ポルシェ

911オーナーに聞く「今度の911も“最新こそ最良”?」

新型992の試乗会を終えて、現在911オーナーであるモータージャーナリスト3人による座談会を開催した。911はいつの時代もスポーツカーのベンチマークだった。果たして、新型911を試乗して彼らはどう感じたのか?最新の992は最良の911なのか? をテーマにオーナーならではの熱いトークバトルをお届けする。

新型992日本上陸、初試乗を終えて……

藤野 今日は短い時間でしたが、初めて日本の道で992を試乗できました。島下さんは海外試乗会にも参加していましたよね?
島下 海外で乗った時にまず感じたのは、方向性は991と同じ。997から991になったときほどの変化はなくて、正常進化だなって思いましたね。
藤野 ステアリングを切った瞬間に、おっなんかこれまでと違うなって感じました。ギア比がクイックになっているみたいで。これはオプションのリアアクティブステアがついていたので、その影響もあるかもしれないですけど。
島下 すごく高性能ですごく扱いやすい。ボディも991では鉄の割合は半分くらいでしたけど、992ではさらにアルミの比率が上がっている。そういう意味では、鉄のボディが持つ粘り感とか、得もいわれぬステアリングのダイレクト感だったり、感性的な部分でいえばウェットな湿り気のようなものは少し薄れてきた。
藤野 エンジンもすごく洗練された印象で。プシューと音がするからターボってわかりますが、実際はターボラグもないし、踏めばフラットに一気に吹け上がる。たしかに930に乗っていたときに感じたエンジンを回すほどに粒が揃っていくような感覚はないですが、もうNAにはこだわらなくてもいいのかなって個人的には感じましたね。山田さんは今日、991のカレラSとも合わせて比較試乗しましたけど、どうでしたか?
山田 991の後期型が出たときに雪上でテストする機会があって、ずっとテールスライドしながら走れた。こんなにコントローラブルなんだって驚いたのを覚えています。992は同じテイストでやっぱり正常進化だと思いますね。
藤野 もしかして違う方向を期待していた?
山田 もっと911ターボみたいな方向に行くのかなって。ターボの乗り味ってもっとまったりで、でもどうやってもちゃんと足が動いて、ゴツゴツもしなくて破綻がなくて、ビタっと吸い付いて離れないみたいな。それが普通の911におりてきて、ラグジャリーな方向にいくのかと思ってた。ところが意外に真面目にスポーツカーしていて、まだゴツゴツするところも残っているから、へぇ? って。ただそんな中でも、全体の剛性が上がっているから、速めの入力をいれたときのボディの反応がすごくよくなっている。これはものすごく高い次元のところで走ったときに、めちゃくちゃ面白そうだな、という予感がするよね。
島下 いや、ほんと、サーキットで乗ったときは素晴らしかったですね。たまたま992の試乗会の前の週に、991のカップカーを試乗させてもらう機会があって、そのイメージを残したまま992に乗ったんだけど、同じだなって。全開で走らせると本当にすごい。
山田 ただ残念ながら日常では絶対に試せない領域にある。サーキットとかじゃなければこの良さが伝わりにくいのは残念だね。極論、今後出てくるであろうGTSとか待たなくても、このカレラSに自分が好きな足を組んで、アクラポヴィッチのマフラーとか入れたらめちゃくちゃ楽しいと思う。

