海外試乗

【海外試乗】 さらなる高みへ達した跳ね馬の本域「フェラーリ・ローマ・スパイダー」

V8の熱狂、エレガントな風格、そしてオープンエアモータリング……。既に’23年5月に日本でも実車が公開されたローマのオープントップ、「ローマ・スパイダー」を本国で試乗。クーペ以上の美しき佇まいに加えて乗り味も十分に煮詰められていて、ファンなドライビングが楽しめる。クーペに続くスパイダーの登場により、その価値はさらに高められたと言えるだろう。

乗り心地はクーペよりも確実に良くなっている

もし、2020年以降にリリースされた量産型フェラーリの中でマイベストを選ぶなら、私は迷わずローマ・スパイダーをイチ押しする。

イタリア・サルデーニャ島で行なわれた国際試乗会で試乗を終えたあと素直にそう思え、弊誌(ル・ボラン)を愛読していただいているドライビング好きの方ならば、共感してもらえるはず……という確信に近い感触を抱きながら、シートを後にした。

1〜6速はギアレシオが短く設定されドライビングファンに重点を置き、7速は巡航用、そして8速はロングドライブ時のエコドライブを想定。シフトスケジュールも最適化され、スムーズなドライビングに寄与している。

現代版ドルチェヴィータと題されたローマ/ローマ・スパイダーは、カリフォルニア、ポルトフィーノの系譜であるものの、オープン機構はリトラクタブルハードトップではなくソフトトップを採用。1969年にデビューしたデイトナとして知られるGT4/S以来のフロントエンジン&スパイダーということから、一部のファンからは、このモデルが仰望されているという。

クーペよりもデザインの自由度が高くなったことから、クローズ状態ではエレガントなシルエットを手に入れ、さらにカーボンファイバーを織り込んだテクニカルウィーブと呼ばれる素材を採用することでルーフに表情が生まれ、見事なまでにボディとの調和が生み出されている。

ソフトトップは屈強な5層構造となり、防音性や遮熱性に優れ、快適な空間が担保される。

車重はクーペよりも84kg増加されたが、電子制御を含むサスペンション等のキャリブレーションはFERRARI31スパイダー用に再設定されるとともに、シルやその他の主要構造部を強化することでねじり剛性を強化。食事で同席したエンジニアは「クーペよりも乗り心地は良くなっている」と自信をのぞかせていたが、それはこの後の試乗でまざまざと思い知ることとなった。

コクピットは、基本的にローマからのキャリーオーバーとなり、ステアリングホイールの操作スイッチの一部変更や、センターコンソールに電動ソフトトップの操作スイッチが加えられるなどの細かな点が変更された。

今回の試乗ステージはイタリア・サルデーニャ島南部の市街地やワインディング路が中心で、アウトストラーダ(高速道路)のない島であることから、高速クルージングは日本の高速道路と近しい制限速度に留まった。

60km/hまでなら走行中も開閉可能で、13.5秒あまりで圧倒的な解放感を手にいれられる。

走り出だしてからすぐ、ホテル敷地内のスピードバンプを乗り越えるポイントに出くわしたが、着地の印象はスポーツカーのそれとは異なり、むしろサルーンに近い。市街地では日本と同じくらいのスピード域で流したが、路面環境は決して良いとはいえないサルデーニャでも荒々しさとは無縁の乗り心地を披露してくれ、実に上質でしっとりしている。また、クルマ任せのシフト操作も実に巧みで、ギクシャクすることもない。例えば、十分に減速してからコーナーに入り、出口でアクセルペダルを踏み込むシーンでも、気持ちよくギアがセレクトされていくので、何気ないところでもドライビングファンが感じられた。この辺りの印象はクーペよりも確実にスパイダーの方が良くなっているはずだ。

コーナリングにはストーリーを感じる

今回のメインステージとなる地中海を望みながら走れるワインディング路では、さらなる真価を目の当たりにすることとなった。

最高出力620psを発揮する3.9L V8ツインターボを搭載。オイルポンプ機能が見直され、コールドスタートからの油圧上昇時間が早まり中回転域でのオイル流量も増加された。

