試乗記

【比較試乗】「アストンマーティンDB11 AMR vs アウディR8 vs メルセデスAMG GTR vs BMW M8」各ブランドを代表するハイパフォーマーの競演

本記事では、ドイツの高性能特殊部隊「AMG」、「M」、「RS」が手掛けるハイエンドスポーツを招集。孤軍奮闘で立ち向かうのは、英国のアストン・マーティン・レーシング「AMR」である。いずれ劣らぬ究極のパフォーマンスを発揮する強者揃いだが、その仕立て方やキャラクターにどんな違いがあるのか? ともに検証してみた。

ドイツ高性能車に対抗する英国スポーツカーの筆頭

「高性能ドイツ車の実力」を探るために、この項では伝統ある英国スポーツカーメーカーであるアストンマーティンとの比較を編集部が企てた。高性能スポーツカーの作り方に“ドイツ流”や“英国流”はあるのか? あるいは性能に大差はあるのか、その辺りを追求せよということらしい。

ASTON MARTIN DB11 AMR/スポーツカーに特化した開発ができるのがアストンマーティンの強みである。

DB11AMRはDB11のフラッグシップモデルで、AMRはアストンマーティン・レーシングの略。V型12気筒ツインターボはDB11のV12よりも30ps上乗せされていて(700Nmの最大トルクは同値)、0-100km/hは3.7秒(DB11より0.2秒向上)、最高速は334km/hにまで達するという。トランスミッションやサスペンションのハードウエアはDB11と同じだが、ソフトウエアはAMR専用となっている。

ASTON MARTIN DB11 AMR/増強したパワーと向上したパフォーマンス、優れたドライビングダイナミクス、そしてより個性的なエキゾースト音を放つDB11 AMR。

DB11と共に登場したVHアーキテクチャは、FRのスポーツカーとしての理想的なパッケージを追求したプラットフォームで、前車軸より後方にエンジンを置き、トランスミッションを後車軸にレイアウトするリアトランスアクスル形式を採用している。ドイツの3強のようにFFの小さいクルマや何種類ものSUVを作る必要はなく、スポーツカーに特化した開発ができるのがアストンマーティンの強みである。

ASTON MARTIN DB11 AMR

DB11の登場直後は、強力なパワーをふたつのタイヤだけで受け止める後輪のトラクション性能にやや物足りなさを感じたものの、その後に改良が施されたようで、フラッグシップのAMRでもしっかりと路面と捉えて胸の空くような加速を披露する。このような加速感に限らず、アストン・マーティンの乗り味は全般的にジェントルである。猛烈な加速に荒々しさや凶暴性はまったくなく、あくまでもスムーズに力強い。乗り心地も同様で、サスペンションのモード切り替えをスポーツ+にしても、助手席から苦情が出ないレベルの快適性が担保されている。

ASTON MARTIN DB11 AMR/モノトーンレザー&アルカンターラのシートには印象的なライムカラーのステッチが施される。

操縦性にしても、ステアリング操作に対する車両の反応は俊敏で切れ味鋭いナイフのようだが、その切り口(=旋回中の姿勢変化)は綺麗で滑らかで、荒削りな印象はない。こうした乗り味はDB11のみならずヴァンテージやDBSでも感じられる。エンジニアチームが統一感を大事にした味付けをしているからだろう。“ジェントル”という言葉で英国を象徴している様もなんとも粋である。

ASTON MARTIN DB11 AMR

AMGが本気で仕立てたリアルスポーツ

スポーツカーをずっと手掛けてきたという点では、AMGもアストンマーティンに背景が似ているかもしれない。ベース車両にメルセデスがあって、それを改良することが主たる生業のAMGにとって、このGTはほぼイチからオリジナルの作品である。それを裏付けるのはDB11と同じトランスアクスル形式のパワートレインレイアウト。メルセデスにトランスアクスル形式はなく、GTの4ドアもトランスアクスルではない。現時点ではこのクルマ専用である。

MERCEDES-AMG GTR/ベースとなるメルセデスAMG GT/GT Sよりさらに大型のフェンダーを装着したワイドボディのほか、リアバンパーには大型のディフューザーを組み込んだ迫力のデザインを採用。

