち、ロールス・ロイスは世界中から9名のジャーナリストを南アフリカに呼び寄せ、総仕上げの段階にあったスペクター・プロトタイプのステアリングを託した。このとき、参加した9名には「抜き打ち試験」のようなものが用意されていた。事前になんの説明もなく、試乗後に「どうでしたか?」と訊ねられるだけなのだが、ここで「パーキングブレーキが自動的にリリースされる際、軽いショックとノイズを伴う点がロールス・ロイスらしくない」と答えるのが正解で、これを指摘できなかった場合には「ジャーナリストとしての資質に難あり」との烙印を押されかねなかったのである。

ロールス・ロイス・スペクターでは、完璧を目指すクルマ作りが徹底的に貫かれている。

もちろん、これは軽い余興のようなものだが、この試験を無事にパスした私は「量産車はどれくらいスムーズに発進できるようになったのか?」が確認できる日を、ウズウズしながら待ち続けた。
あれから1年半が過ぎて、ようやくそのときがやってきた。

ロールス・ロイス・スペクター

ステアリングコラムから伸びたシフトレバーでDレンジを選び、すっとスロットルペダルを踏み込んでみる。するとスペクターは、文字どおり音もなく、滑るようにして走り始めたのである。

「パーキングレーキの件は我々も承知していますし、量産車では必ず解決してみせます」南アフリカのホテルでロールス・ロイスの技術部門を指揮するミヒアル・アヨウビはそう語ったが、彼は約束を完璧に果たしたのである。

一充電走行可能距離は530km(WLTP)。マイナス40℃から50℃まで極限の温度環境や、北極圏の氷雪から砂漠、世界各地の巨大都市に至るまで、さまざまな環境でテストを行なった。

そう、この“完璧”という言葉こそ、ロールス・ロイスにもっともふさわしい表現だ。
乗り心地がいいクルマは、世の中にいくらでもある。静かなクルマだって枚挙に暇がないほど。しかし、いついかなるときでも、そしてどんなに過酷な環境であっても、恐ろしく快適で静かなクルマはそうそうない。そしてロールス・ロイスこそは、そんな常識の外側に存在する、数少ない自動車ブランドのひとつなのだ。

クラフトマンシップを見事に表現したフルデジタルの「ビスポーク・インストルメント・ダイヤル」。ロールス・ロイス独自のアプリケーション「Whispers」を搭載し、スペシャリストがドライバーやパッセンジャーのためにキュレーションした情報を受け取ることも可能。

そうした、限りなく完璧に近いクルマを作り上げるため、彼らはスペクター・プロトタイプで250万km以上のテスト走行を行なったという。そのメニューのなかに日本での走行は含まれていなかったが、東京の首都高を走っていて、驚くべき体験をした。

室内はウッド、レザー、アルミ、真鍮などの金属から成っておりプラスチックは見当たらない。デジタライゼーションとクラフトマンシップの絶妙なバランスは、まさに匠の技。

日本の高速道路でよく目にする金属製のジョイント部ほどやっかいなものはないと、欧州のメーカー関係者からよく耳にする。あれほどシャープな突起が連続する道路は、世界中探しても滅多にないそうだが、このジョイント部をスムーズに乗り越えられない限り、乗り心地に関して日本で高い評価を得ることはできない。そこで、ジョイント部での振る舞いを確認するだけのために、日本にやってくる欧州メーカーさえあるそうだ。

ロールス・ロイス・スペクター

そこまで念入りにチューニングしても、「不快でない」レベルまで仕上げるのが精一杯というのが実情。ところがスペクターは、ジョイント部を乗り越えるときに「コトッ」と小さな音を立てるだけで、あとはフンワリと滑らかにやり過ごしてしまうのである。その際の挙動は「我慢できないこともない」どころではなく、むしろあまりに心地よくて次のジョイントが待ち遠しく思えるほどだった。

ロールス・ロイス・スペクター

スペクターでロールスの理想がついに実現した

全幅が2m強もある巨漢でありながら、首都高の狭い車線の真んなかを簡単にトレースできるところもロールス・マジックのひとつ。これは、正確でレスポンスがいいのに適度な“落ち着き感”が与えられたハンドリングの恩恵でもあるが、見切りがいいボディと、フロントグリルの最上部に鎮座するスピリット・オブ・エクスタシーの効果も大きいと私は睨んでいる。

