ユーロサトリ2026で世界初公開。民生技術が軍事の常識を覆す
フランスのルノーグループと防衛・サイバー分野の世界的企業であるタレスは、パリで開催中の安全保障・防衛専門見本市「ユーロサトリ2026」で、革新的な戦術車両「4 TROOP(フォートゥループ)」のプロトタイプを初公開した。ルノーの市販車向け量産技術と、タレスのセキュアなデジタル通信技術を融合させたこのモデルは、現代の陸上部隊が求める新たな作戦ニーズに迅速かつ最適なコストで応える新アプローチとして注目を集めている。
防衛の巨人・タレスが注ぎ込む強固なセキュリティと最先端のデジタル頭脳
今回ルノーとタッグを組んだタレス(Thales)は、防衛や航空宇宙、さらにはサイバー&デジタル分野における高度なテクノロジーで世界をリードするグローバル企業だ。人工知能(AI)やサイバーセキュリティ、量子、クラウドといった重要分野の研究開発に年間45億ユーロを投じており、世界65カ国に8万5000人以上の従業員を抱える巨大企業でもある。
このタレスが持つ、強固に守られた最先端の車載通信技術やコネクティビティ技術が、ルノーの車両構造と組み合わさることで、迅速かつ最適なコストで生産できる新世代の頑丈なマルチミッション車両の開発が可能となった。安全保障、持続可能性といった現代の重要な課題に対して、両社はそれぞれの強みを持ち寄って解決策を提示している。
既存のアフターケア網も戦力に。「VCMR(多目的民間車両)」構想の真価
発表された「4 TROOP」は、多目的民間車両を意味する「VCMR(Véhicule Civil Multi-Rôles)」のコンセプトに基づき開発されたプロトタイプだ。ゼロから軍事専用に設計された車両ではなく、SUVや商用車などルノーグループが展開している既存の市販車ラインナップの電子アーキテクチャやプラットフォームを巧みにベースとしているのが最大の特徴だ。
ルノーの車両開発における知見と産業的な生産能力を活用することで、新たな戦術車両をスピーディに量産し配備することができる。また、配備後もルノーが長年培ってきた市販車向けのアフターセールスの技術を車両のメンテナンスやライフサイクル全体のサポートに活かせるため、現場における後方支援の負担を大きく軽減できるというメリットも備えている。
電動化技術を戦術に転用。V2Lが大きく拡張する野外での作戦能力
「4 TROOP」の基本メカニズムだが、パワートレインにはハイブリッドシステムを搭載した4×4(四輪駆動)車となっている。モーター駆動による静粛性の高い隠密行動と、エンジンを活用した長距離を走り抜く航続性能を両立させており、あらゆる地形を走破する能力を持つ。
さらに、近年の電気自動車などで広く知られるようになった「V2L(Vehicle-to-Load:車両から外部への給電機能)」も搭載している。これにより、車両そのもののエネルギー自律性が高まるだけでなく、野外の現場で作戦に必要な特定の電気機器に電力を供給する動く電源として活用することが可能だ。
ドローンを統率しデータを戦力へ変える、完全な「移動司令センター」
車両の内部には、タレスの強固なサイバーセキュリティに守られたコンバット・デジタル・プラットフォームなどのデジタルソリューションが組み込まれている。単なる移動手段にとどまらず、車両自体が高いデータ処理能力を持ち、上空を飛ぶ無人航空機(UAV:いわゆるドローン)や、地上を走る無人地上車両(UGV:地上用ドローン)を遠隔から運用・調整する機能を持っている。

同時公開されたイメージ画像には、ルノーの商用バンをベースにしたとみられる別の戦術車両が描かれている。広い荷室スペースを活用して多数の小型ドローン(UAV)を格納・展開できる専用のラックが組み込まれており、上空に放たれたドローンの群れを兵士が手元の端末から遠隔制御している様子がうかがえる。
AI(人工知能)を活用した意思決定支援システムや高度なセンサー技術によって周囲の状況を素早く把握し、偵察や部隊の調整、護衛、後方支援、機密エリアの監視といった多岐にわたる任務をこなす。集められた戦術データを実用的な情報へと変換し、より安全かつ効率的な行動を支援する「完全に機能する移動司令センター」として活躍するのだ。
ルノーグループのフランク・ナロ副社長は、実績のある民間プラットフォームを基盤にすることで即座に動員可能な俊敏性を提案していると語る。また、タレスのクリストフ・サロモン副社長は、この車両がデータを戦力増強の鍵とする新世代のソリューションへの道を切り開くものだと強調した。自動車メーカーの量産技術と防衛企業のデジタル技術の強力な相乗効果が、未来の特殊車両のあり方を大きく変えようとしている。
【ル・ボラン編集部より】
ルノーの量産車プラットフォームを軍事転用するという発想は、戦時においても「市販車の信頼性とアフターケア」という、自動車の本質的な価値を戦術環境へ持ち込むという挑戦だ。タレスの高度な防衛通信技術を、泥臭いまでの実用性を備えたルノーのアーキテクチャが支える。いわば、洗練されたデジタルの脳髄を、極めて頑健な身体に移植したようなものだ。この「4 TROOP」が示すのは、軍民の垣根を超えた移動体としての新たな強さであり、自動車の定義がまた一つ、静かに塗り替えられた瞬間といえる。