V8ツインターボの排気量は4台の中でもっとも小さく、最高出力も唯一の500馬力台である(他はいずれも600馬力台)。いっぽう最大トルクはDB11と同じ700Nmを誇る。同じ最大トルクでも、両者の乗り味は対極にあるように思う。ジェントルなDB11に対してこちらはどう猛というか凶暴というか、だいたい音からしてかなり勇ましく、加減速の度に前後Gで身体が激しく動くような圧倒的パワーが感じられる。あえてそういう演出にしているのだろうし、このほうがエクステリアデザインとも合っている。

MERCEDES-AMG GTR/メルセデスAMGが本気でリアルスポーツカーとして仕立てた1台。

ドライブモードには6種類が用意され、パワートレインとサスペンションのセッティングが個別に変更できるだけでなく、ESPが3ステージあってOFFモードにするとトラクションコントロールが9段階でセットできるなど、レーシングカー並みに細かい調整が可能だが、これを余すことくなく使いこなすには相当走り込む必要があるだろう。ただ、AMGが本気でこのクルマをリアルスポーツカーとして仕立てたという気概は存分に伝わってくる。

MERCEDES-AMG GTR

ステアリングゲインが高くて瞬時に反応するハンドリングや、重心高が低く地面にピタリと張り付いたまま左右に動く旋回姿勢などは、まさしくレーシングカーそのものである。ステアリング操作に応じて右足で加減速を上手にコントロールしなくてはならないが、いざとなれば数多の電子デバイスが総動員で車体を安定方向に導いてくれるから心強く、こういうところにメルセデスらしさを垣間見る。

MERCEDES-AMG GTR/超軽量のフルバケットタイプシートを標準装備。

MERCEDES-AMG GTR

唯一無二の魅力があるR8、M本来の姿にこだわるM8

アウディR8もまた、ミッドシップというアウディ唯一のプラットフォームを有しており、V10もこのクルマ専用である。以前にも書いたけれど、R8は世界一安全なミッドシップスポーツカーだと思っている。ヨー慣性モーメントが小さく旋回性能に優れたミッドシップはコーナリングスピードが速くなる分だけ限界が唐突にやってくるという諸刃の剣でもあるが、これをアウディの十八番であるクワトロが上手にカバーする。

AUDI R8 COUPE V10 PERFORMANCE 5.2 FSI QUATTRO/R8は世界一安全なミッドシップスポーツカーだ。

V10は過給機に頼らない自然吸気で、最高出力の発生回転数は8000rpmである。そこまで、いっさいの淀みなくきれいに吹け上がる様は本当に清々しい。「V10エンジンを買ったらR8が付いてきた」というくらい、このエンジンには唯一無二の魅力がある。

AUDI R8 COUPE V10 PERFORMANCE 5.2 FSI QUATTRO/サスペンションにはアウディマグネティックライドを搭載するほか、ブレーキにはカーボンファイバーセラミックブレーキが標準装備。

老舗のスポーツカーメーカーであるアストンマーティンはともかく、結局のところ理想的なスポーツカーと作ろうと思ったら、専用のプラットフォームやパワートレインが欲しくなる。これはエンジニアなら誰もが抱く欲求と願望である。だからメルセデスとアウディはわざわざ新たにそれらを用意した。ところがBMWは、8シリーズに手を加えるだけでこれを実現している。

BMW M8 COMPETITION/M8にはMのバッジを冠することへの意義とこだわりも見て取れる。

以前、Mのエンジニアと話した時に、彼は「現在M社はBMWの新型車開発の初期段階から入り込んでいます」と語っていた。BMWの場合、ボディやシャシー設計にそれを“M”にしたときの要件が盛り込まれているのである。開発期間の短縮やコストを考えれば、すべてを新たに起こすよりもそれができるにこしたことはない。

BMW M8 COMPETITION/ダブルバーキドニーグリルのほか、ボディ側面のMギルなど、BMW Mモデルの象徴的な装備を採用。エンジンレスポンスやサスペンションなどの特性を任意に設定変更できる機能に、ブレーキシステムも追加された。

既存のV8ツインターボをチューニングして今回最強の750Nmを発生、最高出力のアストンマーティンに次ぐ625psを叩き出し、その強烈なパワーをしっかりと路面に伝えるべく4WDのxDriveを選択。しかし“2WD”モードを設けたり、8シリーズには採用されている後輪操舵システムはあえて使わないなど、Mのバッジを冠することへの意義とこだわりも見て取れる。

