A110RにO.Z.の鍛造ホイールを装着!
もはや東京オートサロンでは常連となったルノー・スポールが、今年はいないのが少し淋しく感じるかもしれないが、その分、後を継ぐアルピーヌが広々とブースを構えている。展示車両として並べられたのは3台のベルリネットことA110で、2台はA110Rで1台はA110GTだ。
考えてみれば独立ブランドとはいえ、A290というBEVホットハッチが共通プラットフォームのルノー5 E-TECHと欧州カー・オブ・ザ・イヤー2024-25を獲得したとはいえ、相変わらずアルピーヌは日本では単一車種ブランドのまま。しかも展示車両3台のうち1台は競技車両にもかかわらず全部エンジンは同じ仕様で、純正の市販ノーマルの300㎰仕様だったりする。ハデなカスタム&チューニングで知られるオートサロン東京で、これはほとんどノーガードか無手勝流かという異色のプレゼンなのだ。
だからアルピーヌでつねに注目すべきは、シャシーの微妙な違いだ。そもそもブルー&ブラックカーボンの仕様、A110Rチュリニは昨年も展示されていたので、今年の話題はその足元に装着された新開発の鍛造ホイール「O.Z.エストレーマ・フォルジアータA110」だったりする。これはWECでシグナテック・アルピーヌが走らせているハイパーカー、A424と同じスポークデザインのホイールで、アルピーヌのWEC活動をサポートするO.Z.レーシングと密に連携して開発されたものだ。アルピーヌA110にはこれまでもフックス製の鍛造ホイールが標準またはオプションで用意されていたが、今回のO.Z.レーシング製は同じくフロント7.5J、リア8.5Jだが、1本あったりの重量は7.9㎏と8.5kg、つまりー1.1kgとー0.9kgを実現しており、フックスより4輪で総計4kgもの軽量化が図られるのだ。たかが4kgと思われるかもしれないが、バネ下であることに加え、車両重量が1080~1110kgに満たないA110にとっては相対的に大きな違いを生む。
ちなみにA110Rのシャシーが「シャシー・ラディカル」であるのに対し、同じく300㎰仕様だがよりツアラー志向でストリートでの快適さをも意識したベーシックなA110やA110GTは、「シャシー・アルピーヌ」となっている。その中間にあるのが今回は展示車こそ用意されなかったが「シャシー・スポール」ことA110S。サスペンション剛性や車高、エアロパーツの有無によって狙う速度域やダウンフォースを使い分けることで、アルピーヌは単位車種ブランドながらそれぞれのバージョンで、決定的な走り味の違いを生み出しているのだ。
実際、A110Rは当初、デュケーヌ社のカーボンホイールにミシュランのパイロットスポーツ・カップ2の組み合わせだったが、カタログモデルとして通常ラインナップに追加されるにあたって、テストドライバーのダヴィッド・プラシュ氏や開発陣が、あえて「GT」というツアラー志向の鋳造ホイールを「A110Rチュリニ」用に選択した経緯がある。A110Rともなると、日常のストリートよりも週末のトラック・デイなど走行会やタイムアタック会が用途の比重っとして高くなる分、ただバネ下重量を減じるのではなく、低められた車高と強化された足まわりに対し、ホイール剛性と真円度の高さを意識したとのことだった。それだけA110のシャシーは繊細かつ微妙なバランスの上に成り立っているものであり、ホイールの選択ひとつで目指す走りやセッティングの方向が変わってくるのだ。
実際、ここ数年はA110S、一昨年と昨年はA110Rで、前人未到の全日本ジムカーナ選手権における24回目のタイトルを手にした山野哲也選手の愛機であるA110Rも展示されていた。こちらは日本のモータースポーツの場では定番といえる鍛造ホイール、レイズ「CE28」を装着している。軽さや剛性、真円度の高さに加えて信頼性や実績のあるホイール銘柄であり選択といえるだろう。何よりA110のホイール穴はPCD114.3の5穴で、フロント7J・リア8Jのツーリング志向のGTのセッティングを含めればオフセットは+29・+40から、通常の7.5J・8.5Jの+35・+46まで、前後異型とはいえじつは国産車のFRスポーツに近しいサイズを装着できる。ちなみにハブのコンタクト面は66.1mm径だ。
カップカーやラリー用のR-GTなど、競技専用車両のA110がプライベーターのクライアント向けに多数、販売されているフランス本国では、エボコルセのサンレモがホイールとしてSタイヤやカットスリックとの組み合わせで推奨されているようで、フロント8Jで+30・リア9Jで+38といった数値が多い。
もっともバネ下重量の軽いホイールだけが唯一正しいソリューションではなく、求める走りやパフォーマンスのパターン数だけ、ホイールの選択肢があることを、A110は単なるオプションのアフターパーツ販売だけではなく、シャシー違いごとのラインナップ全体で示している。またホイールのみならず、アクラポヴィッチのマフラーカッターや、アトリエ・アルピーヌでのオーダー時には、キャリパー色もバリエーションで選べる。是非ディーラーでその違いや差異を体感してみてはいかがだろうか。
この記事を書いた人
1971年生まれ、静岡県出身、慶應義塾大学卒。ネコ・パブリッシング勤務を経てフリーランスのライターに。2001年より渡仏し、パリを拠点に自動車・時計・男性ファッション・旅行等の分野において、おもに日仏の男性誌や専門誌へ寄稿し、企業や美術館のリサーチやコーディネイト通訳も手がける。2014年に帰国して活動の場を東京に移し、雑誌全般とウェブ媒体に試乗記やコラム、紀行文等を寄稿中。2020年よりAJAJの新米会員。