Roundup 14: You don’t know me.
本稿の読者はみな、映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』をすでに何度か観ているものと仮定する。
脚本のボブ・ゲイルが「1985年から遡ること30年」、つまり1955年を主要な舞台としたことで、この特異な青春映画には、結果としてふたつの恋愛の様態が同居することとなった。
ひとつは男性が女性の自宅へと招き入れられ、女性の家族と食事をともにするなどして評価される少々古風な様態、もうひとつは男女がともに外へと出かけることでやはり評価される比較的新しい様態——すなわちコーリング(訪問)とデーティング(デート)、そして両者につきまとうレーティング(評価)である。
【画像88枚】キットからも垣間見えるピックアップの変化を写真で確認
社会の変容がカメオの誕生を促した
1955年という時代は、本連載第63回に述べたとおり、二重の戦後である。第二次世界大戦と朝鮮戦争、ふたつの戦争はその勝敗にかかわらず、当事国の家庭や地域社会に、成人男性の長い不在をもたらした。戦争直後の社会では若い男女に向けられる成婚への圧力が高まるものだが、同じ頃、アメリカでは1953年に乗用車の登録台数が世帯数にほぼ並び、「車は1世帯に1台ある」という期待が現実味を帯びはじめていた。
成婚への圧力と、自家用車の普及がもたらす期待。このふたつの条件は、女性をエスコートする男性により厳しくのしかかることになった。お呼ばれであれデートであれ、男性は車に乗ってあらわれることを期待される——この社会的プレッシャーをもろに受け、戦後大きく変化せざるを得なかった車があった。そしてそれを喫緊の課題として、いち早く取り組んでみせたメーカーがあった。シボレーとそのピックアップトラックである。

かつて先進のデザイン(Advance Design)と名乗って展開されたシボレー・ピックアップだが、これはその1954年の広告である。じつに印象的な描写——ピックアップとコルベットがなんらかのチェックポイントを並んで通過しようとしており、周囲の視線が(ピックアップのドライバーも含め)コルベットに集中している。しかしコルベットは先行する中型トラックの荷台に半分隠れ、視線はむしろピックアップに集まっているようにも見える。これは、1954年式シボレー・トラックの広告である。
GMのフィッシャーボディー工場第8棟、冗談めかして「プラネット8」とも呼ばれたGMのピックアップ/商用車部門は、ハーリー・アールを中心としたGMの華やかなスタイリング文化とは遠く離れた周縁の地だった。
ここにマサチューセッツ工科大学卒、フィッシャーボディー・クラフツマンギルド優勝の肩書きを引っ提げた若きデザイナー、チャック・ジョーダンが、人気の乗用車部門に目もくれずみずから望んでやってきたのは1950年頃のことだった。1947年来の旧弊なデザインを7年余りも引きずり、機械として堅実であること以外はとくに何もなかったシボレー・ピックアップに、彼はまったく新しい装いを与えた。
ベッド側壁に、これまであって当然だったステップ(足場)がない。リアフェンダーはベッドの内側に引き込まれ、側壁はすっきりと平滑になっている。
キャブとベッドのなめらかな一体感が目指されたことは明白だが、荷重によって車体のシートメタルに歪みが生じることを懸念したエンジニア、ジム・プレモの意見を容れ、側壁パネルはオハイオ州アシュタブラのモールデッド・ファイバーグラス社による繊維強化樹脂製パネルが隠しボルトを用いて取り付けられた。キャブと側壁の境には念のため隙間が設けられたが、そのわずかな不連続をクロームの縁取りが飾っていた。
シボレーによって形式番号3124とカメオ・キャリアーの名を与えられたこの新しいピックアップは、あくまでスペシャルモデルの位置付けがなされ、大胆にもボディーカラーはホワイト一色のみ、内装はレッド一色のみ——つまり1953年にコルベットがデビューしたときと同じ装いが施された。
誕生以来ひたすら過酷な仕事に供されるばかりだったピックアップが、泥靴に踏まれることをきっぱりと拒否した瞬間の姿だった。

カメオ・キャリアーではない1955年型シボレー3100ピックアップ(形式番号3104)。今回タイトル写真として掲げたのがカメオであるが、ベッドサイドのデザインの違いは、見比べるまでもないだろう。ペイント仕上げのグリルやバンパー、ホイールキャップが、労働の匂いをより一層漂わせる。
リスペクタブルなピックアップトラック
カメオ・キャリアーが示したこの拒否を、単なるお洒落や高級化と見るべきではない。
