Tクロスの正統後継たるEVがいよいよヴェールを脱ぐ
2026年7月15日、ドイツ・ヴォルフスブルクのフォルクスワーゲンAGは、現地時間正午に、新型コンパクト電動SUVである「ID.クロス(ID. Cross)」を発表した。ただし、今回公開されたのは、量産化直前のコンセプトモデルであり、最終的な仕様では、ディテールが若干変更される可能性がある。
【画像50枚】原点回帰のクリーンデザイン。日本導入が熱望されるVW「ID.クロス」の内外装をギャラリーで見る
アフォーダブルな価格設定でEV普及の起爆剤に
とはいえ2026年秋には、ほぼこの姿でヨーロッパ市場に投入され、ヨーロッパ市場で約2万8000ユーロ(約518万円)で販売されるという。現在は1ユーロが185円前後という歴史的な円安の状況なので、円換算では高く感じるかもしれないが、現地では現在のTクロスより3000ユーロ弱高いくらいなので、BEVとしてはかなりアフォーダブルな価格設定である。
このID.クロスは、近年のVWのヒット作で、日本市場でも人気を博しているTクロスの後継モデルに位置づけられる。現実的には当分の間は併売されるだろうが。
だがVWにとって、とても重要なモデルであることは間違いない。このID.クロスは、ID.ポロとともに、ヨーロッパ各国が財政悪化を理由にBEV購入補助金を廃止または縮小する流れの中で、VWのBEVユーザーを増やすゲームチェンジャーとなることを期待されているはずである。
広々キャビンと先進インテリアを両立したパッケージング
そんなID.クロスは、少々乱暴な言い方をすれば先日発表されたID.ポロのSUV版である。全長4153mm、全幅1794mm、全高1581mmで、同様に新世代のBEV専用プラットフォームである「MEB+」を採用しているID.ポロより100mm長く、22mm幅が狭く、51mm背が高い。ホイールベースは2601mmで、ID.ポロより1mm長いが、車高の違いによる変化と考えていいだろう。最低地上高は140mmを確保している。Tクロスと比べるとホンの少しだけ大きく、ホイールベースは50mm長い。
全体的にクリーンで、今どきのシティSUVらしいルックスは、幅広いカスタマーに受け入れられそうだ。インテリアも奇をてらった感はなく、先進性と上質感を高いレベルで実現している。インパネは10.25インチのデジタル・コクピット・プロと12.9インチのセンターディスプレイを備えた、水平基調のシンプルなデザインで、交通標識を表示するダイナミック・ロードサイン・ディスプレイには1980年代風のデザインを採用するなど遊び心も盛り込んでいる。またタッチディスプレイも物理スイッチも、直感的に操作できることを最優先にデザインされた。
5人乗りのキャビンは、十分に実用的な広さを確保。ラゲッジはTクロスより20L大きい475Lを実現した。さらにフロントのボンネットフード下には25Lのフランクが設けられている。使い勝手はTクロス以上に良さそうだ。
2種類のバッテリーを用意し、最大航続距離は436km
バッテリーはホイールベース間に搭載され、37kWh(ネット)のLFP(リン酸鉄リチウムイオンバッテリー)と、52kWh(ネット)のNMC(ニッケル・マンガン・コバルトを使用した三元系リチウムイオンバッテリー)の2種類が用意される。どちらもVWグループが開発したグループ・ユニファイド・セル(グループ統一規格バッテリーセル)と呼ばれるものだ。
標準仕様は全車37kWhで、最大11kWのAC普通充電のほか最大90kWのDC急速充電に対応する。組み合わされる電気モーターは、最高出力116psまたは135psの「APP290」で、WLTPモードにおける航続距離は最大316kmだ。52kWhのNMCは、中間グレードの“ライフ”と上級グレードの“スタイル”にオプションで用意され、最大105kWのDC急速充電に対応し、APP290は最高出力211ps、航続距離は最大436kmとなる。なお、駆動方式は全車前輪駆動だ。
新開発ブレーキと赤信号対応のADASに注目
サスペンション形式は、フロントがマクファーソンストラット、リアはトーションビーム式で、コストとスペース、重量を最適化。スタビライザーは比較的剛性が高めのものを装着し、正確で洗練されたハンドリングを実現したという。ブレーキは前後にディスクブレーキを採用した、新しい“ワンボックス”ブレーキシステムを搭載し、従来のBEVモデルからペダルフィールを大幅に向上。ワンペダルドライブも可能だ。
ADASは、数々の最先端運転支援システムに加えて、信号認識機能を備え、オンラインデータを利用する「コネクテッド・トラベル・アシスト」がオプションで設定される。このシステムは、通常のトラベル・アシストの機能に加えて、信号機にも対応し、赤信号を検知すると自動的に車両を停止させる。実際にどのような制御が行われるのか、非常に興味深いところだ。
走りを彩る、新開発のブランド専用サウンド
サウンドに対するこだわりも、ID.クロスの注目ポイント。オプションで用意されるハーマン・カードンと共同開発した10スピーカー・425Wのハイエンド・サウンド・システムには、「MP3」規格を開発したことなどで知られるフラウンホーファー研究所との協力から生まれた、従来のステレオ再生では埋もれがちだった細かなニュアンスを鮮明に再現する「ソナミック・パノラマ・アルゴリズム」を採用。スピーカーグリルの仕様や、内装材に応じたソフトウェアの微調整まで、初期段階からインテリア各部の音響特性を考慮した開発が行われたそうだ。
車両接近通報音もゼロから開発され、VWの新たなブランドサウンドを生み出した。EUの多くの市場では20km/h以下の低速走行時に義務付けられているものだが、ID.クロスでは25km/hまで作動し、スポーツモードでは50km/hまでの速度域で、個性的でスポーティなサウンドが生成されるという。日々のドライブがなかなか楽しくなりそうである。
「顧客第一」へ。原点回帰で未来を切り拓くVWの挑戦
フォルクスワーゲン・ブランドのトーマス・シェーファーCEOは、「ID.クロスは、技術的な専門知識、クリーンなデザイン、印象的かつ巧みなソリューション、そして真のオールラウンダーとしての資質を兼ね備え、それらすべてを優れたコストパフォーマンスで提供します。これらは、フォルクスワーゲンの新たな成功の物語を築くための理想的な条件と言えるでしょう」と語る。
また「ゴルフやパサート、ティグアンといったモデルが世界的な成功を収めたのは、技術的な卓越性、品質、直感的な操作性、そして空間の効率的な活用において優位性を提供したからです。これらすべては『顧客第一』の姿勢から生まれました。これこそが私たちの核心的な価値であり、『真のフォルクスワーゲン』の証なのです。私たちは今、こうした強みを再びすべての活動の中心に据え、フォルクスワーゲンとID.クロスのような将来のモデルのために、力強く成功に満ちた未来を築こうとしています」と、ブランドの原点回帰を強調する。
果たしてID.クロスがヨーロッパの顧客の心を、どこまで掴むことができるのか、大いに注目したい。できれば日本市場にも導入してほしいところだが、残念ながら現時点でその予定はない模様だ。
























































