コラム

【現地レポート】フォーリ・コンコルソ2026──世界最高峰の美意識とドイツ車が競演した熱狂のコモ湖

Fuori Concorso 2026(フォーリ・コンコルソ2026)
Fuori Concorso 2026(フォーリ・コンコルソ2026)

Event Report : Fuori Concorso 2026

2026年5月16日と17日、イタリア・コモ湖畔は世界中から集まった熱狂的なカー・エンスージアストたちで埋め尽くされた。5月のコモ湖周辺では、世界的なクラシックカー・イベントが同時期に開催され、湖畔一帯がクルマ文化の熱気に包まれる。なかでも、いま最も熱い視線を集めているのが「Fuori Concorso(フォーリ・コンコルソ)」だ。毎年テーマを変えて開催されるこのイベント。今年掲げられたテーマは、「KRAFTMEISTER(クラフトマイスター)──至高の職人技」。

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今年のテーマは「クラフトマイスター」──ドイツ自動車文化の神髄

ドイツ自動車文化に宿る卓越したクラフトマンシップをテーマに、コモ湖を望むヴィッラ・デル・グルメッロとヴィッラ・スコータを舞台として、歴史的レーシングカー、プロトタイプ、市販車、さらにはチューナーたちによる独自の解釈を加えたマシンまでが並んだ。

イベント当日、コモ湖周辺は身動きが取れないほどの渋滞に包まれていた。駐車スペースはすべて埋まり、多くの来場者が遥か離れた場所にクルマを停め、タクシーを諦め、強い日差しの下を何kmも歩きながら会場を目指していた。私自身もその一人だった。

開場前、ようやくヴィッラ・デル・グルメッロのエントランスへ辿り着くと、すでにゲート前には長い列ができていた。入口では厳重な荷物検査が行われており、このイベントに集められた車両の価値の高さを改めて実感させられる。

柵のないスターティンググリッド──伝説の名車に手が届く距離

そしてゲートを抜けた瞬間、目の前に現れたのは、まるでレース直前のスターティンググリッドのように並べられた世界中の名車たちだった。この演出は、いまやフォーリ・コンコルソ最大の見どころのひとつになっている。ゲートをくぐる人々の表情には、「今年はどんな伝説のマシンたちに出会えるのだろう」という高揚感が浮かんでいた。

しかも展示車両の周囲には柵がなく、驚くほど自由に近づくことができる。手を伸ばせば、モータースポーツ史に残る“宝”に触れてしまいそうな距離感だ。クルマの横に立ち、まるで自分がオーナーになったかのような笑顔で写真を撮る人々の姿も目立つ。その日のSNSは、おそらく#FuoriConcorsoで埋め尽くされていたはずだ。

140年の歴史が一列に。メルセデスからポルシェ、BMWまで

スターティンググリッドと化した屋敷へ続く上り道には、ドイツ自動車史を象徴するモデルたちが整然と並んでいた。

まず目を奪うのは、140年にわたるメルセデス・ベンツの系譜だ。AMG One(2023)から始まり、SLRマクラーレン722 GT(2007)、500SLラリー(1981)、300 SL(1952)、300 SLR(1955)、W125(1937)、SSK(1928)、そしてベンツ・パテント・モトールヴァーゲン(1886)へと続いていく。140年という時間そのものが、一列に並べられているかのような眺めだった。

その周囲には、ポルシェやBMWのレーシングマシンも並ぶ。DTMを戦った190E、耐久レースのプロトタイプ、3.0 CSL──異なる時代のクルマたちが同じ空間に自然に共存している光景は、不思議な感覚を呼び起こす。

過去と未来が溶け合う空間──主催者の圧倒的な美意識

さらに屋敷の奥へ進むと、会場の空気は少しずつ変化していく。そこには、チューナーによる解釈やレストモッド、コンセプトカーが混ざり合い、現実と未来の境界が曖昧になった世界が広がっていた。

ゲンバラやケーニッヒ・スペシャル、マイバッハ・エクセレロのような極端な造形と現代のモデルが同じ空間に並ぶことで、過去と未来が同じ温度で存在しているようにも見える。すべてを追いかけるというより、気づけば会場全体がひとつの風景になっていた。ドイツのモータースポーツ文化そのものが、目の前に広がっているようだった。

フォーリ・コンコルソの創設者、グリエルモ・ミアーニ氏は、今回のテーマ「クラフトマイスター」について、「技術そのものが思想となり、やがて文化へと発展していったドイツ自動車の世界観を表現したかった」と語る。

老舗ラグジュアリーブランド「Larusmiani(ラルスミアーニ)」のオーナーでもある彼の美意識は、このイベント全体にも色濃く反映されていた。

会場には、「雑誌から抜け出してきたようだ」と思わず見惚れてしまうほど洗練された人々が次々と現れる。コモ湖の景色、並べられたクルマたち、そこを歩く人々。そのすべてが完璧に調和して見えた。

疲れれば芝生に寝転がる。それすら、この場所では自然な光景だった。この空間全体が、現実から少し浮いているようにも感じられる。湖へ目を向ければ、太陽の光を受けて煌めく水面。反対側には丁寧に手入れされた庭園の深い緑。その間に佇むマシンたちは、景色に溶け込みながらも確かな存在感を放っていた。

記憶に刻まれる情景と、特別な世界ゆえの「境界線」

アップダウンの続く坂道を歩き続けているのに、不思議と足は止まらない。次は何が現れるのか。そればかりを考えてしまう。そういう“歩かせてしまう力”が、このイベントにはある。

美しい景色、美しいクルマ、そしてところどころで流れる音楽。コーヒーの香りまでもが混ざり合い、見たもの、聞こえた音、漂う空気までもが、そのまま記憶として刻まれていくようだった。

入場料は決して安くはない。1日券で195ユーロ(約38,000円)。それでも、この体験は数字だけでは測れない。

日が傾き始めた頃、ようやく会場を後にした。

帰り道、ベルギーから来たという17歳の学生と話をする機会があった。来年は18歳になるため、チケット代が一気に高くなり、「もう来られないかもしれない」と彼は笑う。その言葉が、なぜか妙に心に残った。

フォーリ・コンコルソは、世界最高峰の美意識と熱狂を体験できる場所である一方で、その特別さゆえの距離感もまた存在している。

もう少しだけ、この世界への境界線が緩やかであれば──。そんなことを考えながら、夕暮れのコモ湖を後にした。

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フォト=野口祐子/Yuko Noguchi、Fuori Concorso

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