コラム

【徹底研究】音声会話は本当に便利なの? 奥サマはAクラスをどう使いこなすのか?

会話で育つワタシ好みの人工知能

新型Aクラスの最大のトピックは、対話型インフォテインメントシステムMBUX(メルセデス・ベンツ・ユーザー・エクスペリエンス)を搭載していること。巷では「ハイ!メルセデス!」で話題をさらっているこのシステム。コンパクトクラスを操る機会の多い奥サマの評価はいかがなものか? あきらさんちの休日にAクラスを連れ出し、使い倒していただいた。

試乗車は1.3L直4エンジンを積むA180。先代の1.6Lからダウンサイジングしつつ、14psのパワーアップ。奥サマも大満足な走りを見せる。

Aクラスに標準装備されるMBUXを試すべく、都内の自宅からいつも家族でお世話になっている乗馬クラブ、茨城県稲敷市のヨシザワライディングファームに向かった。小4の息子とA180に乗り込んでスタートボタンを押し、戸惑う。センターディスプレイにログイン画面風にプロフィール画像のアイコンが並び、どれかを選ばなくてはいけない。これらのアイコンは運転席の位置やドアミラーの角度、エアコンやナビ設定などをドライバーごとに登録できる「パーソナライゼーション機能」の「プロファイル」を表し、1台につき7名分のプロファイルとゲスト枠1つが用意されるという。複数人のドライバーが使う際に便利で、後述するMBUXの提案機能を自分用に育てるためにも不可欠な機能なのだが、ゲストと迷いつつ、いざ選ばれんとセンターに表示されたアイコンをタッチ。そう、このAクラスから待望のタッチパネル化されたのはうれしい。

さあついにMBUXに呼びかける時が来た。ハイ、メルセデス!「どうぞお話しください」。ヨシザワライディングファームに行くよ。「ルート案内を開始します」。おおナビ設定も超簡単!と喜んでいると息子が「Siriさん?」と問う。いや違う、アレクサでもグーグルアシスタントでもシーマンでもない。メルセデスさんだ。のちに編集担当のキョーヤ女史が「メルセデスぅ」と親しげに呼びかけるのに軽く嫉妬したのだが、ハイとかハローとかなしでもメルセデスと言えばOK。メルちゃん、めるっち、ベンツはNG。セデスは気が向けばという具合だった。

「ねむい」と言ったら近くのホテルがリスト表示されたというキョーヤ女史の前情報を首都高6号線走行中に試してみる。ねむいー。「何を行いますか?」。じゃあしりとりをして。「シートヒーターをオンにします」。ありがとう……ってもっと眠くなるわ、プンスカ!キャンセル!シートヒーター切って!「シートヒーターをオフにします」。助手席の息子が心細げに「りんご」とつぶやいたので「ゴリラ」って続けた。ありがと息子。

 

常磐道の柏あたりで「トイレに行きたい」と言ってみたら、自宅(出発点)の近所の都営地下鉄駅構内トイレが男性用・女性用・多目的とリスト表示されてがっかりする。よく見るとそれはオンラインでのリストで、オフラインのタブを開くとナビ情報が反映されているのかJR柏駅のトイレが。わあ、こっちなら近い♪……ってわざわざ高速下りて駅のトイレに行くかい、プンスカ!もういいよ!「何を行いますか?」何なの!「申し訳ございません。これでもあなたの期待に応えられるよう最善を尽くしているのです」。ごめんメルセデス、ちょっと言い過ぎた。

 

クラウドとの通信は購入から3年間は無償

オンライン/オフラインとさらっと流したが、MBUXは車載コンピュータとクラウドをパラで走らせてより的確な応答を引き出そうというハイブリッド方式を採る。オン/オフライン設定を切り替えつつ使ってみると、目的地の天気や前述の「これでも最善を尽くして……」というようなエモいトークはクラウドの担当、ナビ設定や各種ヒーターなど車両操作についてはローカルで引き受け、「しりとり」を「シートヒーター」と取り違えるあたり、どうも車両操作にまつわるワードが優先して推測されるようだ。ただし車両操作といってもACCの設定が面倒だからと「前のクルマについていって」「リミッターオン」など運転に関わる操作は受け付けない。確かに同乗者が「もっと速く!」なんて言うのに従われたら危険すぎる。

車載コンピュータにはニンテンドースイッチの共同開発でも知られるNVIDIA社製プロセッサを採用。賢いことに「下道でいいや」とか「進行方向を上にして」なんて言い回しにも適切な操作を選択してくれる。このAIは学習機能を持ち、ある時刻に決まった電話をかけるユーザーにはいい頃合いにその電話番号をおすすめ表示したりするように育つ。ちなみに筆者が選択したプロファイルはTBSラジオ好きに育てられたらしく、インターFMを希望しても周波数を指定しない限りかたくなにTBSラジオがかかり、図らずも伊集院光さんのトークが楽しめた。

騎乗不足のアラフィフが週1ペースで3年。ジャンピングを楽しめるようになるなんて夢のよう。がんばってくれる馬かわゆす。

一方クラウドにはニュアンスコミュニケーション社のサーバを採用し、方言や流行語などを反映させるべく更新を重ねているという。クラウドとの通信はソフトバンク回線を利用しているが、購入から3年間は無償で利用でき、それ以降は検討中とのこと。日々激変するデジタル環境を思えば、先のことは検討中という態度もむしろ誠実と思われる。

先頃、メルセデスのコンパクトでは初となるクリーンディーゼル搭載のA200dが追加設定されたのもトピック。

運転中の音声認識が便利なのはもちろん、決められたコマンドワードでなくても操作可能なのはとても便利だった。ただし音声操作中に後席の夫が「メルセデスってさぁ」などと言うとテレマティクスサービス「メルセデスmeコネクト」に電話してしまったり、「何を行いますか?」と言うMBUXに子供たちが「サッバークカリバー!」「ダークなんちゃらを撃て!」と一斉に叫び出して認識不能になったりと、ひとりドライブやみんな寝ちゃった時向きの印象だ。また走行中にリストや設定画面が表示されて選択を求められるのは安全上気がかり。伝統のグリップ式ドアハンドルを残しながらもスポーティな外観とセグメントトップのCd値を実現したメルセデスには、一層の技術革新を期待したい。

息子はポニーとレッスン。心優しいポニーたちに、乗ること以上に大事なことも教えてもらう。なかよしの馬友3人もドライブに誘った。

帰り道、のども枯れたし音声認識をオフにした。出足はそろそろとしたメルセデス流だが1.3Lとは思えないほどパワフルに加速し、スポーツモードではブリッピングをくれつつ小気味よく駆け、コンフォートモードであってもまさにニュートラルステアの気持ちよさが味わえる。MBUXにだけ夢中になってちゃもったいない。

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世界を跳ぶ!吉澤彩選手

オリンピックを目指しオランダで競技活動中の同クラブ所属、彩(ひかり)選手。世界ランキングは日本人2位。活躍の様子はFacebook@吉澤彩後援会で!

リポート:竹井あきら/A.Takei フォト:柏田芳敬/Y.Kashiwada ル・ボラン6月号より転載

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