ピックアップは働く車としてはすでに充分完成していた。荷を積み、泥道を走り、仕事に耐える能力になんら不足があったわけではないが、戦後のアメリカ社会において、車が持ち主の社会的な顔として「値踏み」されるとき、その有能さゆえの汚れは、ときに車とその持ち主がまっとうに扱われる機会を奪いかねなかった。女性を迎えに行くとき、教会に乗りつけるとき、郊外の住宅地に停められるとき、その車は持ち主をどのような人物として見せるのか。
本稿では、このじつに厳しい条件をリスペクタビリティーと呼ぶ。労働が本質的に尊いかどうかの話ではない。人前に出たとき、まず人物と所有物が「まっとうな社会構成員」として読まれるための可視的な条件がリスペクタビリティーである。
たとえば公民権運動やリトルロック高校の争議のさなか、アフリカ系アメリカ人の若い男性がネクタイを締め、女性がきちんとアイロンをかけたブラウスやスカートを身につけ、つとめて品位ある抗議を心がけたことは、このリスペクタビリティーをめぐる象徴的な事例のひとつである。
カメオ・キャリアーがまとった白く平滑なアウトフィットは、ピックアップがはじめて身につけた礼装であり、労働の徴(しるし)を人前に出すため、車体の設計から見直されたリスペクタビリティーそのものだった。
その動きはフォードへも波及し…
ピックアップは仕事に役立つためにただ質実剛健であればよいという従来の見方を見直す動きは、ほどなくフォードにもあらわれた。1957年、フォードは自社の1/2トンクラス・ピックアップに平滑なベッド側壁を導入し、そのスタイリングに「スタイルサイド」、足場を備えた従来どおりのスタイリングには「フレアサイド」とそれぞれ名を与え、それらがいずれもオールスチール製であること、顧客がどちらを選択しても追加料金は一切かからないことを宣伝しはじめた。
先行するシボレーがカメオ・キャリアーをいつまでもスペシャルモデル=高価なモデルに据え置いたことを逆手に取り、市場での巻き返しを図ろうとする強力な一手だった。まんまと出し抜かれたシボレーは、やや立ち遅れて翌1958年にフリートサイド/ステップサイドの両スタイリングを自社ピックアップに採用することになった。
先駆的だったことがかえってフォードを利することになってしまったカメオ・キャリアーは、1958年2月をもってそれまでのコンポジットベッドを手放し、より大量生産に向いたフリートサイド用オールスチールベッドを当てがわれることでその役目を終えた。
乗用車をトラック化する動きへ
ピックアップという道具がひそかに抱え込んでいた問題に、シボレーに先行されるかたちで突き当たったフォードは、ピックアップへの差額なきスタイルサイド導入と同時に、「パッセンジャーカーにベッドを設ける」という思いもかけない逆転の発想をランチェロという名で製品化し、シボレーを動揺させた。
部材の多くを共用するパッセンジャーカーは、そもそも社会的身体そのものである。リスペクタビリティーを獲得したければ、労働を飾り立てるより、パッセンジャーカーに労働を付け足した方が早い。フォードから2年遅れてエルカミーノを展開したシボレーは、フォードともども、労働とリスペクタビリティーの天秤を美しく釣り合わせるという難題にいよいよ本格的に取り組みはじめた。
われわれはフォード・ランチェロと同様の解法をじつは1950年代はじめにはアイデアとして持っていたとチャック・ジョーダンは2006年のインタビューにて回想しているが、それでも歴史的事実としては立ち遅れたシボレーは、エルカミーノのデビューに際し「Good looks never carried so much weight!」——「美貌がこれほど重要視されたことはなかった」とも「美観が積載量を支えている」とも読める強い一文さえ用いて、この取り組みを正当化した。

1898年にサザンパシフィック鉄道がアメリカ西部(ロッキー山脈以西)への旅行・移住を促す目的で創刊した雑誌「サンセット」に掲載された広告である。全米共通のライフスタイル誌ではない。「サンセット」は気候・植生から生活習慣に到るまで異なる環境に移住してきた人々に「いかに西部のアメリカ人らしく暮らすか」を教える雑誌だった。シボレーは’60エルカミーノを「品評会に出せる荷馬です」(Here’s a pack horse you can put in the show)と比喩的に紹介して、西部のマーケットを説得しようとした。ひと目見てわかるようでわからない車には、こうした説得が欠かせなかった。
ピックアップのプラモデルに見られる取り扱いの困難さ
プラモデルは社会教育のためのツールではないが、それでも歳若い心にこの欲望を与えてしまってよいかどうかは、あらかじめ充分に吟味される。デトロイト謹製のアニュアルキット制度がスタートした1958年、ブランドを超えて同スケールで揃い踏みしたキットはすべてパッセンジャーカーだった。
amtとSMPによってここに3種のピックアップが加えられた1960年は、同時に’32フォード・ロードスター/5ウィンドウクーペのキットがホットロッドへの自由な改造を前提として発売された年であり、さらには一部アニュアルキットにはじめてエンジンパーツが付属しはじめた年でもあった。