パワートレインはクーペ同様にV型8気筒ツインターボと8速DCTの組み合わせとなるが、エキゾーストはスパイダー用に調整され、電子制御バルブにより速度域や選択するマネッティーノに合わせてV8サウンドは音色を変える。例えば「スポーツ」で2、3、4速とパドルを弾けば、「魅せる音」「愉しむ音」が咆哮する。一方、「コンフォート」に設定してクルージングギアで走れば、他のパッセンジャーと会話ができるレベルの心地よいエンジンサウンドとなる。

前席は18段階で温度調整可能なシートヒーターを搭載。オプションでネックウォーマーの装備も可能。

また音の演出と合わせて巧みなのが、後席を蓋のように覆うウインドディフレクターによる風の巻き込み処理だ。このディフレクターには細長いダクトがあり、これが車内で巻き起こる乱気流を整え、パッセンジャーの頭上付近は整流された状態が保たれる。意外と言ったら失礼だが、これが見た目以上に良い仕事をしてくれ、風の巻き込みの抑制だけでなく髪が四方八方に乱れるストレスからも解放され、ずっとオープンで走り続けることができた。

ウインドディフレクターは後席座面に対して平行に設置される。

そして、何にも増して唸らされたのがハンドリングだ。大きな弧を描くようなコーナーでは、旋回方向へ発生する横力をグラデーションのようにじわじわと感じさせ、この感覚がとにかく気持ちよく、そして正確に曲がって行く。一方、タイトコーナーで素早く舵を切った場合でもFRスポーツらしくノーズは機敏に入り遅れることなくリアが追従してくれる。どんなコーナーでも、ノーズインから車体の旋回という一連の動きにおいて単に曲がるだけではなく、ストーリーが感じ取れるのだ。サルデーニャのワインディングを走りながら「次はどんな感じ(どんなストーリーのコーナー)?」とワクワクしながら走ることができた。

長いフロントボンネットによってサイドのすっきりとしたシルエットが強調され、ボディ全体が滑らかな印象となり、ダイナミックな ルックスに仕上がっている。フロントエンドは静観なシャークノーズを形成。

そう、ローマ・スパイダーは高性能ウォーズではなく、純粋に走りやクルージングで楽しめるフェラーリであり、新しいフェラーリオーナーの間口を広げるモデルでもある……というのが冒頭で記した感触の本地であろう。

ADASが充実したのもローマ・スパイダーのトピックで、自動エマージェンシーブレーキ(AEB)や交通標識アシストに加えて、フェラーリではレーンキープアシスト(LKA)が初採用された。

試乗を終え、コーナーでの印象をエンジニアにぶつけたところ、それはまさに彼らが意図したセッティングであることと、市販車では488ピスタから導入された「フェラーリ・ダイナミック・エンハンサー」がキーポイントで、4つのホイールにリアルタイムでブレーキ圧を加えながら走行条件に応じて横方向の挙動をコントロールしているとのことだった。

ここまで素直に運転が楽しめるとは思わなかった。

いずれにしても、ローマ・スパイダーの楽しさには度肝を抜かれずにはいられなかった。

【Specification】FERRARI ROMA SPIDER/フェラーリ ローマ・スパイダー
■車両本体価格(税込)=32,380,000円
■全長/全幅/全高=4656/1974/1306mm
■ホイールベース=2670mm
■トレッド(前/後)=1652/1679mm
■車両重量=1556kg
■エンジン形式/種類=V8DOHC32V+ツインターボ
■内径×行程=86.5×82.0mm
■圧縮比=9.45:1
■総排気量=3855cc
■最高出力=620ps(456kW)/5750-7500rpm
■最大トルク=760Nm(77.5kg-m)/3000-5750rpm
■燃料タンク容量=80L(プレミアム)
■トランスミッション形式=8速DCT
■サスペンション形式=前:Wウイッシュボーン/コイル、後:マルチリンク/コイル
■ブレーキ=前後Vディスク
■タイヤ(ホイール)=前後245/35ZR20/285/35ZR20

問い合わせ先=フェラーリジャパン 03-6890-6200

リポート=佐藤 玄 フォト=フェラーリ ルボラン2023年12月号より転載
LE VOLANT web編集部

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