海外試乗:伝説の「1」を受け継ぐアルティメットシリーズの帰還
2024年10月にワールドプレミアを飾ったマクラーレンの新たなる頂点「W1」。名車F1の系譜を継ぐ世界限定わずか399台のハイパーカーに、モータージャーナリストの西川 淳氏がいち早く試乗した。V8ハイブリッドが放つ最高出力1275psをあえて後輪のみで受け止める狂気の如きスペックは、果たして公道とサーキットでどう牙を剥くのか。イタリア・ムジェッロを舞台に、常識を覆す限界域の真実を詳細にレポートする。
【画像95枚】サーキットで“魔神”と化す4億円超のハイパーカー。マクラーレン「W1」の官能的な造形を全公開
刷新されたデザイン。それでも「マクラーレン」と直感できるコクピット
アンヘドラル式ドアを開けたマクラーレン「W1」がパドックに佇んでいた。アメジストブラックという色で、よくみれば濃い紫のようでもあった。マクラーレンといえばこれまで、それこそ伝説の3シーター「F1」以降、ディヘドラル式を採用してきた。ガルウィングではなく、カブト虫の羽のように開くタイプだ。
カーボンファイバーモノコックボディに一体となったシートに潜り込む。ペダルボックスを手前に移動し、ステアリングコラムの位置も調整してドライビングポジションを決める。エンジン、スタート。新設計のV8ツインターボエンジンが豪快に目覚めた。
コクピットのデザインそのものは新しい。ヘッドライナーにスタートボタンやハザードスイッチを置くなど、これまでとは異なる配置もある。けれども基本的な操作ロジックは750Sやアルトゥーラといった最新モデルたちとさほど変わらない。だからまるで違うデザインにも関わらず、ドライブそのものに戸惑いはなかった。
1275psを後輪のみで駆動。狂気のRWDレイアウトは成立するのか?
ところはイタリア、ムジェッロサーキット。世界限定399台、価格は4億円以上ですでに完売。そんなハイパーカーを世界の限られたメディアやジャーナリストが相手とはいえ、自由にドライブさせようというのだから、経営陣を刷新したばかりの新生マクラーレンの“ヤル気”が見えてくる。
しかもこのW1、2年前の発表時にはクルマ好きの間で大いに物議を醸したものだった。V8ハイブリッドパワートレインの総合出力はなんと最大1275ps。それをこれまでと同様にミド配置とし、リア駆動、つまり二駆で動かすというのだから世界が驚いたのも当然だろう。思い出してもみてほしい。かのマクラーレンF1の最高出力は627psだった。マクラーレン・オートモーティヴの最初期モデルMP4-12Cは600psだった。W1の後輪は片側でそれよりも大きな出力を受け持つというのだから……。
ハイブリッドパワートレインがメインとなった今、1000ps前後という数字そのものは珍しくはなくなった。けれどもフェラーリにしろ、ランボルギーニにしろ、フロントアクスルにモーターを噛ませる、つまりe4WDとすることで途方もないパワー&トルクをロードカーとして成立させている。であるのに、マクラーレンはRWDにこだわった。本当に大丈夫なのだろうか……。軽量化とクリアなハンドリングのために。では、どのようにして? その答えを知るためにムジェッロへやってきたというわけだ。
一般道では極めてジェントル。鼻歌交じりで流せるほどの快適性
動き出すまでは不安でいっぱいだったが、サーキットを出て最初のランナバウトを通過する頃にはすでにある確信を抱いていた。このクルマはまさにマクラーレンであると。
当然のことながら、電子制御の発達した今、1275psが不用意に解放されることなど絶対ない。だからドライバーが自信をもって挑まない限り、一般道でのW1はこれまで通りのマクラーレンとして振る舞う。
実はイタリアへ渡る直前の1週間を750Sスパイダーと共に過ごしたが、感覚的にはさほど変わらないという印象だ。ステアリングも中立付近では余裕があるものの、少し意思を持って切ると恐ろしくニンブル。つまり、切れ味は鋭いけれど、ごく普通にも扱える。妙な緊張感を抱くこともない。一般道の定速度域においても車体が自由にかつ正確に動くから、クルマとの一体感はこの上なく、それゆえどんな状況にも対処できる(という自信がある)。ワインディングロードを適当に流せば、自然と鼻歌を口ずさんでしまうほど快適で、それでいてめっぽう速い。いや、アクセルペダルは20%も踏んでいない。目を三角にして、シャカリキにならずとも楽しい。それでこそマクラーレンであろう。
車高が下がり、テールが伸びる。レースモードでついに“魔神”を解き放つ
すこぶるつきの高速クルージングも楽しんで、ムジェッロのパドックへと戻る。次はピットに移動して、いよいよ1275psの解放だ。パパイヤ・スパークの右ハンドル仕様を与えられた。プロドライバーが助手席に陣取り、一台でサーキットを占有するという贅沢なテストである。
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