乳幼児・小児と自動車の安全
東京・南青山のVolvo Studio Tokyo(ボルボ スタジオ 東京)にて2026年7月9日、「子どもの車内安全」をテーマとしたメディア向けセミナーが開催された。登壇したのは、スウェーデンのボルボ・カーズ セーフティセンターで35年以上にわたり安全研究に携わってきたセーフティのスペシャリスト、ロッタ・ヤコブソン氏。ここでは、ボルボが創業以来追求してきた「人間中心」の安全理念と実事故データに基づく開発手法をはじめ、後ろ向きチャイルドシートの革新や成長に応じた着用法、さらには車内置き去り防止技術までをリポートする。
【画像16枚】35年の安全研究が導き出した「子どもの命を守る」ボルボの姿勢を画像から実感する
人間中心の安全理念と実事故データに基づく技術開発
登壇したロッタ・ヤコブソン氏は、機械工学修士号を取得後、交通安全分野で博士号を取得したバイオメカニクスおよび傷害予防の専門家である。彼女はチャルマース工科大学で客員教授を務めるほか、2007年からはISO(国際標準化機構)の幼児・子ども用乗員保護装置に関するグループで議長を務めている、セーフティのスペシャリスト。
ボルボは創業以来「クルマは人が運転するものであり、すべての基本原則は安全である」という人命優先の理念を掲げてきたことはつとに有名だ。安全の定義はクルマの基本機能から乗員保護、事故回避へと時代に合わせて拡張されてきたが、人間のニーズや能力を理解した上で技術を設計するという本質は一貫している。
彼女は、命を救い傷害リスクを減らすためには工学にとどまらず、医療専門家や行動科学者らとの共同作業が不可欠であると強調した。その象徴である3点式シートベルトは、1950年代にニルス・ボーリンによって開発された。片手で簡単に装着でき、胸部と骨盤という身体の強い部分を固定する構造は現在も安全の基盤となっている。
1967年に実世界の事故データに基づく研究成果を発表したことで高い傷害軽減効果が証明され、ボルボは1970年に専門の事故調査チームを発足。現場急行による詳細調査と8万件以上の統計調査を蓄積し、自社独自の安全基準向上に活かしている。
後ろ向きチャイルドシートの革新と子どもの身体構造
ボルボは4歳未満の子どもに対して後ろ向きチャイルドシートの使用を強力に推奨している。この開発は1964年に宇宙飛行士が打ち上げ時の負荷を背中全体で受ける仕組みに着想を得て始まり、1967年に試作品が発表され、1972年に製品化された。
後ろ向きが推奨される最大の理由は、交通事故で最も高頻度かつ深刻なダメージを与える前面衝突から子どもの首を守るためである。幼少期の子どもは大人に比べて頭部が相対的に大きく重い上、首の筋肉が非常に弱い。加えて3歳から5歳頃までは頸椎の椎骨が水平に重なっており、大人のような構造的噛み合いが未発達である。
前向きシートで事故に遭遇すると頭部が前方へ強く振られて首に過度な負担が集中するが、後ろ向きシートであれば頭部から背中全体の広い面積で衝撃を受け止めて負荷を分散できる。腹部を抑えるタイプのインパクトシールドや前向きのハーネス固定、さらには車内でシートを寝かせたリクライニング状態での使用は、実際の事故で十分な保護効果を発揮しないため推奨されない。
成長に応じたブースターシートと正しいシートベルト着用
また、4歳を過ぎた子どもには、車の3点式シートベルトと組み合わせて使用するブースターシートやブースタークッションへの移行が推奨される。ボルボは1978年に世界で初めてブースタークッションを開発。子どもの骨盤は思春期頃まで十分に発達しておらず、ベルトを引っかけるための腰骨の突起が小さいため、そのまま座るとシートベルトが腹部にズリ上がって内臓を傷つける危険がある。
ブースターは座面を高くすることで、腰ベルトが骨盤の強い骨の上に正しく配置されるよう誘導されるのだ。シートベルトを着用する際は、肩ベルトが必ず肩の上を通るように装着させなければならず、腕の下や背中にベルトを通してしまうと事故時に上半身を拘束できず重大な傷害につながる。
ベルトが首元に近く接触していても、事故時の回転運動で身体から離れるため問題はない。
子どもがブースターなしで大人と同じようにシートベルトを着用できる目安は、身長約140cm、年齢にして10歳頃であり、背もたれに深く腰掛けた状態で膝が自然に曲がるかどうかが判断基準となる。
車内置き去り事故を防ぐ最新レーダー検知技術
セミナーの締めくくりとして、車内への子どもやペットの意図しない置き去り事故を防ぐ最新技術が紹介された。保護者が過密なスケジュールや不意の混乱によりうっかり車内に子どもを残してしまう現象に対し、ボルボは車が「第二の目」となって人間をサポートするシステムを開発。
車内の天井などに配置された高精度なミリ波レーダーセンサーがトランクを含む車内全体を監視し、呼吸に伴う胸のわずか数mmの動きまで検知する。乗員が車をロックしようとした際、車内に残された動体を検知するとロックを遮断して警告を発する仕組みである。
さらに電気自動車などでは、車内に人が残っていることを検知すると自動的に空調システムが作動し、車内温度の異常上昇による熱中症リスクを低減する支援機能も備わっている。ボルボは自社で培った安全の知見を社会全体へ広め、すべての子どもが安全に移動できる社会の実現を目指している。
【ル・ボラン編集部より】
子どもは大人と身体のつくりが異なるため、チャイルドシート/ジュニアシートを正しく使うことが重要だな、ということを改めて実感。後ろ向きチャイルドシートも4歳まで推奨というのも驚きでした。また、置き去り事故に関しては故意ではなく、疲労や不安による注意散漫、直前の予定変更などが、人間の脳に「忘れる」という状態を引き起こすのだとか。この記事が知識として少しでもお役に立てば幸いです。〈編集長・京谷〉

























