コラム

白物家電化か、新たな分業か。台湾ホンハイの「ベースモデル」が日本のクルマづくりに迫るパラダイムシフト

スマホ製造の巨人が見せる、新たなクルマづくりのカタチ

ついに、こんな時代がやって来た。 台湾で鴻海精密工業(ホンハイ)の各種EVの実物を見ながら、そう感じた。ホンハイといえば、一昨年のホンダ・日産の経営統合協議の際、一部マスコミでよく登場した名前として覚えている人もいるだろう。 ホンハイの本業は、EMS(エレクトロニクス・マニュファクチャリング・サービス)。 電機・IT関連の製品の製造に特化するビジネスモデルだ。 公開されている顧客リストには、アップル、グーグル(親会社はアルファベット)、アマゾンなどビッグネームが名を連ねる。各企業との契約条項は非公開だが、一般的にはホンハイを“iPhoneを作っている会社”と表現する人もいる。 ざっくり言えば、そんなスマホビジネスの手法を、ホンハイはEVにも取り入れているのだ。

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幻の「アップルカー」から独自路線の「ベースモデル」へ

そもそも、ホンハイのEV参入については、アップルが自動運転EV計画「プロジェクトタイタン」の量産化をホンハイに依頼するのではないか、という噂から始まった。真偽は分からずじまいで、アップルは自動運転EV事業から事実上撤退することに。そんな時期に、今度はホンハイが「モデル」と呼ぶEVが次々と発表された。EVでモデルと言えば、テスラのモデル「S/X/3/Y」を連想する人もいるだろう。ホンハイのモデルとは、量産車種名ではなく、自動車メーカーなどEV事業者の多様なニーズに応えるための 「ベースモデル」という考え方だ。 コンパクトカー「モデルA」から、大型バス「モデルT」まで、ホンハイは乗用車と商用車でEVモデルをフルラインアップしているのだ。

従来のOEMを超越。日本の自動車メーカーにも迫る波

こうしたホンハイの戦略について、最初はホンハイの自社イベントで紹介されたが、日本のユーザーはこのニュース自体を知らず、また日本の自動車メーカー各社も“おおごと”としては捉えていなかった印象があった。ところが、2025年4月に東京都内で実施されたホンハイのEV事業説明会は大入り満員で、自動車業界のホンハイEV事業に対する関心の高さが表面化した。

自動車産業界にはすでに、OEM供給という手法がある。自動車メーカーが他のメーカーに対して内外装デザインの一部や、時にはパワートレインを変えて生産するケースのことだ。軽自動車では、トヨタ・スバルに対するダイハツ、マツダに対するスズキなどがあり、 日産・三菱は共同で商品企画を行うNMKVがあり、生産は三菱が行う仕組みだ。

ホンハイのEV事業は、従来のOEM供給を超越しており、ホンハイが自社開発したモデルが複数のブランドで販売される。また、三菱ふそうとは同社富山工場で大型EVバス「モデルT」等を生産することが明らかになっている。ホンハイと日本のクルマとの関係、これからも何か動きがあるのかもしれない。

【ル・ボラン編集部より】

スマホ受託製造の巨人が見せる「ベースモデル」構想は、長年自動車産業が培ってきた「すり合わせの美学」に対するアンチテーゼと言える。だが、これを単なるクルマの白物家電化と嘆くのは早計だ。プラットフォームが高度に規格化・コモディティ化すればこそ、各ブランドは独自のソフトウェアや体験価値の創造に専念できる。ソニーとホンダの「AFEELA」がエンタメ空間の拡張を追求したように、ホンハイの戦略は、次世代モビリティにおける「個性の再定義」を促す劇薬となる可能性を秘めている。

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桃田健史

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専門は世界自動車産業。その周辺分野として、エネルギー、IT、高齢化問題等をカバー。日米を拠点に各国で取材活動を続ける。日本自動車ジャーナリスト協会会員。一般誌、技術専門誌、各種自動車関連媒体等への執筆。インディカー、NASCAR等、レーシングドライバーとしての経歴を活かし、テレビのレース番組の解説担当。海外モーターショーなどテレビ解説。近年の取材対象は、先進国から新興国へのパラファイムシフト、自動運転、EV等の車両電動化、情報通信のテレマティクス、そして高齢ドライバー問題や公共交通再編など。

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