コラム

初任給の50年分超え!? ローマ教皇や各国王室も愛した至高のメルセデス・ベンツ「600/W100」が伝説となった理由【メルセデス名車列伝】《LE VOLANT LAB》

1966年のエリザベス2世女王のドイツ訪問時に、当時のキージンガー西ドイツ首相とともに600プルマン・ランドーレットでパレードした。
メルセデス・ベンツ史上、最高級リムジンの原点といえるのが、1930年に登場した770/Kグロッサー・メルセデス。文字通り世界中の元首や大富豪のために造られた超豪華大型リムジン。
1935年型の昭和天皇御料車770/グロッサー・メルセデス。ボディカラーはロイヤル・マルーンの溜色(宮内庁色)でトップとフェンダーが黒色に塗装。
1935年型の昭和天皇御料車770/グロッサー・メルセデスは、旧ドイツ帝国最後の皇帝ヴィルヘルム2世の770K/グロッサー・メルセデス(パレード用カブリオレF)と並んでメルセデス・ベンツ博物館に展示されている。
メルセデス・ベンツは1963年フランクフルト・モーターショー(IAA)で大型高級リムジン600/W100を世界初公開した。写真は4ドアのプルマン・リムジン。
1963年の大型高級リムジン600/W100。写真は標準仕様リムジン。
エンジンは6332ccのM100型V型8気筒SOHC。最高出力250psを発揮し、600/W100の巨体を205km/hまで引っ張った。このエンジンが1968年のスーパーセダン300SEL 6.3/W109に移植されたことは周知のとおり。
600/W100のメカニズム透視図。車高調整を可能としたエアサスペンションとエアパワーブレーキを採用。加えてパワーウィンドウやパワーシートには、これまで自動車に使用されたことのなかった航空機のハイドロリック・システム(油圧システム)を採り入れるなど、自動車においては極めてハイレベルのエンジニアリングが盛り込まれた。
梁瀬会長の600標準リムジン。筆者自身、現役時代に梁瀬会長の600リムジンを見せていただいた。写真は当時のヤナセセンター東京展示車。
油圧システムで作動するパワーウィンドウスイッチ。筆者は整備工場に入庫した際、実車の油圧システムを体験する機会にも恵まれた。パワーウィンドウを操作すると、モーター音ひとつ聞こえないまま、ガラスがスーッと驚くほど素早く上下した。
600/W100標準リムジン。
600/W100標準リムジン。
600/W100標準リムジン。
600/W100標準リムジン。
600/W100プルマン・リムジン。ルーフを高くした特別保護仕様車で、旧ダイムラー・ベンツ社の公用車として長年使用され、ドイツ連邦政府の公式訪問に供された。写真はメルセデス・ベンツ博物館の「コレクション4 名車ギャラリー」の展示車両。
600/W100プルマン・リムジン。街中でも大型である。
600/W100標準リムジンとプルマン・リムジン。手前はプルマン・リムジンでホイールベースを3900mmまで延長。後方は標準リムジン。
600/W100プルマン・ランドーレット。写真は4ドアのプルマン・ランドーレット仕様。
600/W100プルマン・ランドーレット。写真はランドーレットをオープンした時のアップ。
600/W100プルマン・ランドーレット。写真はランドーレットをクローズした時のカット。
600/W100プルマン・ランドーレット。写真はリア後方からのカット。
600/W100プルマン・リムジンの運転席は革張り仕様。
600/W100プルマン・リムジンの後部座席は高級ベロア仕様。
筆者の手元にある600のカタログ。表紙には美麗な写真があしらわれ、ページをめくるとボディの種類や多彩な装備を謳った特別な仕立てとなっている。
ボディの種類も4ドア/5ドア/6ドアから好みに合わせて発注可能。
室内も好みのレイアウトによって発注可能。補助席、キャビネット付きパーティションなど。
室内も好みのレイアウトによって発注可能。自動車電話、TV、スライディングルーフなど。
室内も好みのレイアウトによって発注可能。写真は実際に取り付けられた自動車電話、TV、キャビネット、テープレコーダー。
600/W100プルマン・リムジン。君主を迎えるに相応しい室内スペースと快適性を備え、補助席、ワインキャビネット、パーティション、スライディングルーフなど、当時考えられる限りの贅が尽くされた。
走行性能はまるでスポーツカーを凌ぐほど優れた600リムジン。強烈なエアホーンを轟かせながらアウトバーンを走行するシーンは、まさにグロッサー・メルセデスの再来。
ローマ教皇パウロ6世の600プルマン・リムジン。リアドアには特別製作の紋章入り。
ローマ教皇パウロ6世の600プルマン・リムジンに備えられたひじ掛け付きの玉座と、リアドアに特別製作された紋章(アップ)。
1966年のエリザベス2世女王のドイツ訪問時に、当時のキージンガー西ドイツ首相とともに600プルマン・ランドーレットでパレードした。
世界的に有名な指揮者ヘルベルト・フォン・カラヤン。
フランスのシャンソン歌手ミレイユ・マチュー。
梁瀬会長の600標準リムジン(左側)と600プルマン・リムジン(右側)。写真はヤナセが2019年に幕張メッセ開催のオートモビルカウンシルに出展した際の様子。

