高騰するF1人気の舞台裏に潜入!
今回は、2026年3月後半に日本でも開催されたFIAフォーミュラ・ワン世界選手権(FIA Formula One World Championship)=通称F1について、世界的に高まっている人気の理由や自動車業界との関係、日本でも再燃している人気とF1日本グランプリの開催によって生み出される経済効果、変革期2026年の新レギュレーションや各チームの概況と将来のF1についての展望、そして、今年から自社製のパワーユニットを用いて初参戦しているにも関わらず初戦でポイントを獲得したアウディを中心にご紹介します。
【画像12枚】過去最高の人気を誇るF1に今シーズンから参戦しているアウディチームの詳細を見る
Netflixでのドキュメンタリー配信やブラッド・ピット主演の映画も後押し
近年のF1人気はとどまることを知らず、今や世界には8億人以上ものファンと年間累計16億人以上もの視聴者が存在していて、その人気は過去最高とも言われていますが、その立役者は米国(本社はコロラド州)にあるメディア企業の“リバティ・メディア(Liberty Media)社”でF1の商業権保有会社である“フォーミュラ・ワン・マネジメント(Formula One Management=FOM)社”を傘下に置いて2017年以降、F1の興行・商業戦略を主導しています。
具体的な施策として、エンターテインメント性を高めるためにNetflixでのドキュメンタリーの配信や各種のデジタル活用、イベント等における演出強化などを行うことでF1ビジネスの収益性強化を実現、F1をスポーツでもありグローバルIP(Intellectual Property)ビジネス、いわゆる知的財産を軸にしたビジネスでもあると提唱しています。
その一方でエンターテインメント性を高めるためにレース中のバトルを意図的に増やすレギュレーションの導入は安全面における懸念が高まる等、興行・商業重視で伝統的サーキットでの開催が減ってしまうといった心配も伴いますが、どのような立場から考えても特に人の生死にかかわる安全面の対策だけは最善を尽くさねばなりません。
仮に安全を鑑みメーカーが世界最高レベルの技術競争をするのであれば、自動運転による無人のクルマで競い合えば良いのですが、それではそもそも人が移動するためのクルマの意義や価値が無く、やはり、危険と隣り合わせであってもレーサー(ドライバー)の人という存在があってこそのレース、スポーツとしてのF1であるとも考えられます。
ファンにとって魅力的でなければF1は成立せず、魅力的であることがサーキットに来場する観客はもちろんのこと、メディアを介した視聴者や読者などを増やしてF1を支えるため、F1の人気が世界で高騰することはF1界全体を活性化させており、今年からアウディやキャデラックという世界を代表するプレミアムブランドの初参戦、ホンダの再参戦やフォードの参画、トヨタの関与につながっていると捉えられ、いずれにしても現在のF1がこれだけ盛り上がり興行としてビジネスも成功しているのは将来に向けてとても良い状況です。
変革期2026年のF1レギュレーション
モータースポーツの頂点に位置するF1は、2026年もパワーユニットがハイブリッド(エンジン+モーター)車で1.6L V型6気筒シングルターボエンジンを使用することは変わらないものの、変革の年と位置付けられるほどレギュレーションが変更されていてポイントを3つ挙げてみます。
1つ目は車体のコンパクト化で2025年に比較して、最大幅-100mm(1900mm)、最大ホイールベース-200 mm(3400mm)、最低重量-30kg(768kg)に変更されています。
2つ目は動力源の割合でエンジン主体からエンジンとモーターそれぞれおよそ半分ほどに変更、エンジンは燃料エネルギー流量(ECUと流量計により算出)から3000MJ/hに制限されて2025年の最高出力およそ660kW(約900ps)からおよそ400kW(約545ps)に引き下げられ、一方でモーターのMGU-K(Motor Generator Unit – Kinetic=運動~電気エネルギーの変換装置)は最高出力が350kW(約475ps)に引き上げられ1周あたりの回生と放出エネルギーも8MJ程度(暫定的)に増え、さらにMGU-H(Motor Generator Unit – Heat=熱~電気~運動エネルギーの変換装置)は廃止されています。
3つ目はサスティナブルとされるカーボンニュートラル燃料の導入で、これまでも植物由来のエタノールが10%使用されてきましたが、2026年からはカーボンニュートラル燃料100%(再生可能電力による大気や工業排出等からCO2を回収した合成燃料、廃棄物や非食用植物等によるバイオ燃料、もしくはその混合燃料)が使用されています。