島下 ボクはノーマル派だから替えないけどね(笑)。
藤野 PASMとスポーツエキゾーストがあれば十分かと。
島下 ぜんぜんいけますよ、それで足りないなんて人はもう相当のレベルでないと。
山田 日常域から速めにレスポンスを出したいんだったら、ダンパーをいくら固めてもしょうがなくて、スプリングレートを上げていく世界になる。だから吊るしでってなるとGTSってことになるのかもしれないけど、カレラSのポテンシャルの高さをもう少しわかりやすく体感するにはそんな手もありますよってことです。
藤野 さすが走り屋(笑)。
島下 いまや991はライバルがたくさんいるから性能向上は宿命ですよね。高性能になるのはネガティブなことじゃないし、それを愉しめばいいと思う。ただ、そのためにも、ポルシェエクスペリエンスセンターのような施設がいるよねという話にもなる。
山田 まさにそうだね。
島下 ところで992ってちょっと大きくなったなとは感じます。
藤野 とはいえ全幅は1850mmですよね。
島下 たしかにゴルフが1800mmなんだから許してあげようという気にもなる。
藤野 寸法としては、991と992ってホイールベースがまったく一緒だからプラットフォームはキャリーオーバーと思いきや違うんですよね?
島下 MMB(モジュラー・ミッドエンジン・プラットフォーム)という新世代のものです。アルミ比率がかなり増えていて、ホワイトボディの重量は991よりも12kg軽い。で、このMMBはRRにもミッドシップにも対応で、今後はVWグループ全体で活用していくようです。
藤野 ということは、次期ボクスターとケイマンも。
島下 ランボルギーニ・ウラカンもアウディR8もこれを使うことになるんじゃないかと。
山田 そうやってクルマがどんどん洗練されていく一方で、993のように古いからこそ日常域でポルシェの味がわかりやすいでしょ、というのはあるよね。もちろん992にもロックンロールは決してクラシックにはならない、みたいな共通する世界観はあるんだけど。
藤野 ロックも時代とともに変わっていくように、911も変わってきたと。でも、よく知らない人が992に乗るとどう感じるんでしょうか? 911ってアクセル、ブレーキ、ステアのどれをとっても、操作に対してものを考えさせられるクルマだと思うんです。
島下 僕らのイメージする911はそうですね。
山田 RRって本当に曲がるのって? かつて心配していたのが、リアアクティブステアでクイクイ曲がるようになって、いまはなんにも考えなくてもひたすら気持ちいい(笑)。
藤野 もちろん技術が進化して運転がイージーになることは決して悪いことではないと思いますが、その一方で公道ではスピードを出すことは難しい時代になってきた。
山田 サーキットに向かう道中はADAS使うのが普通になってる。
藤野 この992にはACCがついていて、これまでパナメーラやカイエンでは試したことがありましたが、ついに911でこれを使うときがきたんだなって、さっき渋滞にハマりながら思いました。
島下 時代に応じた変化はするべきだし、996や997が登場したときもまわりの人は「こんな性能、日常では速くて味わえないよ」って、言っていたじゃないか! って思うんです。
山田 じゃあこれから10年後に「992は限界域が低かったけど……」って話してるのかなあ? 10年後には誰でもドリフトできるボタンとかが標準装備されているかもしれないけど(笑)、もう911としての基本的なドライビング性能はサチってると思うなあ。

 

「自分好みのモディファイしたらめちゃくちゃ楽しいと思う」山田弘樹

山田弘樹 K.Yamada/1995年式(type993)911カレラ
自動車雑誌「Tipo」の副編集長を経てフリーランスに。現在日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員としても活躍。編集部在籍時代からレース活動を始め、ツーリングカーからフォーミュラまで幅広く乗りこなす。空冷911に長く憧れてきて、もっとも感銘を受けたのは964RSという。足にも使える空冷の911という条件で、一昨年念願だった993カレラのMTを購入。できれば一生添い遂げたいと激愛している。

 

「パフォーマンスでいえばこれまでで最高なのは間違いない」島下泰久

島下泰久 Y.Shimashita/1995年式(type993)911カレラRS
1996年よりフリーランスとして活動を開始。2007年より日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員を務める。『間違いだらけのクルマ選び』著者でもある。これまで購入したポルシェは、2004年の993カレラにはじまり、996GT3、993カレラRS、そして現在所有する993カレラRSクラブスポーツなど。さらにGシリーズや991等も買ったり売ったりしてきた業界きっての911フリーク。

フォト=郡 大二郎/D.Kori ル・ボラン2019年10月号より転載
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