前方に大きく開き、特に前席への乗降性に優れた前開きのコーチドアは約1.5mにも及ぶ。他のモデルではAピラー付近に開閉スイッチが備わるがスペクターには設置されていない。

もしもあなたのスペクターが右ハンドル(試乗車がまさに右ハンドルだった)だとしたら、スピリット・オブ・エクスタシーの先に路側帯の白線が見えるようにすれば、左側に適度のスペースを残した状態で車線をトレースしているはず。ただし、これは車線が狭い場合であって、もう少し車線が広いところではスピリット・オブ・エクスタシーと路側帯の間に少し間隔を置けばいい。いずれにせよ、この辺の感覚はごく短時間のうちに身につくことだろう。

ロールス・ロイス・スペクター

そう、とにかく快適で運転しやすいのがロールス・ロイスの美点なのだが、これはスムーズなドライブをショーファーにしてもらうために必要な条件であると同時に、オーナーが自らステアリングを握るときにも好ましいキャラクターとなりうる。つまり、乗り心地だけでなく、運転のしやすさや意のままに操れるところまで念入りに作り込まれているのがロールス・ロイスであり、スペクターなのだ。

ロールス・ロイス・スペクター

ロールス・ロイスの完璧を目指すクルマ作りは、デザインや素材の質感、さらには味わい深いカラーリングにも貫かれている。それらは、よく言われているように、工芸品というよりも美術品に近い美しさを湛えているように思う。

ボディカラーに合わせた専用アンブレラやスターライトヘッドライニングなど、ロールス・ロイスを代表する設え。もちろん全てがビスポークでオーナーの好みで仕上げられる。

そしてまた、キャビンは徹底的に静かでありながら、ロードノイズなど運転に必要な情報は不快にならない範囲で適切にもたらされるところもロールス・ロイスの特徴であり、車内の静寂が生み出す心地よさが、電動パワートレインによってさらなる極みに到達したのがスペクターの真骨頂なのだ。この快適さを味わったら、たいていの“BEV嫌い”もコロリと参ってしまうのではなかろうか。

ロールス・ロイス・スペクター

そんなスペクターが生み出す静けさと心地よさは、ロールス・ロイスのなかでも別格というか、彼らが100年以上にわたって追い求め続けてきた理想像が、ついに実現したともいえる。
「電気自動車の静けさと清らかさは完璧なものです。匂いも振動もありません。もしも充電施設さえ充実すれば、電気自動車はとても扱いやすい乗り物になるでしょう」この言葉は、驚くべきことにロールス・ロイス創業者のひとりであるチャールズ・ロイスが1900年に語った言葉だとされる。
1世紀のときを経て、先見の明を備えたエンジニアたちの夢が、ついに実現したのである。

ロールス・ロイスの2ドアクーペとしては初めて23インチホイールを装備。また、バッテリーの搭載構造により、従来モデルよりも約30%も剛性がアップした。

【Specification】ロールス・ロイス・スペクター
■車両本体価格(税込) ¥48,000,000 〜
■全長×全幅×全高=5475×2144×1573mm
■ホイールベース=3210mm
■車両重量=2890kg
■モーター形式/種類=ー/交流同期電動機
■モーター最高出力=584ps(430kW)/ ー
■モーター最大トルク=900Nm(91.8kg-m)/ ー
■バッテリー種類=リチウムイオン電池
■一充電航続可能距離(WLTP)=530km
■サスペンション形式=前:Wウイッシュボーン/エア、後:マルチリンク/エア
■ブレーキ=前後:Vディスク
■タイヤ(ホイール)=前後:255/40R23

問い合わせ先=ロールス・ロイス・モーター・カーズ東京 TEL03-6809-5450、ロールス・ロイス・モーター・カーズ横浜 TEL0120-188-250、ロールス・ロイス・モーター・カーズ大阪 TEL06-4393-8823、ロールス・ロイス・モーター・カーズ名古屋 TEL052-744-0304、ロールス・ロイス・モーター・カーズ広島 TEL080-832-3666、ロールス・ロイス・モーター・カーズ福岡 TEL092-434-3500

フォト=篠原晃一 ル・ボラン2024年7月号より転載

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