チームやパワーユニットのマニュファクチャーの予算は引き続き制限され、2026年からパワーユニットの性能差が大きい場合に適用されるADUO(Additional Development and Upgrade Opportunities)を導入、一定基準より低い性能のパワーユニットのエンジン(ICE=Internal Combustion Engine)に改善機会が与えられアップグレードの機会を得ることができます(但し、安全性や信頼性、コスト削減に関わる場合は承認があれば随時アップグレード可能)。
具体的には、FIA(Federation Internationale de l’Automobile=国際自動車連盟)が各マニュファクチャーのパワーユニットのエンジンについてパフォーマンス・インデックスを6戦毎に算出、パフォーマンスが最良のエンジンより2%以上4%未満低い場合にはシーズン中1回と翌シーズンに1回、同じく4%以上低い場合にはシーズン中2回と翌シーズンに2回の追加アップグレード機会を得ることができます。
チーム間の競争力を拮抗させるための方策とも言えるADUOは、エンジニア視点では公平性があるとは言い難く、懸命に開発した技術をさらに進化させて世界一の性能を絶えず追い求めることの意義や価値、醍醐味といった考え方とは逆行していて予算制限と共にショー的要素を強めているとも捉えられますが、実力が拮抗してレースが白熱することは間違いありません。
技術的影響として大きいと考えられるのは、MGU-Hが廃止されて、50km/h未満でのMGU-Kのパワーアシストも禁止されることからターボタービンの性能によるエンジン出力特性への影響が大きくなるため、特にスタート時などの加速性能に差がつくといった影響が考えられます。
空力面では、これまでオーバーテイク時に(ダウンフォースも含めて)空気抵抗減らすために使用されてきたDRS(Drag Reduction System)が禁止され、新たにウイング角度を可変させることでコーナー用の高いダウンフォースと特定エリアと状況に限ってストレート用に切り替えて(荒天時にはフロントのみの可変等やパーシャルモード等もあるとされる)空気抵抗を減らすこと(同時に低いダウンフォース)を可能にするアクティブエアロが導入されています。
もう一つ、DRSに代わって導入されたオーバーテイクモードは、前走車とのタイム差が検出地点で1秒以内の場合に自動的に有効化されて、電動エネルギーの回生と放出エネルギーを1周あたり0.5MJ増やすことができ、また最高出力が発揮されるブーストモード使用時に290km/hを超えるとMGU-Kの100%パワーが減少していくところを、337km/hまで100%パワーを発揮できるようになるため、高速域においてオーバーテイク、つまり、追い越しやすい状況をつくります。
しかし、今回のレギュレーション変更は多岐に渡っていて、特に複雑でレース中の追い越し等のバトルを増やすための仕掛けも多く、観客を盛り上げる要素は強いもののドライバー負荷等の観点で安全上の懸念があり、ドライバー軽視のレギュレーション策定やさらには興行側面が強すぎるといった声もあって問題視されています。
いずれにしても、レギュレーションの懸念や課題については改良や修正といった変更も引き続き行われていくと考えられますが、臨機応変に安全最優先の良い形で進んでいくことが望まれます。
アウディF1の挑戦
2026年からアウディはF1に初めて参戦していますが、モータースポーツにおける実績は数多く、WRC(World Rally Championship=世界ラリー選手権)やル・マン24時間レース(2000年に初の総合優勝、数多くの総合優勝を遂げ、2012年にはハイブリッド車で史上初の優勝)等においてチャンピオンを獲得してきた世界屈指のブランドはF1参戦でも戦略的にチャンピオンを目指しています。
アウディは、F1チームとして伝統と実績のあるザウバーを買い取る形でチームを組織しましたが、パワーユニットはオリジナル(自社開発及び製造)でF1のパワーユニット(エンジン)・マニュファクチャーとしての参戦は、2002年のトヨタ以来、実に24年ぶりとなります。
アウディF1チームの正式名称は、アウディ・レボリュート・F1チーム(Audi Revolut F1 Team)で本拠地はスイスのヒンヴィール、名称にもあるチームのメインスポンサーは世界最大規模のデジタル金融サービス事業を展開する英国フィンテック企業のレボリュート・バンク・UK(Revolut Bank UK Ltd)で、日本においても2020年のサービス提供以来、デビットカード、外貨両替、国内外送金等、サービスを拡充しています。
アウディ同様に初めて参戦するキャデラックは、2016年のハース以来10年ぶりの前身チームを持たない新しいチームとして立ち上がっていて、パワーユニットはフェラーリから提供を受けています。
他にもレッドブルのパワートレインを担うRBPT(Red Bull Powertrains Ltd)はフォードと技術パートナーシップを締結、ホンダはRBPTとのパートナーシップから単独でアストンマーティンへパワーユニットを提供するといった具合に様々なところで新しい時代を感じます。
