妥協ゼロの作り込み
このコラムでは、2026年5月に当サイトでご紹介した「ポルシェ935/19 2019」のモデルカー(ミニチュアカー)に引き続き、日本を代表する精密モデルカー・マニファクチャラー、東京・青山の「メイクアップ」が手がける「アイドロン」1/18新作をご覧に入れる。車種は「ポルシェ911 GT3 ツーリングパッケージ2021」。撮影はいつも通り、モデルカー撮影の第一人者、写真家の服部佳洋氏にお願いした。
【画像13枚】驚異の緻密さとバランス感覚の結晶を細部まで確認!
実車の「ポルシェ911 GT3 ツーリングパッケージ2021」について
今の時代、スポーツカーもどんどんATが主流になり、誰でも簡単に、安全に速く走らせることができるようになった。そんな中で、この「911 GT3 ツーリングパッケージ2021」というクルマは、調べれば調べるほど、乗る人の腕前や覚悟を真っ向から試してくる、今となっては本当に希有な存在だと思わされる。
見た目は街中にすんなり馴染む綺麗な大人の911だが、その中身は、3枚のペダルとシフトレバーを自分で完璧に操れる人にしか本当の姿を見せない、かなり硬派で「乗り手を選ぶクルマ」のようだからだ。
一番のポイントは、なんと言っても6速マニュアルトランスミッションだ。パドルシフト(PDK)を選べばコンピューターが勝手に一瞬で変速してくれるのに、あえてこの3ペダルが残された意味を考えてみよう。
実際にクラッチを繋ぎ、コーナーの手前でシフトダウンする瞬間、本物のドライバーはクルマに「乗せられている」のではなく、「自分の手足でこのモンスターをねじ伏せている」という強烈な手応えを感じているはずだ。きっちり回転数を合わせるヒール・アンド・トウができないと、クルマが機嫌を損ねてしまう。生半可な運転は受け付けないぞという心地いい緊張感が、このクルマのコックピットにはいつも漂っているのではないだろうか。
その緊張感とは裏腹に、車内には上質なブラックレザーが丁寧にあしらわれていて、大人のロングドライブにふさわしい落ち着いた雰囲気がある。しかし、レザーステアリングをしっかりと握り、タコメーターの針が跳ね上がった瞬間、この室内の空気は一変するに違いない。
後ろに積まれた4.0Lの水平対向6気筒エンジンは、ターボ全盛の今では奇跡に近い「9,000回転」という信じられない領域まで一気に吹き上がる。パッとアクセルを踏んだ時の乾いた吸気音と、背中から響くフラット6の叫ぶようなサウンドは、レザーの香りが漂う綺麗な室内を切り裂いて、ドライバーのシナプスに衝撃を放つのだろう。
かつてポルシェの歴史には、「カレラGT」という伝説的な問題作があった。シャシー剛性が当時のタイヤ性能を完全に超えてしまい、一歩間違えれば牙を剥く、狂気を孕んだマシンだ。それに対して、現代の992型GT3は、タイヤと電子制御の進化によって、あの頃のような「物理的に破綻する怖さ」は綺麗に調教されているという。しかし、だからといって牙が抜けたわけではない。
このクルマが持つのは、一般公道という環境に対して、シャシーもタイヤも「あまりにも勝ちすぎている」という現代ならではの別の狂気なのだ。ウイングレスの控えめなアピアランスながら、フロントには本物のレーシングカー直系のサスペンションが採用され、ハンドルを切れば微塵のロールもなく冷徹に路面をトレース。過剰すぎるその限界値の高さが、かつてのスパルタンな血統を今に伝えている。
1970年代の伝説のモデル「ナナサンカレラ」の時代から、ポルシェには快適に旅ができて、かつ中身はとびきり速い「ツーリング」という伝統の仕様があった。それを現代の最新技術で、もう一度真面目に作り直したのがこの992型だ。
決して、誰もが楽にドライブできる優しいスポーツカーではない。上品なレザーシートをあつらえ、目立つウイングを敢えて外すという美学を持ちながら、その本質は「本当に運転が上手い人」にしか心を開かない。並のドライバーでは到底御しきれないと分かっていても、だからこそ、クルマの運転を自らの手足で支配したいと願う本物のクルマ好きのために残された、最後の聖域なのである。
アイドロン1/18の開発
さてメイクアップ社「アイドロン」1/18スケール・モデル本製品の「ポルシェ911 GT3 ツーリングパッケージ2021」を観察していこう。開発に当たっては、実車を詳細に3Dスキャンし、その採集データをもとに原型を設計したという。
近年のモデルカー業界では、実車メーカーから提供された3Dデータをベースに設計するケースがほとんどだが、今回は基本データの採取から開発側に任されたパターン。最終的にはメーカーの知財部などからアプルーバルを得なければ発売に漕ぎ着けることができないので、並の模型マニュファクチャラーにできる作業ではない。
メイクアップの設計方針の基本は、実車の印象を忠実にスケール・ダウンすること。意図的なデフォルメは徹底的に排するが、模型として立体化された時にモチーフの印象をナチュラルに維持させるため、面やエッジの微調整は納得いくまで実施する。いわば実車の質感とプロポーションを表現するためのさじ加減。メイクアップは今回もその工程を絶妙な塩梅で成功させていると思う。
なお、メイクアップ製「アイドロン」の911 GT3 ツーリングパッケージのボディカラーは、この「GTシルバー」を含む5色が用意されている。入手ご検討の向きは、サイトをご覧になるか、同社に直接お問い合わせいただきたい。















