国内試乗

333馬力なのに「アンダーステイトメント(控えめ)」とは? 新型VW「ゴルフR」は歴代最強の「羊の皮を被った狼」だった

熟成の極み。GTIとは違う「R」だけの世界

フォルクスワーゲンの人気ハイパフォーマンスモデル「ゴルフR」がマイナーチェンジを受け、さらに進化した。最高出力は333psに向上し、最新の4WDシステムが組み込まれている。その実力を確かめるべく、ポルシェ・エクスペリエンス・センター東京で開催された試乗会に参加。GTIとは一線を画す、ゴルフシリーズの頂点に立つモデルが見せた「控えめ」ながらも圧倒的なパフォーマンスを、クローズドコースでの試乗からリポートする。

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世界的な人気を誇る、ゴルフ最強モデルの現在地

フォルクスワーゲン「ゴルフ」のマイナーチェンジに合わせて登場した新型「ゴルフR」。初代にあたるゴルフ4の「R32」が2002年に登場してから5世代、20年以上にわたる歴史を持つ、このハイパフォーマンス4WDモデルは、今やクラス屈指の人気を博している。

実際、2020年頃から販売台数が年々増加し、2023年にはグローバルで過去最高の3万2543台を販売。日本でも市場別で6位となる1014台が顧客の元に届けられた。マイナーチェンジが入った2024年は若干減って約3万台となったが、一層の進化にますます注目が集まっている。

そんなゴルフRの実力を体験できるイベント「Thrilling R(スリリングR)」が、2025年5月中旬に千葉県木更津市にあるポルシェ・エクスペリエンス・センター(PEC)東京で開催された。当日はメディア向けだったが、後日一般参加者向けにも開催されている。

というわけで、ゴルフ8.5に進化した新型のゴルフRの最初の国内試乗は、クローズドコースが舞台となった。

最高出力333ps、最新4WDで走りの次元を引き上げる

今年1月に国内市場で発表となった新型ゴルフRは、ハッチバックとヴァリアントの両方に設定。新型は、新デザインのフロントバンパーやヘッドライト&リアコンビランプ、イルミネーション付きのフロントエンブレムを採用。また上級グレードのAdvanceには、1本あたり8kgと従来品より20%軽量かつブレーキ冷却効率も向上させた19インチアルミホイール「Warmenau(ヴァルメナウ)」を装着し、これまで以上にダイナミックなルックスを手に入れている。

EA888型の2.0L直列4気筒ターボエンジンは、最高出力333ps/5600-6500rpm、最大トルク420Nm/2100-5500rpmと、従来モデルから13ps向上。2023年に発売された特別仕様車「ゴルフR 20Years」と同様に、低負荷状態でもターボチャージャーを一定の回転数を保つためのプリロードチャージャーを搭載。またレースモード時に作動する、スロットルオフ時にもスロットルバルブを全閉にせずに再加速時のレスポンスを向上させる機能も盛り込まれている。組み合わされるトランスミッションは7速DSGのみだ。

駆動方式は、電子制御多板クラッチを用いたハルデックスカップリング式電子制御4WDの4MOTIONで、前後の駆動トルクは100:0~50:50で最適かつ連続的に可変制御される。またリアアクスルには、車速やエンジン出力、ステアリング角度、横方向の加速度、ヨーレートなどをもとに、2つのマルチプレートクラッチが左右のトルク配分を最適にコントロールする「Rパフォーマンストルクベクタリング」を装備。さらにブレーキ制御によりLSDと同様の効果を発揮する電子制御式ディファレンシャルロック「XDS」や、電子制御可変ダンパーであるアダプティブシャシーコントロール「DCC」(Advanceに標準)も搭載。これらをビークルダイナミクスマネージャーによって統合制御することで、極めて優れたダイナミック性能と快適性を高次元で両立させた。

PEC東京の難コースで実感する、卓越した動力性能と快適性

今回はまず、標準仕様のハッチバックのステアリングを握り、インストラクターの先導でコースイン。PEC東京のハンドリングトラックは、全長約2.1kmの中に、ニュルブルクリンク・ノルトシュライフェの「カルーセル」や、ラグナ・セカの「コークスクリュー」など、世界の有名サーキットの名物コーナーを模したセクションや、大小さまざまなコーナー、約40mの高低差が盛り込まれた、なかなかテクニカルなコース。個人的にはクルマのダイナミック性能を知るのに最適なコースだと思っている。

