SUV全盛の昨今だが、その中でも注目度が高いのがハイパフォーマンス系のモデルだ。ここでは、アッパーミドルサイズのクーペSUV2台を俎上に挙げ、そのキャラクターの違いを検証してみた。
滑らかで質感の高いカイエンSクーペの走り
ハイパーSUVクーペの真っ向勝負。それはまさにポルシェとBMWのキャラクターをそのままぶつけ合うような、心地良くも威厳に満ちた闘いとなった。
ちなみに今回ポルシェのチョイスはカイエンクーペの「S」モデルだ。グローバルとしては「ターボGT」がトップに君臨するが、これは日本(と欧州)の排ガス基準に適応しないため導入されない。その流れから日本仕様は4L・V8ツインターボ(599ps)にモーター(176ps)を組み合わせた「ターボ E-ハイブリッドクーペGTパッケージ」がハイエンドモデルとなる。今回「S」が抜擢された理由はずばりいち早く導入されたからだが、見方によっては2.9L・V6ツインターボ(440ps)から4L・V8ツインターボ(474ps)へと時代に逆行する進化を果たしたピュア・ガソリンモデルの実力を推し量ることができる。そして結論から述べてしまえば、その卓越したシャシーとパワーのバランスに、大いに驚かされることとなった。
ビッグマイナーチェンジを施されたカイエンSクーペ、走らせてまず感激するのはその走りがどこまでも滑らかにその質感を高めていることだ。足周りには新開発の2チャンバー式エアサスペンションがオプション装着されていたが、それだけではない。
空気バネのふわりとした反発を伸縮別調整としたダンパーがピタリと抑え、路面の様子を子細に手の平へ伝えながら、乗り心地をも高めているのだ。
こうしたシャシーを擁して走らせるカイエンは、まさに王者の貫禄。V8ツインターボの咆哮は低回転域でドスが利いた吸排気音を心地良く吐き出すが、そこに不快な振動は全くない。そして4Lの排気量を巧みに使いながら街中をトルクで走り、回すほどに音色を整えて行く。600Nmのトルクに耐えてトーイング要求を満たすトランスミッションは8速ティプトロニックSだが、その制御はもはやトルコンATの域を超えている。パドルシフトの反応は恐ろしく俊敏で、タコメーターの針を目的の回転でピタリと止める。
正直そのダイナミック性能を、オープンロードで確かめる術はない。しかしフロント285/40ZR22、リア315/35ZR22サイズのタイヤに守られながら、そのグリップの中で踊っているだけで、ポルシェを操る気分を高められる。ダンパーの伸縮がどれほど細かく制御されていようがそれを悟ることはできないが、ただただコントロール性の高いブレーキを使ってボディのピッチとロールを作り出し、クリップと見立てたポイントから素直にアクセルを踏み込んで行くだけで、気持ちが静かに高揚する。
いささかその正確さがロボットじみていることは否めないが、これなら911を愛するユーザーにも愛されるSUVクーペだと言えるだろう。EV化を訝しむ頑固なエンスージアストにとってカイエンSクーペは、最良のトランスポーターであり、紛う方なきポルシェである。
乗り手をかき立ててくれるX6Mのキャラクター
圧倒的な滑らかさをカイエンが発揮すればするほど、X6Mコンペティションの走りは野蛮で粗野に映った。だがそれこそが、BMWのトップグレードであるMモデルの魅力のひとつだ。これでいいのだ! と開き直るBMWの意気込みを、距離を重ねるごとに体が理解した。
X6におけるMラインのグレード体系はM“ハイ”パフォーマンスモデルであるコンペティションの直下がノーマルの「M」ではなく、Mパフォーマンスモデルの「XM60i」となった。プレミアムな乗り味が欲しいなら、これを選べばよい。そんな開き直りだ。
とはいえX6Mコンペティションの乗り心地の硬さは、ミシュランパイロットスポーツ4Sの剛性がその主たる要素だ。走らせればプロフェッショナルと銘打たれたアダプティブMサスペンションが、しなやかな減衰制御でバネ下の伸縮を見せているのが感じ取れる。つまりあのミシュランが、X6Mコンペティションの車重やパワー、そして求める走りを担保するには、この高いサイドウォールや踏面剛性が必要だと判断した。それは必然の硬さなのだ。
