フォルクスワーゲン

【海外試乗】可愛いだけじゃない!! 電気仕掛けで復活した往年のアイコン「ID.Buzz」は、かつてのワーゲンバスの精神を現代に受け継ぐ1台

今後のVWの在り方を示唆する一台、あらゆるシーンで安心感のある走り

豊かな居住性をイメージさせるだけでなく、視覚的な安定感もあるリアのスクエアなフォルム。実は空力特性も優秀で、Cd値は0.29をマークする。

かつてのタイプ2は小ぶりなサイズ感が愛らしかったが、ID.Buzzを目の前にした第一印象は、想像していたよりも随分と立派なクルマだということ。もちろん、現代の安全要件を満たすことを考えると、鼻先にスペースを与え、乗員の安全を確保する設計が求められるのだろう。ちなみに、欧州仕様の全長は4712mmとパサートよりも70mmほど短いが、ドアミラーを除いた全幅は1985mmとよりワイドな設計。ボディはトランスポーターのID.Buzz Cargoと共有していることもあり、ユーロ規格のパレット2枚を並べて収納できるように設計した影響もありそうだ。灯火類はすべてLED。ヘッドライトは枠を縁取るように点灯し、従来のVWモデルにはなかった先進的な表現として新鮮に映った。

そして、なによりイエローやオレンジ、グリーンといったポップなカラーを基調とした2トーンのボディカラーがとてもお洒落。周囲の景色をパッと明るくしてくるムードメーカーになりそうだ。一方、試乗会場にはブラックのモノトーン仕立てや、ネイビー×ホワイト仕様のモデルも用意されていて、これはこれでクールな装いが素敵。目移りしっぱなしの私の顔は、きっとほころんでいたと思う。

インテリアは明るいカラーリングで、「ID.」のロゴが入ったファブリックシートがセンス抜群。ボディカラーとコーディネートされた色が組み合わされており、サラリと張りのあるトリムは座ると自然と姿勢が落ち着くあたりがVWらしい。インスツルメントパネにはナチュラルな風合いのウッド調パネルを採用して、居心地のいい空間を演出。運転席回りは小ぶりのデジタルメーターが先進的で、「Disvover Pro」のカーナビを付けると12インチのモニターが標準装備となり、スマホアプリとの連携もできる。

今回の国際試乗会はデンマークのコペンハーゲンで開催されたが、自然エネルギーを有効に活用している国とあって、BEVが路上を頻繁に行き交っている。会場から一般道に出て徐々に車速を高めていくと、モーター駆動はエンジンと違い走り出しから静かで力強く、そして滑らか。後輪を駆動して車体を押し出していくせいか、クルマの動きは実にスムーズだ。重量が嵩むバッテリーを車体の低い位置に搭載していることもあって、ルーフが高いわりにフロアがグラリと揺すられるようなことがない。ボディサイズからすると狭い道では持て余しそうなものだが、素直なハンドリングと車体の動きを手の内に収められている安心感もあり、常にリラックスしていられる。

海を渡って景色がいい港町に足を延ばそうと高速道路へ――。3名乗車で本線に合流する際に右足を深く踏み込んでみると、じわじわと力強さが漲ってくる。アップライトな運転席は全方位に見晴らしがよく、まさにバスを運転して出かける気分でワクワクしてくる。なにより、周囲の人がこのクルマを見つめる眼差しが温かい。ID.Buzzのフレンドリーなキャラクターは周囲の空気まで穏やかにさせる癒し効果を持ち合わせているようだ。海辺の街に佇むその姿は、かつてタイプ2がビーチでサーフボードをルーフに積んでいた光景を思い起こさせる。ロハスなライフスタイルに、本当の意味でクルマが調和する日がやってくるのではないかと思えた。

【Specification】フォルクスワーゲンID.Buzzプロ
■全長×全幅×全高=4712×1985×1927-1951mm
■ホイールベース=2989mm
■トレッド(F:R)=1673mm:1670mm
■車両重量=2471kg
■最高出力=204ps(150kW)
■最大トルク=310Nm(31.6kg-m)
■バッテリー容量=77kWh
■最大航続距離(WLTC)=402-423km
■サスペンション(F:R)=ストラット/マルチリンク
■ブレーキ(F:R)=Vディスク:ディスク
■タイヤサイズ(F:R)=235/50R20:255/45R20
※スペックはすべて欧州仕様

フォルクスワーゲン公式サイト

リポート=藤島知子 フォト=フォルクスワーゲン ルボラン2022年11月号より転載

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