コラム

元Jリーガーが仕掛ける英国発レストモッド「TWISTED」。リユースの風雲児が導く唯一無二のクルマ選び【仕事師の素顔】

嵜本晋輔:1982年、大阪府出身。2001年にガンバ大阪に入団するも22歳でサッカー界から引退。以後、家業を経てリユース業界で目覚ましい活躍を見せる。現在、バリュエンスホールディングス株式会社の代表取締役を務める。

嵜本晋輔:カーカルチャーを醸成するリユース業界の風雲児

自動車業界で功成り名遂げた、あらゆる仕事師たち。彼らの技術に迫り、人柄に触れ、知られざる素顔を浮かび上がらせたい。今回は、元プロサッカー選手にして、“リユース”の常識を次々と塗り替えていったビジネスパーソン。リユースの哲学から生まれるカーカルチャーに耳を傾ける。

サッカーのピッチからビジネスの舞台へ。リユース界で名プレイヤーへ

毎日、朝から晩まで一心不乱にボールを追いかけ、スター選手を目指していたサッカー少年は、念願叶ってプロになったが、しかし早々に挫折を経験していた。ガンバ大阪のユニフォームを着て公式戦の晴れ舞台に立ったのは2回のみ。早々に戦力外通告を受けた嵜本晋輔は、20代前半の時点で「人間、必ずしも努力が報われるわけではない」という非情な現実を受け入れざるを得なかった。

「まわりの誰に相談しても、サッカーをもっと続けるべきだといわれました。もちろん、サッカーに対する想いはあったし、感情的にはもちろん続けたかった。しかし、私は自分が持ちうる技量と、プロ選手として求められる能力が、乖離していたことを実感していました。当時、私は22歳。サッカーしかやってこなかった自分にとって、持ちうる財産は“時間”しかなかった。サッカーにしがみついて成功確率の低いものに挑戦し続けるよりは、新たなステージに挑むべきだと思いました」

嵜本晋輔:1982年、大阪府出身。2001年にガンバ大阪に入団するも22歳でサッカー界から引退。以後、家業を経てリユース業界で目覚ましい活躍を見せる。現在、バリュエンスホールディングス株式会社の代表取締役を務める。

嵜本晋輔:1982年、大阪府出身。2001年にガンバ大阪に入団するも22歳でサッカー界から引退。以後、家業を経てリユース業界で目覚ましい活躍を見せる。現在、バリュエンスホールディングス株式会社の代表取締役を務める。

湧き出る感情を必死に抑え込んで冷静に自分の能力を見極め、客観視し、最適な意思決定をする。幼少期からのサッカー教育が育んだものだろうか。いや、これこそがサッカーの技量よりも秀でていた嵜本特有の才能だったのではないか。辞めるか続けるべきか、どちらにも正解はない――と、当時、彼は思い至ったという。自分が決めた道なのだから、正解を自らで手繰り寄せていくべきだ、と。

既存の常識をぶち壊す。お客様第一主義が生んだ「なんぼや」の快進撃

こうして幕を開けた嵜本のセカンドキャリア、その第一歩は家業だった。父親が営むリサイクルショップで修行を積んで、イチからリユース事業を身につけていった。程なくして兄弟とともに新たな会社を立ち上げるなど、たたき上げの事業家となった。彼にとってのターニングポイントは2007年に大阪・難波にオープンさせた『なんぼや』である。それまで家電を中心とした、いわゆる耐久消費財を扱っていた彼らが、ブランド品、時計、宝石、貴金属などのリユース事業(買取・販売)に活路を見出したのだ。

「既存の常識をぶち壊す――まったくの異業種から飛び込んだ私にとって、それこそが自分自身の価値。父親が築きあげてきた事業を分析しながら、新たな収益機会を探っていました。そこで目をつけたのがブランドや宝飾の業界です。当時、日本では質屋が主流で、お金に困った方が、モノを担保にお金を借りにいくイメージが色濃い。つまり店側とお客様との主従関係がまったく逆で、店としてのサービスレベルが著しく低いと感じたのです。私は旧態依然とした質屋とは異なる、お客様第一主義を貫くビジネスを設計しようと『なんぼや』を立ち上げました」

業界の慣習を素直に受け入れるのではない。何ごとも疑ってかかるような視点を忘れず、なにかひらめきを得たら、躊躇なく自分なりにアップデートを加えていく。ここに嵜本の真骨頂がある。実際、彼のビジネスは急成長を遂げる。2011年に株式会社SOU(現バリュエンスホールディングス株式会社)を立ち上げ、ブランドリユース業を軸にあらゆる施策を打ち出して軌道に乗せた。創業からわずか7年後の2018年には東京証券取引所 マザーズ市場(現グロース)に上場させたと聞けば、彼らの快進撃はおのずと伝わるだろう。異業種から飛び込んだ青年が築き上げた挑戦は、いまや国内外へ広がる企業グループへと成長した。2025年8月末の時点で連結子会社10社に関連会社1社を有し、そこで1124名の従業員が働く。2025年8月期の売上高は848億円にのぼる。