BMW M8 COMPETITION

タウンスピードで走らせているときは、4台の中でもっとも“普通”かもしれないが、それがこのクルマの魅力のひとつでもあり、いつもの“M”の姿でもある。スーパースポーツに乗っているからといって四六時中しゃかりきになって運転するわけではない。「サーキットまでは快適に、コース上ではレーシングカーのごとく」の哲学が貫かれている。8シリーズでは電子デバイスの介入がやや気になったものの、あえてMを選ぶ人はそれを好まないことをエンジニアは知っていて、M8ではあくまでも黒子に徹してくれた。

BMW M8 COMPETITION

徹底的に理想を追求したスポーツカー作りに国境やお国柄などは存在しない。圧倒的なパワーと確実なトラクションと正確なハンドリング。エンジニアが追い求めるゴールは一緒であり、それを達成するべく彼らの持てるリソースと技術力を駆使して邁進しているだけなのである。

【Specification】ASTON MARTIN DB11 AMR
■全長×全幅×全高=4750×1950×1290mm
■ホイールベース=2805mm
■車両重量=1765kg
■エンジン種類/排気量=V12DOHC48V+ツインターボ/5200cc
■最高出力=639ps(447kW)/6500rpm
■最大トルク=700Nm(71.4kg-m)/1500rpm
■トランスミッション=8速AT
■サスペンション(F:R)=Wウイッシュボーン:マルチリンク
■ブレーキ(F:R)=Vディスク:Vディスク
■タイヤサイズ(F:R)=255/40ZR20:295/35ZR20
■車両本体価格(税込)=27,700,000円

お問い合わせ
アストンマーティンジャパンリミテッド 03-5797-7281

【Specification】AUDI R8 COUPE V10 PERFORMANCE 5.2 FSI QUATTRO
■全長×全幅×全高=4430×1940×1240mm
■ホイールベース=2650mm
■車両重量=1670kg
■エンジン種類/排気量=V10DOHC40V/5204cc
■最高出力=620ps(456kW)/8000rpm
■最大トルク=580Nm(59.1kg-m)/6600rpm
■トランスミッション=7速DCT
■サスペンション(F:R)=Wウイッシュボーン:Wウイッシュボーン
■ブレーキ(F:R)=Vディスク:Vディスク
■タイヤサイズ(F:R)=245/30ZR20:305/30ZR20
■車両本体価格(税込)=30,010,000円

お問い合わせ
アウディジャパン 0120-598-106

【Specification】BMW M8 COMPETITION
■全長×全幅×全高= 4870×1905×1360mm
■ホイールベース= 2825mm
■車両重量=1910kg
■エンジン種類/排気量=V8DOHC32Vツインターボ/4394cc
■最高出力=625ps(460kW)/6000rpm
■最大トルク=750Nm(76.5kg-m)/1800-5860rpm
■トランスミッション=8速AT
■サスペンション(F:R)= Wウイッシュボーン:マルチリンク
■ブレーキ(F:R)=Vディスク:Vディスク
■タイヤサイズ(F:R)=275/35R20:285/35R20
■車両本体価格(税込)=24,330,000円

BMW M8 COMPETITION

お問い合わせ
BMWジャパン 0120-269-437

【Specification】MERCEDES-AMG GTR
■全長×全幅×全高=4550×2005×1285mm
■ホイールベース=2630mm
■車両重量=1660kg
■エンジン種類/排気量=V8DOHC32Vツインターボ/3982cc
■最高出力=585ps(430kW)/6250rpm
■最大トルク=700Nm(71.4kg-m)/2100-5500rpm
■トランスミッション=7速AT
■サスペンション(F:R)= 4リンク:マルチリンク
■ブレーキ(F:R)=Vディスク:Vディスク
■タイヤサイズ(F:R)=275/35R19:325/30R20
■車両本体価格(税込)=24,260,000円
お問い合わせ

メルセデス・ベンツ日本 0120-190-610

フォト=郡 大二郎/D.Kori ルボラン2020年9月号より転載

AUTHOR

1966年東京生まれ。米国の大学を卒業後(株)立風書房に入社、ル・ボラン編集部に配属となる。後に転職してカーグラフィック編集記者、カーグラフィック編集長などを歴任。現在はフリーランスの自動車ジャーナリストとして活動中。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。英国「The Guild of Motoring Writers」会員。

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