フォルクスワーゲンらしい良心的なクルマ造り
人気のコンパクトSUV、フォルクスワーゲンTクロスが2024年10月にマイナーチェンジを受けた。
【画像9枚】ルックスも走りも真っ当な進化を遂げたTクロスの詳細を見る
公式発表によれば、安全装備の充実とインテリアの質感向上が中心とのこと。事実、トラベルアシストやレーンアシストなどの運転支援システムを全グレードに標準装備したほか、LEDマトリックスヘッドライトを大半のグレードに設定。いっぽうのインテリア関連では、インフォテイメントシステムが最新のディスカバー・プロに進化したほか、ダッシュボード周りにソフト素材を用いるなどして質感を高めた。外装も前後デザインが見直され、よりシャープで現代的な表情を手に入れている。
もっとも、試乗してより強く印象に残ったのは、走りの質感が格段に向上したことにある。
まずは路面からのショックを効率的に吸収し、滑らかな乗り心地をもたらしてくれるその足回りに感銘を受けた。タイヤが発するノイズのレベルがいちだんと低くなったことも質感の向上に結びついている。これだけでもワンクラス上のモデルに乗っているような気分を味わえるはずだ。
足回りの進化はハンドリングにも見逃せない影響を与えていた。
これまでフォルクスワーゲンのサスペンションといえば、どっしりとして快適な乗り心地をもたらしてくれるいっぽうで、ハンドリングはよくいえばスタビリティ重視、悪く言えばややレスポンスが鈍く感じられる傾向があった。これはこれでリラックスしたドライビングには好適なのだけれど、最新モデルでは快適さを損なうことなく軽快なハンドリングを実現。ステアリングレスポンスのわずかな遅れを削り取るとともに、少ない操舵量でより俊敏にノーズの向きが変わるようになった。
同じ方向性は新型Tクロスからも感じられる。おかげでハンドリングは爽快そのもの。それでいて、前述したとおり快適性はむしろ向上しているのだから大したものだ。
エンジンもより滑らかに回るようになった。フォルクスワーゲンの3気筒エンジンは、もともと3気筒特有の「ルルルルルッ」というノイズが小さかったけれど、新型Tクロスは高負荷で高回転域まで回す、というかなりいじわるな使い方をしない限り、4気筒エンジンに迫るほどスムーズな回転フィールが楽しめる。しかも、低回転域で力強いトルクを生み出す美点はそのままに、パワーの立ち上がり方がよりリニアになった。その結果、これまで以上に滑らかな加速感と優れたドライバビリティを手に入れたように思う。
つまり、内外装の質感を高め、先進安全装備が充実しただけでなく、走りの面でも大幅な改善が実感できたのである。しかも、これだけ質の高いドイツ車が300万円台で手に入るところも注目したいポイントのひとつ。こうした良心的なクルマ作りこそフォルクスワーゲンの本質というべきものだ。
電動化に大きく舵を切り始めた当初はその先行きに軽い不安を覚えたものだが、最新のティグアン、パサート、ゴルフ8.5などに乗ると、そうした混乱から完全に立ち直り、良質でありながらもより現代的な走りの味わいの実現に邁進する姿が想像できるはず。同じことは、このTクロスにもあてはまる。フォルクスワーゲンの今後が、いよいよ楽しみになってきた。
Specification
【フォルクスワーゲンTクロス スタイル】
■車両本体価格(税込)=¥3,599,000
■全長/全幅/全高=4140/1760/1580mm
■ホイールベース=2550mm
■トレッド(前/後)=1525/1510mm
■車両重量=1260kg
■エンジン形式/種類=DUS/直3DHOHC12V+ターボ
■内径/行径=74.5/76.4mm
■総排気量=999cc
■最高出力=116ps(85kW)/5500rpm
■最大トルク=200Nm(20.4kg-m)/2000-3500rpm
■燃料タンク容量=40L(プレミアム)
■燃費(WLTC)=17km/L
■トランスミッション形式=7速DCT
■サスペンション形式=前:ストラット/コイル 後:トレーリングアーム/コイル
■ブレーキ 前/後=Vディスク/ディスク
■タイヤ(ホイール) 前/後=205/55R17/205/55R17