そんなコースで新型ゴルフRは、素晴らしい走りを披露した。勾配がきつい上りのS字区間では、余裕あふれる加速力とトラクション性能、そして正確なハンドリングが楽しめ、カルーセルからの脱出では素晴らしいエンジンレスポンスを確認。コークスクリューでは非常にコントローラブルなブレーキとRパフォーマンストルクベクタリングやXDSの効果に感心させられたのだ。

しかも新型ゴルフRは、非常にハイパフォーマンスなモデルでありながら、極めてドライバビリティが高く、ハンドリングトラックを全開に近いペースで走っていても、車内は十分に快適なのだ。このあたりには、速さと同時にドライビングで疲労しないだけの快適性も求められる、WRC参戦マシンをはじめとするモータースポーツ車両を開発していた「VW R GmbH」の開発能力の高さが垣間見える。

ドリフトも自由自在。緻密な制御が可能にする懐の深さ

次はウェットの定常円でドリフトコントロールを体験した。ESPをオフにして定常円に進入し、ステアリングを軽く切った状態でスロットルペダルを踏み込むと、即座にヨーモーメントを維持したままテールスライド状態に。そのままスロットル操作だけでドリフト状態が維持できる。上手くコントロールすればゼロカウンターの4輪ドリフトも可能。4MOTIONやRパフォーマンストルクベクタリングの制御は、とても緻密だ。

パイロンでスラロームコースが設定されたダイナミックエリアでは、標準モデルとAdvance、ハッチバックとヴァリアントの違いを体験。どれもハンドリングは非常に正確で、自由自在にパイロンの間を駆け抜けることが可能だったが、やはり若干の違いは感じられた。ハッチバックとヴァリアントの違いはごく僅かだが、挙動の安定感とハンドリングの正確性で、Advanceは一歩リードしている印象を受けた。軽量な19インチアルミホイール&前後235/35R19タイヤと、DCCまで組み込まれたビークルダイナミクスマネージャーによる走りは、より高いレベルで洗練されている。

GTIの「やんちゃ」とRの「上質」。そのキャラクターの違い

今回はハンドリングトラックで新型GTIを試乗することもできたのだが、GTIとRは、単に2WDと4WDの違い以上に、キャラクターの違いも大きく感じた。GTIは誤解を覚悟で言えば、少々やんちゃなキャラクターで、良い意味でFFのクセも楽しさの一部に取り込んだモデル。一方Rは、ゴルフのパフォーマンスを限界まで引き上げながら、トップモデルに相応しい上質な走りも実現した、ある意味「控えめ」なキャラクターが魅力の一台、といった感じだ。

実際、今回のイベントのために、ドイツから来日したレーシングドライバー(ニュルブルクリンク・ノルトシュライフェにおけるゴルフのコースレコード保持者!)であり、新型ゴルフRの開発にも携わった、ベンヤミン・ロイヒター氏は、次のように語っていた。

「新型ゴルフRの仕上がりには、とても満足しています。極めてダイナミックな走りを楽しめるモデルでありながら、アンダーステイトメント(控えめ)である点がこのクルマの魅力です。これならデイリーユースにも全く問題なく使えます。日本の皆さんにも、日常的に新型ゴルフRの走りを楽しんでもらいたいです」

700万円を超える車両価格は、ここ日本では決して安くはないが、「走りと快適性」をどこまでも追求する、ドイツのハイパフォーマンスカーづくりの伝統が色濃く感じられる新型ゴルフRは、ある意味お買い得かもしれない。

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フォト=篠原晃一/K. Shinohara
竹花寿実

AUTHOR

1973年生まれ、自動車専門誌&自動車情報Webサイトの制作を経て、2010年に渡独。フランクフルトをベースに在独モータージャーナリストとして活動し、ドイツ車を中心に、ヨーロッパの自動車産業や交通社会、先進技術、モータースポーツなどを取材し、日本やドイツ語圏、中国などのメディアに寄稿する。2018年の帰国後は、ドイツでの経験に基づいたプロダクト評価のほか、ドイツの自動車メーカーの最新動向や、交通政策、道路環境、運転マナー、自動車文化などについて、雑誌やWEB媒体で発信している。

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