「唯一無二たちの循環を」リユースのプロが自動車業界に見出した光

そんな嵜本が、次に常識を疑う視点を持って見つめたのが自動車業界だった。いまだ新車販売が主であり、「新しいことが正義」という常識がまかり通る自動車販売業界に、「思い入れのある特別な1台を、整備や修理、ときにカスタムをしながら、長くたいせつに乗り続ける」という価値観を提供しようと思い至ったという。そのためにバリュエンス・オートモーティブを立ち上げ、自動車の買取・販売事業に乗り出した。現在は横浜に広大なファクトリーを構え、本格的な整備や修理まで自社で賄う体制を整えている。

「もちろん、他の分野に比べるとクルマの購買は、ユーズドに対する抵抗感は低いのでしょう。とはいえ新車を選ぶ方のほうが圧倒的にマジョリティだとも思う。それに、新車よりも安価で手に入るといった経済的なリターンだけでユーズドを選ぶのではなく、新たな価値を提供したいと思いました。たとえばつくり手の想いや、整備されてきた方の技術、これまでの所有者の使いかたなど、個体そのものの物語性を含めて、クルマの価値として認められるようにしたい。そうすれば唯一無二を手に入れるという実感がこもり、より心が豊かになるという確信があります」

「大量生産・大量廃棄の風潮とは一線を画した価値あるユーズドカーを長くたいせつに使うことで、環境課題の解決にひと役買っているという精神的なリターンをお客様に提供することもできます。実際、すでに世の中にあるものを再流通させるほうが、環境負荷が低いことは証明されています。そうした意識が高まれば、ユーズドカーがよりポジティブに扱われるようになる。ユーズドカーは新車に比べて安いから買うものではなく、唯一無二の価値を持つからこそ率先して選ぶもの。そんな存在にまで引き上げたいですね」

クルマに宿る物語を未来へ。英国発レストモッド「TWISTED」が示す解

そう嵜本が訴えるクルマに対しての価値観――その一例にして象徴的存在が、彼らが輸入販売代理店を務めるTWISTED(ツイステッド)である。イギリス・ヨークシャーに本拠を置くレストモッド・ビルダーであり、クラシック・ディフェンダー※をベースとしてオーダーメイドで最高品質の内外装に仕立て、現代的なパワーユニットを持ち込んで、我慢なくクラシックを味わえるコンプリートカーをつくる。

「ツイステッドは、唯一無二の価値を創り出しているブランドだと思っています。お客様の要望に応じて、イギリスの職人たちが500時間近くをかけて丹念にオンリーワンへと仕上げていく。これはお客様にとっての、新たな選択肢の提供だと考えています。ツイステッドのようなレストモッドをヴィンテージと呼ぶのかはともあれ、こうした偉大なる過去のモノに興味関心を抱く方を増やしていくことができたら、よりカーカルチャーが醸成されていくだろうし、結果として私たちのビジネスには、より明るい未来が見える」

サッカー選手として夢破れた青年は、いまでは世界を舞台に、ボールを回している。そのボールとはクルマであり、ブランド品であり、ともすれば人びとの想いそのものなのかもしれない。「循環をデザインする」という意を持つ、嵜本晋輔率いるサーキュラーデザインカンパニーは、自動車業界に一石(ボール)を投じるかたちで、この壮大な試合はまだキックオフしたばかりである。(文中敬称略)

※Twisted Group Limitedが提供するのは、JAGUAR LAND ROVER LIMITED社のDEFENDER車両を独自に修復及びカスタマイズした車両であり、TWISTEDブランドの車両です。JAGUAR LAND ROVER LIMITED社とは一切関係がありません。
フォト=望月勇輝/Y. Mochizuki
中三川大地

AUTHOR

1979年生まれ。自動車雑誌の編集部勤務を経て25歳で独立。以後、フリーランスのモノ書き、ジャーナリストとして活動する。「姿、技術、時流、考えかた」などを堅実かつ独自の切り口で表現、考察する。正確性を追求しながら、文章の表現形式に「スタイル」を貫き、わかりやすくおもしろい表現にこだわる。輸入車、国産車問わず、アフターパーツやカスタム、モータースポーツに関する造詣が深い。

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