まるでタイムスリップしたかのよう! ミッドセンチュリーモダンにこだわった自宅&ガレージには、’50年代の世界感が広がる。
ロサンゼルス市北部の街、Van Nuys(バンナイズ)の中心に広がる住宅街には、南カリフォルニアでは一般的な平屋造りが建ち並んでいる。人口の増加と地価の高騰により、2階建てという発想が主流になったのは、ここアメリカでは1990年代以降から。’40年代に開拓が進んだこのエリアは、いまも広大な庭を持つ古き良き佇まいの平屋住宅で満たされていた。
グラフィック・アーティストとして活動する、ベティー・ハンター氏の自宅兼アトリエもその一画にある。1951年に建てられた母屋は3つのベッドルーム、1つのバスルームを持つ平均的なサイズ。しかし古い物件の最大の魅力ともいえる敷地面積は広大で、母屋をぐるりと囲む形で1万112平方フィート(284坪)の庭が広がっていた。
バックヤードに建てられたデタッチド・ガレージは、詰めれば6台は入るであろうスペースを有していた。ちなみにロサンゼルス近辺では近年、省スペースを活用するアタッチド・ガレージ(母屋一体式ガレージ)が増え、2台分が標準となっている。一方、デタッチド・ガレージは母屋と匹敵する規模も少なくなく、複数台を所有するクルマ好きは古い物件を好む傾向にあるようだ。
【写真15枚】愛車を”育てる”ための、プロショップ並みの設備。
イマドキのプラスティック製品は目が付くところに置かないルール。
ベティ・ハンター氏が所有するクルマは、1969年式「GMC・ピックアップトラック」、1960年式「フォルクスワーゲン・タイプ2」、1930年式「フォード・モデルA」の3台だ。しかしGMCとVWは母屋の隣に延びるドライブウェイが定位置で、屋根付きのガレージを占有するのは、亡き父から受け継いだモデルAのみだという。
「ボクのホットロッド好きは父の影響。最初に手にしたクルマは’69年式の『シボレー・エルカミーノ』だった。アルバイトで貯めたお金をすべてつぎ込んだけど、高校生が買えるクルマなんてジャンクが関の山。まともに走りすらしなかったボロボロの個体を、父と一緒に直したのがボクのホットロッド人生の始まりだ。
父はいつも言っていたよ。『クルマというのは、買うのではなくて作り、育てるものだ』と。このモデルAも父からもらったときはド・ノーマルだったけど、自分の手でここまで仕上げたんだ」
4.5インチほどチョップしたルーフとフェンダーレスのハイボーイスタイルが、旧き良きレーサーの雰囲気。シャコタンにしていないのもクールだ。4気筒エンジンには強化キャブをセット、ホイールはフォード製16インチに交換。
エンジンのオーバーホールからボディワークまで、すべてを自らの手で行うベティ・ハンター氏。ガレージにはひと通りの工具と共にMIG&TIG溶接機、旋盤、フライス盤、ベンダーなど、プロショップに匹敵する設備が整っている。
また、壁のあちらこちらには自らが描いたサインボード(一見古そうに見えるガレージ内の看板は、当時モノではなく、彼が製作)、’50年代の玩具やカーパーツがところ狭しとディスプレイされていて、まるでタイムスリップしたようだ。実際に使用するレンチやラチェットも最新は使わず、スワップミートなどで見つけた古いデザインを揃えている。手にしたときにしっくりと馴染むのが魅力とのこと。
「ボクはクラシックなデザインに囲まれて暮らすのが好きなんだ。特に50’sカーカルチャー、グラフィックデザイン、洋服、音楽や映画に至るまで、すべてが自分のライフスタイルに影響を与えている。というのも父親が大のビンテージファンでね。
幼い頃から父と過ごすことが好きだったボクは、そっくり彼の趣味趣向まで受け継いでしまったというわけ。気がつけばそれが職業となり、ボクはいまプライベートでも仕事でも、ヴィンテージが身の回りにあふれる幸せに包まれているんだ」
ガレージだけでなく母屋にもまた、こだわりが。家具、様式、雰囲気はすべてミッドセンチュリーモダン(’40-’60年代にまたがる1900年代中期のデザイン)で統一され、映画の世界に溶け込んだようだ。「家具もスワップミートで見つけてきては、手直しして再利用することが多い。ボクはイマドキのビニール製品やプラスティックをアグリー(ugly=醜い)と感じてる。
だからガレージにも家の中にも、出来るだけ置かないよう心がけているんだ。コンビニの袋もコーヒーメーカーも目薬もボールペンすらも。そういうモノを見えるところから排除するだけで、空間に統一感が生まれるからね」
◆PLANNING DATA
所在地:ロサンゼルス
施 主:ベティ・ハンター氏
敷地面積:940.43平米
構 造:木造平屋
延床面積:126.71平米
ガレージ面積:82.64平米
愛 車:1930年式 フォード・モデルA
1969年式 GMC・ピックアップトラック
1960年式 フォルクスワーゲン・タイプ2
◆OWNER’S CHECK
・一番気に入っているところは?
’50年代の空気と、オイルとスチールのニオイに包まれていること。
・ちょっと失敗したところは?
特になし。
・次の夢はなんですか?
次のプロジェクトを3台抱えているので、早くカスタムをスタート
したいけど、仕事が忙しくて。
・読者へのアドバイスを!
家の中の、目に見えるところから日常のビニール製品を隠すだけで、
かなりクールな演出ができますよ。
ガレージの前にはこれから再生、カスタムを待つ1921年式「フォード・モデルT」が控えている。モデルBのフレームを手に入れ、エンジンはV8フラットヘッドを搭載予定。