第7回 事故の被害を最小限に抑える受動的安全性:乗員を守る安全な設計をする内的安全性〈前編〉
高級車の象徴とも言える、美しく磨き上げられた内装のウッドパネル。しかし、メルセデス・ベンツのウッドパネルの内部には「アルミ」が挟み込まれているという事実をご存じだろうか。
事故の被害を最小限に食い止める「受動的安全性」のなかでも、万が一の際に乗員が直接障害を受けるのを予防・軽減するアプローチを「内的安全性」と呼ぶ。1951年、「ミスター・セーフティ」ことベラ・バレニーが特許を取得した「前後衝撃吸収式構造」と「頑丈なパッセンジャーセル」から始まったこの哲学は、ボディの骨格にとどまらず、乗員の目の前にあるインテリアパーツ一つひとつにまで徹底されている。
【画像50枚】Sクラスの4エリア衝撃分散、SLのロールバー、ウッドパネルの秘密。乗員を死守する「内的安全性」のディテールを見る
かつて全盛期を誇った大木からの削り出し(無垢材)のウッドパネルが、なぜアルミを挟んだ多層構造(アルミ・サンド)へと姿を変えなければならなかったのか。また、衝撃を吸収するための「柔らかいボディ(クラッシャブルボディ)」と、乗員空間を守るための「変形の少ない頑丈な客室」という相反する物理特性を、彼らはどうやって両立させているのか。
今回は、ウッドパネルに隠された特許技術の解剖写真から、オフセット衝突や横転事故に対する驚異的な生存空間の確保まで、メルセデス・ベンツが長年培ってきた「乗員を守る究極の設計」の深髄に迫る。
衝撃を吸収し、客室を守る。1951年に特許を取得した「セーフティセル」構造
「ミスター・セ-フティ」と呼ばれたメルセデス・ベンツのエンジニア、ベラ・バレニーが1951年、「前後衝撃吸収式構造」と「頑丈なパッセンジャーセル構造」の特許を取得。1953年、この世界初の衝撃吸収式構造ボディを採用した量産乗用車「180」を発表(セミモノコック)。
その6年後、メルセデス・ベンツは1959年8月に生産を開始した220Sb/W111(通称「羽根ベン」)で、衝撃吸収式構造ボディを完成し(モノコック)、乗用車のボディ構造に大きな改革をもたらした。しかも室内はステアリングホイールやインストゥルメント・パネル等に衝撃吸材を使用し、埋め込み式ドアハンドル、脱落式ルームミラーをすでに採用。セーフティセルと呼ばれるこの安全車体構造は、乗員が乗る客室の剛性を上げ、その前後構造に衝撃吸収能力を持たせている。
メルセデス・ベンツでは正面衝突の場合、ボディ先端に例えば10の衝撃エネルギーが加わったとすると、客室のフロント/Aピラーには1の衝撃エネルギーしか伝わらない構造にしている。つまり、フロント部分で9の衝撃エネルギーを吸収し、客室の乗員を守っている。
衝撃と圧迫から人体を保護する、クラッシャブルボディと高剛性キャビンの両立
人体が損傷を受ける原因には、衝撃によるものと圧迫によるものがある。前者は非常に短い時間であり、後者は時間をかけてゆっくりと大きく変形するような衝撃となる。短時間に加わる大きな衝撃は、脳挫傷や骨の破壊が考えられ、ゆっくりとした大きな変形では圧迫が問題となり、内臓や下肢が大きく損傷を受ける。大きな衝撃を和らげるには、ボディの衝撃吸収特性が重要になってくる。
このため、物理的に柔らかいボディが必要となる。このボディを、エネルギーを吸収できるボディとして「クラッシャブルボディ」と呼んでいる。一方、ゆったりとした大きな変形による圧迫に対しては、客室の生存空間を保たなければならない。このため、物理的に変形の少ない頑丈な客室が必要である。つまり、この相反する物理特性を両立させるには、クルマの前部・後部は柔らかく、客室は頑丈にするというコンセプトが必要になっている。
オフセット衝突に対応する、現代のメルセデスが備える4エリア分散吸収構造
メルセデス・ベンツは1974年の事故調査による、正面衝突の約75%がオフセット衝突であるという事実を受け、その事故形態を再現する衝突実験を開始した。そして1979年のSクラスから採用した三叉(さんさ)式緩衝システムは、まさにオフセット衝突実験を繰り返して開発された。
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