いうなればキット化されたフォード/シボレーの1/2トンクラス・ピックアップとシボレー・エルカミーノは、ホットロッドマシンのサポーターという役割を期待して用意された、きわめてプレイセット色の強い内容だった。
フォードF-100とシボレー・アパッチの両車にはとくにことわることもなくスタイルサイド/フリートサイドのベッドがあらかじめ設定され、さらには牽引すべきトレーラー、ピックアップにインストールするわけではない見るからに強力なV8エンジンパーツや各種アクセサリーが数多く付属した。
当時小売店に配布されたキットの広告は、はっきりとこのピックアップキットが当時のホットロッドシーンをデスクトップで再演するための「大道具・小道具の詰め合わせ」であることを謳っていた。
問題は広告でのシボレー・エルカミーノの扱いである。フォードF-100にはホットロッドマシンの牽引、シボレー・アパッチにはサービストラックの役割が明白に与えられているが、同じ広告でエルカミーノは、別件で指名手配される要注意車両のような扱いを受けている。通常のピックアップをただちに道具・脇役にまわす判断基準を持ったホビー広告が、エルカミーノについては「得体が知れない」「何者だ?」と正直に白状しているようにも読める。
デトロイト・アイアン(自動車メーカー)であれデトロイト・プラスチックス(模型メーカー)であれ、当時はまだピックアップという対象を「わかりやすい欲望のかたち」とは見ていなかった。ユーザーとして想定される若さが自己像を投影するには、いちばん目立つベッドがあまりにも空白である。
ベッドはコクピットではなく、エンジンを格納するところでもなかった。ここを何かで埋めないことには、ピックアップ全体が意味を帯びた主体にならない。実車はともかく、模型/玩具の商品設計としてはそうである——ビルダーはキャブに乗り込むことで、空のベッドに背を向けることがどうしてもできないのである。

1960年、小売店に配布されたamtの告知である。新製品であるピックアップの紹介に特化しているが、「これぞホビイストが待望するもの」という強い表現は必ずしもビルダーがピックアップそのものを欲望することを前提としていない。「ピックアップが牽引するトレーラーはディスプレイベースにもなります」の一句に容赦がない。ずばり脇役にまわされる2台のピックアップに対し、エルカミーノの扱いには強い保留が見て取れる。
この解決には時間が必要だった。エルカミーノの展開中止とランチェロのコンパクト化、スーパーカー/マッスルカー時代の到来とエルカミーノの復活、そしてオーセンティック・ピックアップのパワー・装備・スタイリングの充実。これらが実車の側で成し遂げられてはじめて、ピックアップは「そのままキット化できる」対象になる。
1960年代から1970年代にかけて、アメリカンカープラモ全体が黄金期であったように語る言葉からは、ピックアップがさも当然のように抜け落ちる。スーパーカー/マッスルカーの兄弟分として扱われ、魅力的な派生商品としての分け前にあずかったのは、ごく短いピリオドのエルカミーノくらいで、ランチェロなどオーセンティック・ピックアップよりもきつい冷遇に置かれてほとんどキットが見当たらない。
2026年現在、メビウスは持ち前の執拗な「注視」によって、1967年から1972年までのシボレー・ピックアップのキット開発をすすめている。リスペクタビリティーの確認だけをもって対象を「見たことにする」姿勢から離れ、この時代のボウタイ・トラックがどんな身体を持っていたかを明らかにしようとしている。
メビウスはピックアップを「リスペクタブルだから」キット化するわけではない。スーパーカー/マッスルカーに近いからキット化するわけでもない。より精密なキットを用意するからジオラマを作れと命じるわけでもない。
’67〜’72シボレー・ピックアップの空のベッドの内側にどのような仕上げが施されていたかも知らない、知ろうとしないわれわれに課題を突きつけ、「あなたがベッドに上がるべきだ」と告げるつもりなのだ。
※今回、amt 1/25「1960エルカミーノ」、「1960シボレー・トラック」、「1963シボレー・フリートサイド」、AMTアーテル1/25「1955シボレー・カメオ・ピックアップ」、「1955シェビー・ステップサイド・ストリートマシーン」、レベル1/25「’64シェビー・ピックアップ フリートサイド」、「’66シェビー・エルカミーノ」の画像は、アメリカ車模型専門店FLEETWOOD(Tel.0774-32-1953)のご協力をいただき撮影しました。
ありがとうございました。























































