究極の威厳を体現した最高級リムジン:メルセデス・ベンツ600W10019631981

メルセデス・ベンツの歴史において、1963年登場の大型高級リムジン「600/W100」は特別な輝きを放つ。戦前の「グロッサー・メルセデス」の伝統を受け継ぎ、最高級車の概念を根本から覆したこの一台は、初任給の50年分超えという桁違いの価格にもかかわらず、ローマ教皇や各国の王室など世界のVIPを虜にした。なぜ本作は「威厳の象徴」として伝説となったのか。妥協なきエンジニアリングと特注仕様の凄みに迫る。

【画像35枚】初任給50年分超えの特注空間。ローマ教皇も愛した「600/W100」の圧倒的な威厳と豪華装備を見る
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伝説の超高級車「グロッサー・メルセデス」の再来

メルセデス・ベンツ史上、最高級リムジンの原点といえるのが、1930年代初頭に登場した770/Kグロッサー・メルセデス。7.7Lの大排気量にコンプレッサーを組み合わせた超高級車で、王室や国家元首のための車両として世界にその名を轟かせた。

1935年型の昭和天皇御料車770/グロッサー・メルセデス。ボディカラーはロイヤル・マルーンの溜色(宮内庁色)でトップとフェンダーが黒色に塗装。

1935年型の昭和天皇御料車770/グロッサー・メルセデス。ボディカラーはロイヤル・マルーンの溜色(宮内庁色)でトップとフェンダーが黒色に塗装。

日本でも昭和天皇の御料車として知られ、ドイツのヒンデンブルク大統領、スウェーデン国王グスタフ5世、エジプトのファルーク王、ブルガリア国王ボリス3世など、錚々たる人物が愛用した。その伝統を戦後に復活させたのが、1963年フランクフルト・モーターショーで発表された大型高級リムジン600/W100だ。まさに「グロッサー・メルセデスの再来」である。

1963年、最高級車の概念を覆す妥協なき設計思想

600/W100の開発でメルセデス・ベンツが目指したのは、単なる大型リムジンではなかった。乗員には最高の快適性を提供し、ドライバーにはスポーツカーに匹敵する走行性能を与えるという、当時としては極めて贅沢な思想だった。そのスタイリングを指揮したのが、デザイン部門を率いていたフリードリッヒ・ガイガーであり、ポール・ブラックが重要な役割を果たした。

メルセデス・ベンツは1963年フランクフルト・モーターショー(IAA)で大型高級リムジン600/W100を世界初公開した。写真は4ドアのプルマン・リムジン。

メルセデス・ベンツは1963年フランクフルト・モーターショー(IAA)で大型高級リムジン600/W100を世界初公開した。写真は4ドアのプルマン・リムジン。

特筆すべきは、その角張った堂々たるボディから空気抵抗が大きく見えるにもかかわらず、実際の空力性能は驚くほど優秀でCd値が0.458だったことである。比較として、同時代の230SL/W113「パゴダ」はハードトップ装着時で0.515だから、この大型高級リムジン600の空力性能がいかに優れていたかがわかる。さらに0-100km/h加速は9.7秒、最高速度は205km/h。エンジンは6332ccのM100型V型8気筒SOHC。最高出力250psを発揮し、600の巨体を205km/hまで引っ張った。

エンジンは6332ccのM100型V型8気筒SOHC。最高出力250psを発揮し、600/W100の巨体を205km/hまで引っ張った。このエンジンが1968年のスーパーセダン300SEL 6.3/W109に移植されたことは周知のとおり。

この600/W100のエンジンが1968年のスーパーセダン300SEL 6.3/W109に移植されたことは周知のとおり。

しかも、当時の大型リムジンにありがちな旧式な箱型スタイルとは一線を画していた。標準リムジンでも全長5540mm×全幅1950mm×全高1485mm、ホイールベース3200mmという堂々たるサイズでありながら、スタイリングは超モダンであった。生産はジンデルフィンゲン工場で一貫して行われ、熟練した職人の手による特別仕立ての存在であった。

航空機の油圧技術がもたらした驚異のハイドロリック・システム

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フォト=メルセデス・ベンツAG、妻谷コレクション

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