世界初の市販水陸両用車、その知られざる数奇な運命
今年2月21日~22日に開催されたクラシックカー・トレードショー「第17回 ノスタルジック2デイズ2026(Nostalgic 2days 2026)」では、小誌ル・ボランでも新旧ランボルギーニV12フラッグシップを展示するブースを展開して大きな反響をいただいたが、それに負けないくらいに人気を集めていたのが、近隣のブースに置かれていた「アンフィカー770」だ。
その出品社である「ランデヴー(RENDEZ-VOUS)」より、詳しく取材してみませんか? というお誘いを受けたル・ボランWebでは、さっそくその提案に乗ることにした。旧西ドイツに生まれ、今やコレクターズアイテムと化している伝説の水陸両用車の実像に、ここで迫ってみることにしよう。
【画像27枚】淡いブルーが映える「サンダーバード」風の美学。25年の眠りから覚めた幻の水陸両用車の全貌
シュヴィムワーゲンを超えろ。軍用車エキスパートが夢見た民生レジャーカー
実に2500万ドルもの巨費と、15年の歳月をかけて開発されたという「アンフィカー770」は、1961年のニューヨーク国際オートショーにて、一般消費者向けに販売される世界初の水陸両用車として登場した。
その風変わりなブランドネームは、動・植物における水陸両生を意味する「アンフィビアス(Amphibious)」に、自動車「カー(Car)」を合わせた造語である。また、水上では最高7ノットで巡航が可能。一方、陸上では最高時速70マイル(約113km/h)で走行できると標榜したことから、モデル名は合わせて「770」と命名された。
旧西ドイツのカールスルーエにて、この画期的なモデルの開発を主導したエンジニア、ハンス・トリッペルは、第二次世界大戦前から水陸両用車を開発し、大戦中には「トリッペルSG6」と命名された水陸両用車を開発。ドイツ国防軍および武装親衛隊に納入していた実業家でもあったとのことである。つまり、有名な「シュヴィムワーゲン」のライバルとなり得る、水陸両用軍用車のエキスパートだったことになる。
戦後は戦犯として連合軍側に裁かれるも、1948年に釈放されると、直後から各種の民生用乗用車の開発に乗り出す。そして、複数のビジネスパートナーとともに事業化を模索するものの、成功には至らず。そこで、並行して研究を重ねていた水陸両用民生向けレジャーカーのプロジェクトに、自らの活路を見出そうとする。
そして、BMWグループのオーナーとして知られる同族経営コンツェルン、クヴァント・ファミリーを経済的な後ろ盾とすることに成功し、ついに生産化に至ったのがアンフィカーであった。
前輪が「舵」になる!? 水陸両用を成立させる独特な構造と装備
初代「フォード・サンダーバード」と小型モーターボートを掛け合わせたようなスタイルのアンフィカー。リアに搭載され、後輪を駆動するパワーユニットは、英国の小型大衆車「トライアンフ・ヘラルド」用の直列4気筒OHV 1147cc・43ps。陸上では、同時代のヨーロッパの小型車たちと同レベルの走行性能を発揮した。
他方、水上へは、ドアに設けられた水密シール、およびフロントのトランクリッドをロックしてから進入。そしてPTOレバーを操作することで、エンジンの動力をリアエンド底部の2連スクリューに導き、ラダー(舵)の役割を果たす前輪を使って操船する。
また、水中でギアをリバースに入れるとスクリューが逆回転。通常のモーターボートと同じようにブレーキの役割を果たす。さらに岸のスロープに戻る際には、後輪の駆動力とスクリュー推進力の両方が同時に操作可能とされた。
加えて、車内(船内)には2基の排水用ビルジポンプ(1つは自動式、もう1つは手動式)や2本のオール、アンカー、そして消火器など小型モーターボートとしての必須装備も装備可能としていた。
安全規制に消えた希少車。日本上陸から不動状態を経て、運命の出会いへ
当初の予定では、アンフィカー770は年間2万台の量産をすることになっており、生産に必要なコンポーネンツも準備していたという。ところが、販売価格が高価になってしまったことや、錆や信頼性の低さにも悩まされたことから販売は低迷。さらに、アメリカ合衆国にて1968年より施行された連邦交通局の新安全規制をクリアできなかったことから、生産中止を余儀なくされてしまう。
結局、発売から約7年間で生産されたのは、わずか3878台(ほかに諸説あり)。うち3046台が米国に輸出されたと言われている。
それでも、世界初にして今なお実例の少ない市販水陸両用車であるという象徴性に加え、結果として希少価値を帯びたことも相まって、特に21世紀に入った後は、多くの蒐集家がガレージに収めたい夢のクルマ(兼モーターボート)となっている。
そんなアンフィカー770だが、高度経済成長期に差し掛かっていた日本でも、ヤナセの傘下で長らくメルセデス・ベンツの輸入元でもあった「ウエスタン自動車」が、わずか5台ながら正規輸入・販売したとのこと。しかし、今回の主役となる個体は元々アメリカに輸出され、日本には1998年頃に中古並行輸入車として上陸したものである。
ただ、日本輸入後の数年間は路上走行していたものの、ボートとして国内で航行した形跡はなし。さらにはその後25年にわたって不動状態だったのを、新潟のさる旧車専門工房がレストアし、なんとあの「Yahoo!オークション」に出品されることになる。そこで手を挙げたのが、特別なクルマの共同所有という新ビジネスで現在急成長中の「ランデヴー」社の浅岡亮太代表だった。
ランデヴーは、夢のアンフィカーで水上航行を目指す
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