アウディはチームの体制について、3月下旬にはレッドブルのスポーティング・ディレクターとして手腕を発揮、前身のザウバー時代からチーム代表を担ってきたジョナサン・ウィートリー氏が急遽退任するという驚きのニュースがありましたが、フェラーリでテクニカル・ディレクターやチーム代表を担い、現在はアウディF1プロジェクトの責任者を担うマッティア・ビノット氏がチーム代表も担っています。
一連の動きに対して、アウディほどの大企業としては異例のトップがコメントを出しており、具体的にはAUDI AG CEO 兼 Audi Motorsport AG 取締役会会長 ゲルノート・デルナー氏が「参戦準備段階という重要な期間における、ジョナサン・ウィートリーのプロジェクトに対する貢献に感謝するとともに、今後の活躍を祈っています。マッティア・ビノットとチームは、私たちが選択した道を着実に進み続けます。私たちの目的は変わりません。2030年までにF1でワールドチャンピオンを争う最高水準のチームを構築するため、あらゆる努力を尽くします。この共通の目標を持続的に実現するため、私たちは組織体制を継続的に進化させていきます」と声明を発表、アウディのF1に対する本気度が伺えて今後の活躍を期待することができます。
ドライバーは、ドイツ出身でF1出走250回を超えるベテランのニコ・ヒュルケンベルグ(Nico Hülkenberg)選手とブラジル出身の若手ドライバーで今後が期待されるガブリエル・ボルトレート(Gabriel Bortoleto)選手がアウディF1チームのクルマ(マシン)R26で参戦しており、驚くべきことに開幕戦オーストラリア・グランプリで初参戦にもかかわらずボルトレート選手が9位に入賞して2ポイントを獲得しています。
群雄割拠の激しい攻防
第3戦F1日本グランプリ(鈴鹿サーキット)までの状況を振り返ると、メルセデスが一枚上の速さと強さを見せていて、続いてスタートがめっぽう速いフェラーリ、同じくメルセデスのパワーユニットを用いる昨年のチャンピオンチームであるマクラーレンが続き、トップレベルの速さを昨年まで見せていたレッドブルは上位争いができておらず、チーム間の力関係に変化が見られます。
日進月歩があたり前の世界であるF1において驚くようなことではありませんが、やはり、変革とも言われるレギュレーションの大幅変更によって様変わりしていることから、チーム間の勢力変化は観客や視聴者にとっては好ましいことであるとも考えられ、それこそがF1の醍醐味とは思いますが、レギュレーション変更は安全最優先であることを忘れてはならないと再三思います。
2026年F1のポイントは、電気エネルギーの回生とオーバーテイクモードやブーストモードのように、パワーユニットのエネルギー・マネジメントやアクティブエアロといった空力の可変技術を如何に上手く使えるかと、コンパクト化を活かせるかが勝負のポイントであると捉えており、パワーユニットの高出力化と合理化を実現しているメルセデスやスタートダッシュに効くターボタービンを搭載していると言われるフェラーリ、同じくメルセデスのパワーユニットを搭載しているディフェンディング・チャンピオンのマクラーレンと続きますが、レッドブルは昨年までの速さが相対的にみられません。
そういった中においてアウディは、ハースやアルピーヌ、レーシングブルズ、ウィリアムズ等と競い合って入賞圏内を狙うところに位置付けるも、今後の中盤争いも熾烈であると予想され、また今は苦戦しているキャデラックやアストンマーティン・ホンダも徐々に浮上してくると想定されます。
技術的ポイントとして、最高回転数が125000rpmにも至るMGU-Hの廃止が開発コスト削減に大きく寄与すると想定されるものの、それによってパワー(出力)がアクセル開度に反応してすぐに出てこないというターボラグを補えずMGU-Kも50km/hに到達するまでは使えませんので、ターボラグを如何におさえてエンジンの低中回転域のトルクを太くするといった旧来からのエンジン技術がより求められるようになったとも言えます。
さらに全体としては、車体のコンパクト化によって特にモナコ・グランプリを筆頭に各市街地サーキットにおいて抜きつ抜かれつのバトルがどのくらい増えるのか? といったところも今後の見どころだと思います。
F1の技術はそのまま市販車に活かされることは現実的には極めて少ないものの、各種の開発や特にエネルギー・マネジメント等の技術開発の経験や要素技術、エッセンス等は後に市販車の開発やマネジメントに活かすことができると考えられます。
緊迫するレース中のピット内
2026年のF1日本グランプリは、アウディからパドック内と特別に決勝レース中のピット視察(撮影及び録音一切NG)の機会をいただき、レース中のピットの様子を伺い知ることができました。
予選の結果はガブリエル・ボルトレート選手が9位、ニコ・ヒュルケンベルグ選手が13位と健闘していて、決勝のレース展開次第では十分に入賞できる状況であったため期待は当然のように高まります。
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