唯一無二の魅力があるR8、M本来の姿にこだわるM8
アウディR8もまた、ミッドシップというアウディ唯一のプラットフォームを有しており、V10もこのクルマ専用である。以前にも書いたけれど、R8は世界一安全なミッドシップスポーツカーだと思っている。ヨー慣性モーメントが小さく旋回性能に優れたミッドシップはコーナリングスピードが速くなる分だけ限界が唐突にやってくるという諸刃の剣でもあるが、これをアウディの十八番であるクワトロが上手にカバーする。
V10は過給機に頼らない自然吸気で、最高出力の発生回転数は8000rpmである。そこまで、いっさいの淀みなくきれいに吹け上がる様は本当に清々しい。「V10エンジンを買ったらR8が付いてきた」というくらい、このエンジンには唯一無二の魅力がある。
老舗のスポーツカーメーカーであるアストンマーティンはともかく、結局のところ理想的なスポーツカーと作ろうと思ったら、専用のプラットフォームやパワートレインが欲しくなる。これはエンジニアなら誰もが抱く欲求と願望である。だからメルセデスとアウディはわざわざ新たにそれらを用意した。ところがBMWは、8シリーズに手を加えるだけでこれを実現している。
以前、Mのエンジニアと話した時に、彼は「現在M社はBMWの新型車開発の初期段階から入り込んでいます」と語っていた。BMWの場合、ボディやシャシー設計にそれを“M”にしたときの要件が盛り込まれているのである。開発期間の短縮やコストを考えれば、すべてを新たに起こすよりもそれができるにこしたことはない。
既存のV8ツインターボをチューニングして今回最強の750Nmを発生、最高出力のアストンマーティンに次ぐ625psを叩き出し、その強烈なパワーをしっかりと路面に伝えるべく4WDのxDriveを選択。しかし“2WD”モードを設けたり、8シリーズには採用されている後輪操舵システムはあえて使わないなど、Mのバッジを冠することへの意義とこだわりも見て取れる。
タウンスピードで走らせているときは、4台の中でもっとも“普通”かもしれないが、それがこのクルマの魅力のひとつでもあり、いつもの“M”の姿でもある。スーパースポーツに乗っているからといって四六時中しゃかりきになって運転するわけではない。「サーキットまでは快適に、コース上ではレーシングカーのごとく」の哲学が貫かれている。8シリーズでは電子デバイスの介入がやや気になったものの、あえてMを選ぶ人はそれを好まないことをエンジニアは知っていて、M8ではあくまでも黒子に徹してくれた。
徹底的に理想を追求したスポーツカー作りに国境やお国柄などは存在しない。圧倒的なパワーと確実なトラクションと正確なハンドリング。エンジニアが追い求めるゴールは一緒であり、それを達成するべく彼らの持てるリソースと技術力を駆使して邁進しているだけなのである。