

























2台のクラシック・ビートルが紡ぐ、継承と再生のストーリー
2025年9月28日、京都・嵐山高雄パークウェイで開催された「VW Autumn」は、今年で25回目を数える西日本最大級のフォルクスワーゲンイベントだ。200台をゆうに超える空冷VWが集結した会場で、和歌山から愛車と共に駆けつけたベテランオーナーと、彼からバトンを受け取った新たなオーナーに出会った。一台の貴重な「オーバル」を愛娘のためにフルレストアした父と、憧れの「カブリオレ」を手にした元輸入車セールスマン。2台の名車と25年のワーゲンライフが交錯する、数奇で温かい継承の物語。
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娘の一言がきっかけで、1954年式「オーバル」をフルレストア
会場の一角に佇む、ストラトシルバーのボディが美しい1954年式タイプ1=ビートル(通称オーバルウィンドウ)。オーナーの留置辰治(とめき たつじ)さんは、和歌山県在住。このクルマと過ごして今年で21年になるという。それ以前に乗っていたタイプ1・1303(通称マルサン)を含めると、留置さんのワーゲンライフはちょうど25年、奇しくもこのイベントの歴史と同じ月日が流れている。
このオーバルとの出会いは、まさに運命的なものだった。かつて乗っていたマルサンが追突事故に遭い、修理のために訪れたショップに、たまたま前日に入荷したばかりのこの個体が置いてあったのだという。以来、長きにわたり留置さんの相棒として走り続けてきたが、7年ほど前、この「VW Autumn」からの帰路で故障して以降、トラブルが頻発するようになったという。
度重なる不調に、一時は手放すことも頭をよぎったそうだ。しかし、友人たちからの「1954年式は貴重だから直すべきだ」という助言、そして何より、幼い頃からこのクルマに親しんできた娘さんの「このクルマを継ぎたい」という言葉が、留置さんの心を動かした。

愛娘の言葉に背中を押された留置さんは、フルレストアを決意する。ボディを分解しての全塗装、メッキパーツのリクローム、そして破れていた内装もドイツから当時物の生地を取り寄せて張り替えるなど、徹底的なリフレッシュを行った。エンジンも換装し、3年前の暮れにようやく復活を遂げた。現在、娘さんは遠方に住んでいるためすぐにステアリングを握るわけではないようだが、このオーバルは次世代へと引き継がれる準備を整え、再び元気に走り出している。
信号待ちの偶然から始まった「カブリオレ」との数奇な物語
今回の嵐山高雄パークウェイには、もう一台、留置さんと深い関わりを持つクルマが並んでいた。ベージュのボディカラーが上品な1963年式タイプ1カブリオレだ。実はこのクルマ、ほんの2ヶ月前まで留置さんが所有していた個体であり、その入手経緯には驚くべきドラマが隠されていた。
話は20年以上前、留置さんが自身の1954年式オーバルを購入し、納車された当日に遡る。嬉しさのあまり朝から原付で近所を走っていた留置さんは、信号待ちでこのカブリオレと遭遇したのだ。当時は見ず知らずの他人だったが、「今日オーバルを取りに行くんです」、「また会いましょう」など、言葉を交わしたという。

その後、留置さんは転勤で遠方へ引っ越してしまい、その方とはもう会えないと思っていたが、ある時、職場の同僚を通じて、偶然にもそのカブリオレのオーナーであるNさんと繋がることができた。
それから長年にわたり、留置さんとNさんはツーリング仲間として親交を深めた。そして5年前、高齢を理由にNさんが愛車を整理することとなり、「君になら」と譲り受けたのが、かつて信号待ちで出会ったあのカブリオレだったのだ。
元輸入車ディーラーのセールスマンに渡った、空冷のバトン
しかし、空冷VWを2台体制で維持するのは容易ではない。近年の猛暑に加え、子どもたちの成長に伴い家族で乗る機会が減ったこと、そして駐車場の問題もあり、留置さんはカブリオレを手放すことを決めた。そこで新たなオーナーとして白羽の矢が立ったのが、今回一緒に会場を訪れていた大塚さんである。
大塚さんは、かつて輸入車ディーラーでセールスマンを務めており、留置さんのお母様の担当セールスだった人物だ。留置さんとは長年の付き合いで、以前から「いつか譲ってください」とこのカブリオレに熱視線を送っていたという。

「最新型のクルマばかり販売してきましたが、エアコンもない、マニュアルの旧車に乗るというのがたまらなく楽しいですね」と、大塚さんは顔をほころばせる。前オーナーによって2000ccクラスまでボアアップされたエンジンは力強く、30数年ぶりのマニュアル操作も相まって、運転そのものが面白いと語る。
娘のために蘇らせたオーバルと、信頼できる友人に託したカブリオレ。2台の名車は、それぞれのオーナーの愛情を受けながら、これからも日本の四季を駆け抜けていくことだろう。
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