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【最新モデル10番勝負!/JUDGE 04】最新版ミドルクラスSUVの頂上決戦「メルセデスベンツGLC×アルファロメオ ステルヴィオ」

GLCの出来映えが本当に素晴らしい

同じクラスの同じカテゴリーだから基本的な”できること”は同じだし、得られるメリットの大部分も共通しているのに、それぞれが目指した方向とその結果としての乗り味が真逆か? と思えるくらいに異なるケースがある。その代表例が、DセグメントSUVのメルセデス・ベンツGLCとアルファ・ロメオ・ステルヴィオだろう。

2l直列4気筒直噴ディーゼルターボエンジンには、48V電気システムとマイルドハイブリッドであるISG(インテグレーテッド・スターター・ジェネレーター)を初採用する。

メルセデス・ベンツGLCは、よく知られているとおり、セダン/ステーションワゴンでいうならCクラスに相当する、メルセデスのラインナップのひとつの大きな柱である。日本では今年の3月にフルモデルチェンジ版がデビューして、2代目となっている。
メルセデスのクルマ作りの目指すところは、”最良であれ”だと聞いたことがある。スローガンの言葉は何度か変わってはいても、その根にある”最善か無か”というゴットリーブ・ダイムラーのモットーは、今も活きている。新しいGLCに初めて試乗したとき、僕はそんなふうに思ったものだ。そしてあらためて試乗してみても、まったく同じように感じたのだ。
というのも、1台のクルマとしての出来映えが本当に素晴らしいのだ。不満を感じる人なんているのだろうか? とすら思う。
あえて言うならスタイリングが知らない人だと旧型と区別がつかないだろうほどのキープコンセプトで、新鮮味が感じられないということぐらいか。それでもシンプルかつトラディショナルでほどよくクラッシィでもあり、すんなり好感を抱ける印象だ。インテリアもセダンのCクラスよりラグジャリーでありながら落ち着きも増してる感じで、なかなか悪くない。

インテリアは、現行Cクラスと同様の12.3インチのコクピットディスプレイや11.9インチの縦型ディスプレイが存在感を放つ。またレザーとウッド、アルミを採用したインパネは、ラグジャリー感のある空間を生み出している。

でも、”いいなぁ、これ……”と強く感じるのは、いうまでもなく走りはじめてから。最新のMRAⅡプラットフォームには状況に応じて減衰力を調整するセレクティブダンピングシステムが標準で備わり、セットオプションとして、エアサスペンションとリアアクスルステアリングを選ぶこともできる。その組み合わせが最強なのだ。足腰の動きのストローク感がとても優しくて、乗り味は極めてまろやか。速度域が高まるに従って引き締まってはいくが、高速道路でもワインディングロードでも乗り心地は総じて良好なままなのだ。
リアアクスルステアリングも抜群に効く。低速域では実に小さく曲がれ、中速域ではライントレース性が高く、高速域ではビシッとした安定感を与えてくれる。先代の排気量を1992㏄へとわずかに拡大した2l直4ターボディーゼルと48Vのスタータージェネレーターを組み合わせたマイルドハイブリッドシステムのパワートレインも、印象は良かった。柔軟だし力もスピードも充分にあって、ストレスというものがない。
いや、完成度はめちゃめちゃ高いのだ。尖ったところはないが、文句のつけどころというのが見つけられない。素直に”いいクルマだなぁ……”と思わされる。安価ではないけれど、このクルマを越えるいい意味での”最良の道具”感を意識させるモデルは、DセグSUVの中には存在しないと思う。

スポーティさを強調した最新型ステルヴィオ

一方のアルファ・ロメオ・ステルヴィオは、アルファの歴史のうえに初めて誕生したSUV。春先に上陸したトナーレの姉にあたるわけだが、どちらも素晴らしく鮮烈なハンドリングで楽しませてくれる、はっきりとしたスポーツ系。
アルファ・ロメオがクルマ作りの中で絶対に欠かしていないのは、ひとつはドライビングファン、そしてもうひとつはセンシュアリティである。時代ごとにできることや許されることは異なっていたが、アルファ・ロメオはいかなる場合も操縦者に笑みや鳥肌を与える楽しさや気持ちよさのあるクルマを作ってきたし、いかなる時代も視線をなかなか外せない印象的な造形を描き出してきた。優秀さで相手を納得させるのではなく、吐息ひとつ、流し目一発で心を奪うようなクルマを延々と作ってきた。

ステルヴィオも、もちろんそうした1台だ。12対1を下回る凄まじいステアリングレシオによる恐ろしくシャープなノーズの動きと、それを上手に受けとめる安定方向のシャシーに後輪駆動ベースのAWDが生む、蠱惑的なハンドリングとコーナリングパフォーマンス。本来は実用車たるSUVらしからぬゾクッとするような乗り味には、走らせるたびに魂を抜かれてきた。
それはマイナーチェンジがほどこされた最新型でも健在だった。280㎰の2l4気筒ターボエンジンは少々滑らかさを増し、シャシーもさらに洗練され乗り味も大人びて快適さを伝えてくるようになったが、本性は変わらない。このクルマに匹敵する走らせる楽しさを持つSUVは、妹分のトナーレくらいしか思い浮かばない。クルマとしての良し悪し? もちろん悪くはないのだけど、いや、そういう理屈で選ぶクルマじゃない。僕はわかっていながら、またしても心を鷲掴みにされたのだ。
この2台を頭の中で横並びにして購入に悩むという人がいたら、もしやよっぽど特殊な事情があるんじゃないか? なんて勘ぐりたくなってしまうほど違う。けれど、両車ともそれぞれ目指した方向では間違いなくピカイチといえる出来映えなのだから、素晴らしい。好みに合ってさえいれば、どちらも後悔することはないだろう。結論はそれ以外にはありえない。

フォト=郡 大二郎 ルボラン2023年9月号より転載

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