コラム

55年前のビュイックが起源。GMが切り拓いたトラクションコントロール技術、最新EVへと至る進化の軌跡

初めて購入したコンピューター制御機器、だったかも?

現代の自動車において、トラクションコントロールは標準的な安全装備として広く普及している。この技術の先駆者のひとつがゼネラルモーターズ(GM)であり、その歴史は55年前に遡る。今回は、このヒストリーをひもといてみよう。

【画像8枚】EVで劇的進化を遂げたトラクションコントロール、その55年前の起源を写真で見る

世界初のコンピューター制御システム「Max Trac」

あらためて説明するまでもないが、トラクションコントロールとは、滑りやすい路面などでタイヤの空転(ホイールスピン)を検知し、車両の進行速度との差を補正、姿勢制御を支援する技術である。1971年型ビュイック・リビエラは特徴的なボートテール・デザインで知られるモデルだが、同時に、世界初となるコンピューター制御ホイールスピン防止システム「Max Trac(マックストラック)」を搭載したモデルでもあった。

後輪駆動車であった同モデルでは、前輪とトランスミッションに設置された速度センサーの差をコンピューターが検知する仕組みを採用していた。後輪の回転が前輪を上回った場合、コンピューターがエンジンに出力を絞るよう信号を送り、グリップを回復させるという、シンプルながら当時としては先駆的なシステムである。

1971年型ビュイックのオーナーズマニュアルに掲載された、システムの詳細を示すイラスト

Max Tracは1971年のオプション設定を経て、1972年にはビュイックのフルサイズカー全車に展開された。これは家庭用コンピューターが市場に登場する6年も前のことであり、当時のオーナーにとっては、これが「初めて購入したコンピューター制御機器」であった可能性もある。

現代の制御技術と「Stabilitrak」の誕生

その後、各車輪の速度を正確に把握するABS(アンチロック・ブレーキ・システム)や、高度な電子制御エンジンマネジメントの開発により、トラクションコントロールは大きな進化を遂げた。

かつてのMax Tracでは、深い雪からの脱出時などにはシステムが過剰に出力を絞ってしまうため、手動でオフにすることが推奨されていた。しかし、GMのスタビリティおよびシャシー・コントロール担当であるアーサー・ドレネン氏によれば、現代のシステムは適切にシステム内にトルクを維持できるため、ドライバーが手動でオフにする必要性はほとんどなくなっているという。

また、この技術の発展は、カーブでの横滑りを防ぐスタビリティコントロール(横滑り防止装置)の実用化にも繋がった。米国では2012年以降、全販売車両への搭載が義務付けられており、GM車においてはトラクションとスタビリティの制御が「Stabilitrak(スタビリトラック)」というひとつのシステムに統合されている。

Stabilitrakは、ステアリング角センサーと慣性計測装置(IMU)を組み合わせることで、ドライバーの意図する進行方向と実際の車両の向きとのズレを検知し、それが生じた場合は、ブレーキや駆動トルクを自動調整して姿勢を立て直す仕組みである。

これにより、初期の単なる出力低減システムから、より高度なトルク配分システムへと変貌を遂げた。現在ではドライブモードの選択機能も普及しており、雪道からサーキット、オフロードに至るまで、走行環境に応じた最適な制御が可能となっている。

EV時代における制御の高度化

トラクションおよびスタビリティコントロールは、電気自動車(EV)の台頭により新たな次元へと移行しつつある。内燃機関車が毎秒数百回の頻度で路面状況を評価するのに対し、EVのシステムは事実上、毎秒数千回レベルで路面状況を推測することが可能であるとされる。

電気モーターは、センサーを通じてローターの正確な位置を極めて精密に捉えている。そのため、タイヤの空転が実際に起きる前に、実際のグリップ力に反するモーターの不自然な回転上昇を検知し、ほぼ瞬時にトルクを絞ることが可能となっているのだ。

さらに、AWD(全輪駆動)のEVでは前後輪の精密なトルク制御が可能であり、GMCハマーEVのように前輪に1基、後輪に2基のモーターを搭載するモデルでは、左右の後輪を完全に独立して駆動させることすら可能である。

センサー技術とコンピューターの進化により、現在の車両制御技術は1970年代の技術者たちの想像を絶する領域に達している。しかしその根底には、世界初のシステムであるMax Tracが築き上げた、車両制御技術の確かな基礎が存在しているのだと言えるだろう。

【ル・ボラン編集部より】

1971年のビュイック・リビエラが挑んだ空転防止は、大排気量エンジンのじゃじゃ馬ぶりを電子の網で絡め取る荒削りな試みだった。あれから半世紀。現代のEVが毎秒数千回で推測するトルクマネジメントは、もはや介入の違和感すらドライバーに悟らせない。圧倒的な出力と緻密な制御の共存は、かつて人間が格闘した物理的限界を黒衣のように支えている。デジタルの極致たる最新EVの挙動が、皮肉にもどこまでも自然で有機的な操縦感覚に行き着く事実は、自動車技術の壮大な歴史の連なりを実感させる。

【画像8枚】EVで劇的進化を遂げたトラクションコントロール、その55年前の起源を写真で見る

※この記事は、一部でAI(人工知能)を資料の翻訳・整理、および作文の補助として活用し、当編集部が独自の視点と経験に基づき加筆・修正したものです。最終的な編集責任は当編集部にあります。
Photo: General Motors
LE VOLANT web編集部

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