エンジンはBMWのプレミアムラインを支える4.4LのV型8気筒ツインターボ「S68」ユニットに、今回48Vの電動システム(12ps/200Nm)が加わった、Mモデル初のマイルドハイブリッド仕様となった。
ただそのドライバビリティにどれだけモーターが貢献しているのかは、正直感じ取れない。街中ではエンジンを完全停止させてモーターだけで走るほどの余力はないし、そもそも1800rpmという低い回転域から750Nmものトルクを出せるユニットだから、モーターの必要性すら感じない。要するに「まだMは、Mのまま」という印象である。
カイエンとの一番の違いは、クルマが乗り手をかき立てること。400ccのアドバンテージが効いているのか、エンジンは極低速域からさらに低いうなり声を発して、回すと中間域から羽根が生えたかのような軽やかさを発揮して高回転まで突き抜ける。8速ATの制御は精緻さではポルシェに譲るが、明確なロックアップフィールを示しながら変速時には“ヴォッ!”と唸る。エンジンの響き方と共にややサウンドメイクの印象は強いが、血湧き肉躍るのは事実だ。
こうした盛り上げ上手なパワーユニットに押し出されるようにアクセルを踏み込んで行けば、それまで硬いと感じていた路面からの入力が、段々とフラットになって行く。影ながらにFRベースのMxDriveが中心となって、電子制御のスタビやLSDがその身のこなしを支えているのは確かだが、それが表現するのはBMWが長年追い求めてきた、FRの走りそのものだった。
きっと本来は超が付くほどの高速領域でしなやかさを得るために、こうしたシャシー剛性がある。しかし日本でそれを味わうステージは、クローズドエリアを除いてリーガルにはない。だから日常領域ではこのエッジの立ったフィールこそがMのテイストだ。カイエンよりもエグさのあるルックスやエンタメ度の高いインフォテインメントと併せて、ステアリングのMショートカットを躊躇なくバチッと押し込む走りがX6Mコンペティションには合っている。X6 Mコンペティションに必要なのはお金だけじゃない。そのシャシーを迎え撃つ気持ちとフィジカルの若さであり、エナジーなのだ。
【JUDGMENT】BMW X6M コンペティション
トータルパフォーマンスで考えればカイエンSだが、インフォテインメントやパワーユニット、全体的な演出はBMWの方が断然若々しい。正直タイヤをミシュランパイロットスポーツ5などに換えてしまえばよいのではと思うから、X6Mを選びます!
【SPECIFICATION】PORSCHE CAYENNE S COUPE
■車両本体価格(税込)=16,440,000円
■全長×全幅×全高=4930×1983×1678mm
■ホイールベース=2895mm
■車両重量=2190kg
■エンジン種類=V8DOHC32V+ツインターボ
■排気量=3996cc
■最高出力=474ps(349kW)6000rpm
■最大トルク=600Nm(61.2kg-m)/2000-5000rpm
■トランスミッション=8速AT
■サスペンション形式=前:マルチリンク、後:マルチリンク
■ブレーキ=前後:Vディスク
■タイヤサイズ=前:285/40ZR22、後:315/35ZR22
問い合わせ先=ポルシェジャパン TEL0120-846-911
【SPECIFICATION】BMW X6M COMPETITION
■車両本体価格(税込)=20,120,000円
■全長×全幅×全高=4955×2020×1695mm
■ホイールベース=2670mm
■ 車両重量=2400kg
■エンジン種類=V8DOHC32V+ツインターボ
■排気量=4394cc
■最高出力=625ps(460kW)/6000rpm
■最大トルク=750Nm(76.5kg-m)/1450-4500rpm
■トランスミッション=8速AT
■サスペンション形式=前:Wウイッシュボーン、後:マルチリンク
■ブレーキ=前後:V ディスク
■タイヤサイズ=前:295/35R21、後:315/30R22
問い合わせ先=BMWジャパン TEL0120-269-437